ブンデスリーガの2022-23シーズンも残すところ10試合。この時期になると、近年はバイエルンが首位を独走し、彼らの手中に優勝がほぼ収まっているなんて状況も少なくなかった。
しかし、今季はそんな様子が一変。絶対王者が変革期を迎えている影響もあってか、勝ちきれない試合が多く、思うように勝点を伸ばせていない。
そこでバイエルンの連覇を阻止すべく台頭してきたのかドルトムント、ウニオン・ベルリン、ライプツィヒ、フライブルクの4チームである。2位のドルトムントとの勝点差はわずかに「2」で、同じ勝点で並ぶ残りの3クラブとの差も「7」しかない。どのクラブにも優勝の可能性が残されており、近年稀に見る大混戦模様となっているのだ。
この4チームがブンデスリーガのクライマックスを盛り上げる。今季の優勝争いは、最後まで見逃せない戦いが続きそうだ。
絶対王者バイエルンの対抗馬はやはりドルトムント
高いキープ力と推進力を持ち、ベリンガムがドルトムントの中盤を牽引する。19歳ながら今季はキャプテンマークを託されることもあり、将来が楽しみな選手だ photo/Getty Images
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バイエルンが10連覇するなか、2位に6度、3位に2度なっているのがドルトムントで、絶対王者を止める役割を他のどのクラブよりも期待されている。第24節を終えて首位バイエルンと勝点2差となっている。得失点差では大きな差がついているが、この時期ここまで競り合っているのは近年なかったことである。
今季から指揮官を務める40歳のエディン・テルジッチは2010年にドルトムントのスタッフとなり、下部組織のコーチ、監督をはじめ、スカウトやテクニカル・ディレクターも務めてきた人物で、2020-21にはシーズン途中から監督を務めてチームを蘇生させた過去があった。そもそもドルトムント近郊の生まれで“若き生き証人”のような青年監督で、過去はもちろん近年のクラブがやってきたことを知り尽くしている。
各選手が連動したハイプレスでボールを奪い、縦に早く攻める。ユルゲン・クロップ、トーマス・トゥヘルの時代に作り上げたスタイルが踏襲されていて、やり方が継続されていることでドルトムントは新加入選手でも馴染みやすい環境となっている。とくに、今季は的確な大型補強が行われており、各選手が活躍することでバイエルンに追随している。
最終ラインにニコ・シュロッターベック、ニクラス・ズーレが加わったことで守備力が強化され、中盤ではサリフ・エズジャンがダイナモとなっている。さらに、アーリング・ハーランドが抜けた前線ではアントニー・モデストが序盤を引っ張り、その後はユスファ・ムココが力強く台頭。そのムココは第20節ブレーメン戦で負傷し、約6週間の欠場となっているが、いまは負傷から復帰したセバスティアン・アレが1トップを務めている。
さらに、冬の移籍市場で獲得したユリアン・リエルソンが早くも左右のサイドバックで出場するなど、戦力を充実させている。リエルソンは上位を争うウニオン・ベルリンでプレイしていた選手で、「良い選手はバイエルンとドルトムントに集まる」というブンデスリーガの潮流が表されている。
後方が安定したことで、“攻撃の核”であるジュード・ベリンガムの前方への推進力が発揮されるシーンが増え、これが得点力のアップにつながっている。マルコ・ロイス、ユリアン・ブラント、ドニエル・マレン、カリム・アデイェミなど2列目のサイドからゴールを狙える選手も豊富にいる。7日のCLチェルシー戦でブラントが筋肉系のトラブルで負傷交代しているが、このポジションにはジョバンニ・レイナ、ジェイミー・バイノー・ギッテンスなどもいるので十分にカバーできるだろう。
第17節マインツ戦から8連勝していた。このままの勢いで4月1日の第26節バイエルンとのアウェイゲームに競り勝ち、翌週8日の第27節ウニオン・ベルリン戦にも勝利できれば、首位に立っている可能性が高い。そして、残りは7試合となる。クラブを知り尽くした指揮官のもと、補強された選手たちがフィットし、ケガ人が出ても影響がないチームに仕上がっている。むしろ、勢いや精度を増している。バイエルンにストップをかける一番の候補は、やはりドルトムントになる。
良い守備から良い攻撃へ昨季以上の成績を狙うウニオン
昨夏にフライブルクからウニオンへ移籍したハベラー。ここまで22試合に出場して5ゴール1アシストを記録している photo/Getty Images
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3位以下のCL出場圏内にいるチームも3位ライプツィヒ(勝点45)、4位ウニオン・ベルリン(勝点45)、5位フライブルク(勝点45)と首位バイエルンに離されておらず、近年になかった上位争いとなっている。
ウニオン・ベルリンは就任5年目を迎えたスイス人監督のウルス・フィッシャーのもと[3-5-2]で戦い続け、各選手がオートマチックに連動する機能的なチームとなっている。おもに左サイドハーフを務めていたユリアン・リエルソンをドルトムントに引き抜かれたが、セルティックから右サイドバックのヨシプ・ユラノビッチを補強し、第23節ケルン戦では彼を左サイドハーフに起用して穴を埋めている。
良い守備から、良い攻撃につなげる。これを実現しているのがウニオン・ベルリンで、前方からしっかりボールを追いかけ、各選手が連動した強度の高いプレスでボールを奪う。その後の攻撃への切り替えが早く、少ないパス本数、わずかな時間でフィニッシュまで持っていく。いわゆる縦に早いサッカーで、ポゼッション率と勝敗が相関関係にないチームである。
中盤の3人、アンカーのラニ・ケディラ、インサイドハーフのヤニク・ハベラー、モアテン・トルスビーはいずれもハードワークできるタイプで、冬の移籍で加入したアイッサ・ライドゥニも含めて、ここ数年でスタイルに合った選手をしっかりと獲得している。
シェラルド・ベッカー、ジョルダン・シエバチュという身体能力の高い2トップがいる前線では、ベテランのケビン・ベーレンスが短いプレイ時間のなかで結果を残すことで存在感を増している。チームスタイルの浸透度、選手の質を考えると、バイエルンやドルトムントを抑えて一時は首位に立っていたことも頷けるチームである。
ただ、第21節から4戦勝ちなしとここにきて勝点を伸ばせていない。今後、ドルトムント、ボルシアMG、レヴァークーゼン、フライブルクといった難敵との試合も残っている。ウニオン・ベルリンが昨季の成績(5位)を上回るためには、これらのチームとの対戦で勝点を上積みできなければならない。
ローゼが蘇らせたライプツィヒと課題克服が鍵のフライブルク
ヴェルナーは今季、チェルシーから古巣ライプツィヒへ3年ぶりに復帰。慣れ親しんだ地で、ここまで7ゴール3アシストを記録している photo/Getty Images
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監督交代が奏功し、シーズン序盤の不振から短期間で復活したのがライプツィヒだ。前任者のドメニコ・テデスコ時代は3バックで戦っていたが、序盤5節を終えて1勝2分2敗と苦しみ、失点も多かった。すると、開幕わずか1ヵ月でマルコ・ローゼが新たな指揮官として招請され、4バックをベースに[4-2-2-2][4-2-3-1]で戦い、第8節から第19節まで無敗で駆け抜けて定位置である上位に食い込んでいる。
アンドレ・シウバ、クリストファー・エンクンク、ユスフ・ポウルセン、ダニ・オルモ、エミル・フォルスベリなど、もともと攻撃の駒が揃っていた。加えて、ティモ・ヴェルナーが戻ってきたのが今季で、テデスコはうまく組み合わせることができなかった。
ローゼは2列目にヴェルナー、ドミニク・ショボスライを並べ、前線にアンドレ・シウバとエンクンク(負傷後はフォルスベリ)を起用することが多く、これが攻守両面で機能している。本来はこのように誰が出場してもチーム力が低下しないのが確固たるスタイルを持つレッドブルグループの強みだったが、今季はスタート時にやや機能不全に陥っていたのである。この悪い流れを機敏に読み取ったクラブの早めの決断により、ギアをあげて後方から追いついてきたカタチになっている。
あとはいかに下位チームに取りこぼさず、第31節フライブルク、第33節バイエルンとの上位決戦を迎えられるかだろう。攻守の安定感、上位で戦う経験値では、近年ではバイエルン、ドルトムントに次ぐ実績がある。両雄が崩れたときには、ライプツィヒが頂点に立っているかもしれない。
フライブルクを率いるクリスティアン・シュトライヒは就任12年目を迎えた指揮官で、昨季は最優秀監督を受賞している。4バック、3バックを柔軟に使い分け、各選手がハードワークするしっかりと鍛えられたチームで、堂安律のように足元がうまい選手が頑張るチームとなっている。
前線、中盤からボールを奪いにいく分、最終ラインがリスクをかけてラインを高くしているのもあり、ときおり大量失点する致命的な課題を抱えている。第10節バイエルン戦に0-5、第16節ヴォルフスブルク戦に0-6、第19節ドルトムント戦に1-5である。こうした不安定さを克服することが、さらなる上位進出には必要だろう。
第24節ホッフェンハイム戦に堂安の劇的な決勝ゴールで勝利し、CL出場圏内にピタリとつけている。残り試合のなかには、バイエルン、ライプツィヒ、ウニオン・ベルリンという上位勢が含まれていて、前回大量失点で敗れているヴォルフスブルクとの対戦も残されている。厳しい戦いが多いなか、ELのユヴェントス戦、DFB杯の準々決勝のバイエルン戦まで控えている。
バイエルン、ドルトムント、ライプツィヒなどと比べると、ビッグネームが揃っているわけではない。それだけに、勝敗ももちろん大事だが、こうした痺れる試合が待ち受けているフライブルクのサポーターは、いま喜びに満ちた日々を送っているに違いない。
文/飯塚 健司
電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)279号、3月15日配信の記事より転載