いまJリーグには、若くしてチームの中心となっている若手選手が多くいる。横浜FMのMF藤田譲瑠チマ、FC東京のMF松木玖生などは、もはや欠かせない存在となっている。
彼らに追いつけ追い越せとばかりに、Jリーグでは活きのいい若手が花盛りだ。各クラブともに育成に力を入れるようになり、育成年代からスケールの大きさを見せるヤングプレイヤーたちが、次々とデビューする現状。福井太智が鳥栖からバイエルン・ミュンヘンに引き抜かれたように、いまや海外のビッグクラブからも日本の若手は注目される時代だ。今季のJリーグからも、活躍を経て世界へ羽ばたく新星が生まれるに違いない。そんな将来性あふれる若手たちのなかから、若手に詳しい元日本代表の名良橋晃氏に、今季要チェックの選手たちをピックアップしてもらった。
荒木にはゴールを期待 平岡は湘南のエンジン!
復調が期待される鹿島の荒木遼太郎。彼の得点とアシストが増えれば鹿島はもっと上位にいけるはず photo/Getty Images
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今回はJ1、J2、J3のなかから、18名の若い選手をピックアップさせていただきました。もう紹介する必要はないだろうという選手は選んでいません。いずれも、大きな可能性を感じさせてくれる選手たちです。
まずは特に注目の、3名の選手を紹介したいと思います。今回の特集ではインタビューも奪取した選手たちで、それぞれのクラブで大きな期待を背負っています。
MF荒木遼太郎(鹿島)は天才肌の一言に尽きます。ライン間でボールを受けられて、前を向いて突破し、得点もできる。狭い局面でも打開できて、まわりの選手の良さも引き出せます。昨季にケガがあり、チームスタイルに順応するところでいまは少し苦労しています。ただ、得点できる選手で、必ず結果を出せる選手です。2年目に二桁得点しているので、やはりゴールをもっと見たいですね。ゴールが期待されているのは本人も自覚しているので、そこは求めていきたいです。
MF平岡大陽(湘南)はボールを奪う力に長けています。前への推進力もあり、ゴールに向かうスピードと迫力があります。非常にアグレッシブで、U-22代表に入っている事実がポテンシャルの高さを証明しています。ダイナモにもなれるタイプで、湘南のエンジンというイメージがあります。最後のシュートかパスかのところで最善の選択ができ、ゴール前でのうまさがあります。ひとつ厳しいことを言うと、いいときと悪いときがはっきりしているので、波を極力少なくできるとより良い選手になると思います。
とにかくアグレッシブという印象なのが、FW北野颯太(C大阪)ですね。なんと言っても、ゴールに向かうスピード、迫力があります。トップスピードでドリブルをするなか、技術力をしっかりと発揮できているのもいい。C大阪U-18でプレイしていたころも知っているのですが、若くして相手の意表を突くプレイができていました。どんどん経験を積んで、自分の力でチームを勝たせるような選手になってほしいです。
FWの能力フル装備の熊田 佳史扶はもっと上にいける
3月には日本代表デビューも飾った佳史扶 photo/Getty Images
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FC東京の3人、FW熊田直紀、MF俵積田晃太、DFバングーナガンデ佳史扶もいいですね。左利きでボールが収まる熊田直紀は規格外です。また、あのシュート力は世界規模で、アクロバティックなフィニッシュをいとも簡単にやってみせます。FWとしてのすべての能力が備わっていて、U-20でも得点しています。順調に成長すればいずれはA代表という力を十分に持っています。これからは研究されてマークが厳しくなることが予想されます。そのときにどう対応するか注目しています。
俵積田晃太はスピードがあり、仕掛けることができるドリブラーです。若さを感じさせない躍動感というのかな。思い切りがあるのが特長です。右利きで左サイドの中盤でプレイしており、縦に行くとともに中央に運んでシュートという選択もあります。フィニッシュのうまさもあるので、もっとゴールに絡むことができればよりいっそう成長した選手になるでしょう。自身のプレイで観客の目を引き付けることができる貴重な選手なので、そういう良さを出し続けてほしいです。
代表でもプレイしたバングーナガンデ佳史扶は“ネクスト長友”とも言われていますが、タイプは違いますね。左利きの左SBで、スピードがあり、走力もあります。左足でのクロスの精度も高い。クレバーなタイプでもあり、アルベル・プッチ・オルトネダ監督によってその良さが引き出されていると思います。代表では三笘薫と良い関係を作れていたし、チームとしてチャレンジしていた中央への動きもあり、十分に役割を果たしていました。とはいえ、この一試合でどうこう判断するものではないでしょう。大きな伸びしろを持っているので、もっと上にいけるのではないかと期待しています。
細谷はメンタルも仕上がっている 半田は“偽SB”ができる現代型
昨季はJ1で33試合8得点とベストヤングプレイヤー賞を受賞した細谷 photo/Getty Images
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FW細谷真大(柏)にもはや説明はいらないですね。パリ五輪にU-24が出場したなら、レギュラーを務めているだろう力を持っています。スピードがあって裏に抜けられて、オフ・ザ・ボールの動きも素晴らしい。なにより、前線からの献身的な守備でハイプレスのファーストディフェンダーになってくれます。この選手の成長が、パリ五輪に向けたアジア予選を勝ち抜くためには不可欠です。
経験を経て自信を得たのか、ゴール前での怖さが増しています。チームは不調ですが、すごく大胆にプレイしていますね。今季開幕戦のホームG大阪戦では相手サポーターの目の前で涼しげにPKを決めてみせました。なんかいいですね。細谷真大からは、メンタルの強さも仕上がっているなと感じます。
MF三戸舜介(新潟)は仕掛けられるタイプで、ドリブルができてチャンスメイクもできます。プレイスタイルが新潟の特長にマッチしていますね。ハードワークもできるようになり、守備力もすごく向上しています。プロ一年目にアルベルト・プッチ・オルトネダ監督がいたのが大きかったですね。いまのFC東京もそうですが、この三戸舜介をはじめ、慧眼に見出された若い選手が新潟にも複数います。ゴール前に突っ込む迫力が出てくると、より進化したサイドアタッカーになれると思います。もっと大胆にプレイすると、いまは隠れている良さがいっそう出てくるかもしれません。
先日の代表戦でもぜひプレイしてほしかったのが、DF半田陸(G大阪)です。もともとCBでしたがSBへコンバートされ、山形のアタッキングフットボールをサイドから支えていました。偽SBの動きができて、ゴール前に侵入できる。現代型のSBですね。長い距離を走れるし、スプリント力もある。プレイを見ていると、戦術理解度も高いなと感じます。ただ今季のG大阪はダニエル・ポヤトス監督を迎えて、プレイモデルが変化しています。そのなかで、まだ良さを発揮できていないです。5節札幌戦でJ1初アシストを記録したように、半田陸は得点に絡める選手です。こんなものではなく、もっとできる印象があります。
DF中野伸哉(鳥栖)はホントに器用で、若いころから普通にトップでプレイしていました。守備のポジションならどこでもこなすポリバレントさがあり、監督としてはすごく有難い。スピードがあり、両足のキック精度も高い。加えて、賢いですね。しっかりと予測ができていて、ポジショニングがよくカバーリング能力に長けています。こうした能力を武器に、いつ世界に出てもおかしくないです。厳しい指摘をするなら、守備のときに少し軽いプレイをするときがあります。そうした部分をなくしていけば、世界の強豪とも戦える選手です。
柴山は左足で違いを作れる 平河のスピードはまさに武器
プロ1年目の平河は町田で開幕戦から連続出場を続け、2ゴールを記録している photo/©FCMZ
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ここからは、J2の選手を紹介します。DF岡本一真は前橋育英高から群馬に加入し、初年度の昨季途中からポジションを掴んで試合に出ています。群馬は可変式システムで戦っていて、この戦術にマッチしています。守備時は4バックの右SBを務めていますが、攻撃時はグッと前に出てきます。持ち前の走力でサイドバックからウイングバックになり、精度の高いクロスを見せます。個人的に、この選手はいずれJ1でプレイするだろうなと思っています。
左利きで“違い”を作れるのが、MF柴山昌也(大宮)です。ドリブルのうまさがあり、キックの精度が高い。どっしりしているタイプで体幹が強く、アジリティにも優れています。相馬直樹監督のもと守備力も磨いたなら、攻守でより計算できる選手になると思います。いまは左サイドでプレイしていますが、U-18では右サイドを務めていました。カットインからのシュートも魅力なので、ゆくゆくはそうしたプレイも見られるかもしれません。
FW平河悠(町田)を一言で紹介するなら、スピードスターです。相手を置き去りにするスピードを今季すでに何度も見せています。1対1になったらちょっと止めようがありません。なおかつ、得点も決めています。あのスピードはまさに“武器”ですね。過去2年間、山梨学院大に在籍しながら町田の特別指定でJ2を経験しており、慣れているなとも感じます。監督、選手が変わっても、ほぼスタメンで出場している事実が能力の高さを証明しています。このままチームがJ1に昇格できればいいですが、こればかりはわかりません。もし逃しても、個人昇格が十分に考えられる選手です。
千葉は生粋のストライカー 弓場は大分の“シンボル”
昨季、今治での終盤戦の活躍が圧巻だった千葉 photo/©TOKUSHIMA
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FW坂本一彩(岡山)はU-20アジアカップに参加し、ゴールも奪っています。G大阪ユース時代にプレミアWESTで得点王になったように、ゴール前のプレイに迫力があり、得点感覚があります。なおかつ、ドリブルのうまさもある。ガムシャラさもあり、期限付き移籍中の岡山で木山隆之監督にこうした持ち味を引き出してもらっています。磐田との開幕戦でニアハイにぶち込んだシュートは強烈でした。コンビを組む櫻川ソロモンも若く、連携次第でこの2トップは躍動するかもしれません。坂本一彩はキッカケひとつで一気に跳ねるポテンシャルを持っていると思います。
FW千葉寛汰(徳島)は生粋のストライカーです。PA内で仕事ができる選手で、サイドからのクロスに合わせるのがとにかくうまい。こちらは清水ユースのときにプレミアEASTで得点王になっていて、昨季は期限付き移籍したJ3今治で22試合12得点でした。鋭い得点感覚を待つことに疑いの余地はありません。周りに良さを引き出してもらう選手だと思うのですが、今季から加入した徳島では苦労していますね。質の高い選手が揃っているチームなので、きっと千葉寛汰の得点力が生かされる組み合わせがみつかると思います。なんとか結果を出して、U-20W杯を戦うメンバーに選ばれてほしいですね。
大分のアカデミー出身でチームの“シンボル”と言えば、MF弓場将輝です。左利きで走力があり、ボールを奪う力がある。さらに、前に運ぶこともできる。ボックス・トゥ・ボックスのタイプで、今季から背番号6をつけてチームの中心としてプレイしています。パリ五輪、さらにはその上にいける実力があります。球際も際立っています。あとは組み立てのところ……いやそういう指摘は止めておきましょう。個人的な考えですが、弓場将輝はいろいろなことをやろうと色気を出さずに、ボックス・トゥ・ボックスの良さを出したほうがいいです。それが持ち味であり、いろいろ考えると良さが出なくなってしまうかもしれません。
J3からは2名を紹介させてください。
今季、MF窪田稜(岐阜)が素晴らしいプレイを見せています。両サイドを器用にこなすウイングで、スピードがあります。守備でも献身的です。まだ粗削りですが、あの鋭くてスピードがあるドリブルはホントに魅力です。完成されていない選手なので、今季から指揮を執る上野優作監督に良さを引き出してもらい、大きく成長してほしいです。
何試合か見て強く印象に残ったのが、MF森田凜(琉球)です。パスセンスに優れ、中盤からパス1本で局面を打開できる。加えて、足元のうまさもあって戦える。可能性しか感じない選手です。倉貫一毅監督とは徳島ユースで一緒にやっていたので、引っ張られたのでしょう。それだけ信頼を得ているのだと思います。ボランチでダイナミックにプレイできるタイプで、球際にも厳しくいっていました。なにより、金髪ですごく存在感がある選手です。
ここに紹介した18人に限らず、若手全員に共通して言えるのは若いうちはチームのためにというより、自分の特長をどんどん出してほしいということです。若いころの私がそうでした。それぞれ良い武器を持っていると思うので、短所の克服よりは、長所を伸ばすことに努めてほしいです。私を含めて、見ている人をワクワクさせてください。
構成/飯塚 健司
電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)280号、4月15日配信の記事より転載