川井監督に見えた“なにかひとつ変わった10分間”とは ゲームのなかで最適解を見出した鳥栖

鳥栖は今季3勝目(画像はイメージ) photo/Getty Images

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京都2-3鳥栖

 アウェイの鳥栖、昨年は降格候補の下馬評を覆す活躍を見せ、11位でフィニッシュ。しかし今年はここまで2勝2分4敗と厳しい戦いが続いていた。プロビンチャの宿命だろう、シーズン前にジエゴ、小泉慶、宮代大聖という3人の主力が引き抜かれた。新しいメンバーで昨年構築したものを再構築する過程にある。

 相手の京都は現在公式戦2連勝中と好調。特に前線からの激しいプレッシャーが持ち味で、もし鳥栖がその網に掛かってしまったら、それは失点に直結する。実際試合序盤の戦いは京都のプレッシングが鳥栖を圧倒した。

 いや筆者の目には圧倒したように見えた。しかし鳥栖の川井監督はまったく違った印象を持っていたようだ。
「最初の10分が非常に良かったです。いくつもピンチがありましたが、間違いなくなにかひとつ変わったなというのがありました。あの10分間は、僕はかなり好きな10分間でしたね」

 禅問答のようだったが、川井監督による嚙み砕いた説明は次のようなものだった。

「(最初の10分は)ミスばかりでした。ただ、その中でやりながら何が京都に対していいのかを模索しながら葛藤し、もがき、そしてスペースを見つけ出しました。勿論試合前からできればいいんですが、人間のやることなので。そういう自分たちが判断をすることが非常に良かったなと思います。この1勝は非常に大きくなるんじゃないかなと思います」

 相手の猛烈なプレスの網をいかに搔い潜るのか? ひるまず普段からやっていることを実行する意思を示し、誰かがミスをおかしてもそれを全員でカバーする。そして再度トライし、同時に相手のウィークポイントを見つけ、その穴を突く。その一連のトライ&エラーに川井監督は選手の成長を感じたという。

「少し細かく言えば、あれだけ短いパスを意識していて、実際に点を取ったのは少し違う形からでした。それは目先を変えさせたという意味では、良いジャブを与えていたと思います。そういう意味で、あの10分がこの勝負の勝ちを決めたのかなと思っています」

 チームを牽引したFW小野は自分自身の役割を説明しながら、チームのゲーム内での変化を次のように語ってくれた。

「札幌とルヴァンを戦った時は自分が(2トップの一角で)動き回っていい形を作れました。ただ今日は1トップでゴールを奪うためにポジションに気を付けなくてはいけないなと思っていました。なかなかリズムが自分もチームも出ない中で、もう少し自由に動かしてもらうように話をして、そこからいい感じにボールが運べるようになりました」

「相手のCBがあまり出てこなくて、そこでボールを受けられればサイドに(岩崎)悠人もいて、推進力があります。僕が前で頑張るというより、彼らにスペースを与えて、そこを使ってもらう方がいいかなと思い、動き方を変え、それを早い時間帯でできたのでそこが自分たちの中でもよかったと思います。シチュエーションに対応していくという。普段ならもっと細かくつなぐんですが、今日は相手のSBがそれほど大きくないという情報もありましたし、相手の嫌なことをどんどんしていこうと話していました。その意思疎通ができていたと思います」

 序盤に押し込まれた展開の中で相手のストロング、ウィークを分析し、そこから自分たちの意思で変化を生み出す力。それがこの試合の鳥栖にはあったということだろう。

 小野は1ゴール1アシストの大活躍を見せ、チームを勝利へと導いた。同時に自身のJ1通算200試合出場を、チームのJ1通算450ゴールで自ら祝うことになった。「(移籍した中でも)長くプレイしている鳥栖で200試合を迎え、得点できて勝てたことは思い出になる」と喜んだ。

 サッカーはピッチに立つ選手が自ら判断し、最適解を見つけていくスポーツ。この試合の鳥栖は自ら変化し、その最適解を見つけ出すことに成功した。次はシーズンを通じてそれを見出すことだ。

 文/吉村 憲文

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