[特集/カルチョの逆襲 02]圧倒的攻撃力が止まらない! スパレッティ・ナポリ、今季最強の理由

 今季のイタリアクラブの躍進を語るとき、絶対に外せないのがナポリだ。リーグではついに1989-90シーズン以来、33年ぶりのスクデット(セリエA優勝)を獲得。内容も圧倒的で、第6節スペツィア戦以降ただの一度も首位の座を明け渡していない。シーズン前半にはクラブ記録となるリーグ11連勝を達成し、W杯中断明けの第16節インテル戦に敗れるまで無敗を維持。そして優勝を決めた第33節まで、わずか3敗。今季はイングランドでのアーセナルの快進撃が注目されていたが、それ以上の結果を残していたのがナポリなのだ。

 今季のナポリの脅威は国内だけにとどまらなかった。CLでは結果的にベスト8で姿を消すことになったが、グループステージではリヴァプールやアヤックスと同居しながらも堂々の首位通過。その戦いぶりから優勝候補との声もあり、“イタリアにナポリあり”を大きく印象付けるシーズンとなった。特筆すべきは、これまでの主力が抜け、1から作り直した状態でこの成績を挙げたこと。つまりナポリの真価はこれからで、イタリア復権の筆頭格は間違いなく彼らとなるだろう。

新戦力の躍動と後釜の台頭で主力たちの退団をカバー

新戦力の躍動と後釜の台頭で主力たちの退団をカバー

今季躍進したナポリの原動力となったクワラツヘリア(左)とオシムヘン(右) photo/Getty Images

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 ナポリは2021-22シーズンのセリエAを3位で終えたあと、昨年夏の移籍市場は微妙だった。……というより、完全に不評だった。

 長年守備を支えたカリドゥ・クリバリがチェルシーへ移籍し、主将を務めていたロレンツォ・インシーニェとドリース・メルテンスも退団。中盤のカギだったファビアン・ルイスもパリ・サンジェルマンへ移籍した。

 かわりにやってきたのが実績に乏しい面々だったことは、より不安を増幅させた。だが、クヴィチャ・クワラツヘリアやキム・ミンジェの活躍は、ご存じの通りだ。
 クワラツヘリアはすぐにファンのアイドルになった。セリエA開幕2試合で3ゴール1アシストと最高のスタートを切ったほぼ無名のジョージア人は、相手が対策を講じ始めてからも持ち味を存分に発揮。左サイドからの鋭いカットインで何度も違いを生み出し、多くのゴールに関与した。その活躍でついたニックネームは「クワラドーナ」。ナポリの永遠のアイドルであるディエゴ・マラドーナをもじって、最大級の賛辞を送った。

 韓国代表のキム・ミンジェは、クワラツヘリア以上の驚きだったかもしれない。クリバリの穴はそう簡単に埋まらないというのが共通見解だったが、それを覆した。周囲から見ればかなりリスキーな補強だったが、結果はこの通り。優勝が決まったあと、元ミランのアレッサンドロ・コスタクルタはテレビ番組で、「素晴らしいスピードと読みのセンス。前の選手と同様、いやそれ以上に重大な意味を持つ補強だった」と絶賛した。

 大黒柱は、FWビクター・オシムヘンだ。2020年にリールからやってきたナイジェリア代表FWは、これまでもすでにナポリの得点源だったが、今季はここまでリーグ戦で23ゴールを決めて得点ランキング首位を快走中。185cmの長身に加えてジャンプ力も抜群で、空中戦はまさに無双状態。ターゲットであり、フィニッシャーであり、攻撃の目的地だった。

 選手個々の活躍を引き出したルチアーノ・スパレッティ監督は、イタリアで最も賛辞を集めている指揮官だ。夏にスケールダウンしたが、その中で最適な戦術を練り、すぐにチームに落とし込んでスタートダッシュ。選手たちに勝ち続ける中で自信が生まれ、優勝まで駆け抜けた。

 特徴的だったのは、スペクタクルを提供しつつ、選手個々も成長させたことだろう。象徴的なのはMFのスタニスラフ・ロボツカだ。2020年に加入したロボツカは、当時からビルドアップ能力が評価されていたが、ファビアン・ルイスがいたこともあってベンチスタートが多かった。それが今季は圧倒的な中心選手に変貌。彼がボールをさばくときにナポリの攻撃が動き出し、そのコントロールがあまりに見事だった。

完成度の高い可変システム クワラツヘリアの存在も大きい

完成度の高い可変システム クワラツヘリアの存在も大きい

クワラツヘリアはナポリ加入1年目からゴールとアシストを量産 photo/Getty Images

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 スパレッティ監督の基本システムは[4-3-3]。攻撃時に[2-3-2-3]、もしくは[2-1-4-3]の形を取り、守備時は[4-1-4-1]がベースだ。いまの時代に可変システムそのものは珍しくないが、完成度が非常に高い。

 ナポリも現代サッカーの風潮どおり、最後方から攻撃を組み立てるチーム。センターバックの2人のうちどちらかが、下がってきたレジスタにボールを預けるところから始まり、ロボツカがこのボールを調理。すでに高い位置を取っている両サイドバックを経由する形が軸だ。サイドバックに出すとインサイドハーフとウイングとトライアングルができる。そこにもう1人のFWかセンターバックが顔を出すと数的優位が生まれて、チャンスの糸口とした。ダメならロボツカからつくり直し、これを繰り返していく。

 一辺倒にならないことが、ナポリの強み。ロボツカは隙があれば縦にパスを打ち込むことができるため、相手としてはまずそこを警戒する必要がある。だからこそ、その一歩手前に渡すことは容易になる。ビルドアップについても同じで、基本はロボツカ経由になるとしても、一気にオシムヘンという選択肢があるため、相手としては的を絞りきれない。

 それでも、スパレッティ監督は2021-22シーズンもチームを率いており、突然の飛躍の理由にはならない。そこはやはり、クワラツヘリアの存在が大きい。

 ナポリは攻撃時にピッチをワイドに使う。左サイドまで運んだとき、クワラツヘリアが良い状態で1対1に挑めることが狙いだ。この局地戦での勝率が高いため、決定機を多くつくることができる。カットインを得意とするが、両利きと言えるほど左右両方の足を遜色なく使いこなすため、それを囮にして縦に仕掛けることも。バイタルエリアでピオトル・ジエリンスキが絡んでくるとさらに選択肢が増え、相手はもう崩壊したも同然だ。

 ジエリンスキの飛び出しのセンスは突出している。11月のエンポリ戦で決めたゴールはナポリの速攻の理想的な形だった。カウンターでイルビング・ロサーノが右からクロスを入れると、中央にオシムヘンが、反対サイドからクワラツヘリアが飛び込む形だった。相手の守備はこの2人につくが、オシムヘンを越えたボールに合わせたのが2列目からひょっこり顔を出したジエリンスキで、鮮やかに前線のプラスアルファになった。

 守備面は、年齢を重ねた主力選手との別れでフレッシュになり運動量の面でパワーアップ。これにフォーカスしたスパレッティ監督は、相手のビルドアップに激しいプレスをかけて、起点を封じた。サイドバックにロングボールを蹴らせれば勝ちという守りで、レジスタに入れさせないことを重視し、後ろの負担を軽減している。

欧州舞台でもゴールを量産 リヴァプールにも快勝

欧州舞台でもゴールを量産 リヴァプールにも快勝

シメオネのゴールなどで前半だけで3ゴールを奪い、リヴァプールを相手に4-1の快勝を収めた(CL・GS第1節) photo/Getty Images

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 セリエAで独走したナポリの強さは、イタリア国内だけのものではない。このナポリがヨーロッパの舞台でも戦い抜けることは実証済みだ。チャンピオンズリーグ初戦でリヴァプールに4-1で勝利したことは、多くの人を驚かせ、ナポリの選手も自分たちのサッカーに確信を持った瞬間だっただろう。

 リヴァプール戦でつけた自信はその後の躍進につながっている。リヴァプールのほか、アヤックス、レンジャーズと同居したグループステージでは5勝1敗で勝ち点15を稼ぎ、リヴァプールを抑えて首位通過。6試合でグループステージ最多の20ゴールを挙げた。決勝トーナメントにたどり着いた頃には評判が十分高まっており、ベスト16で対戦したフランクフルトは2戦合計5-0で寄せつけず。準々決勝に駒を進めている。

 準々決勝の組み合わせ抽選の前、レアル・マドリードのイタリア人指揮官カルロ・アンチェロッティは、ナポリについて、「彼らはリーグ戦で素晴らしい。ここまできた8チームはどこも非常に強いが、(セリエAで2位と勝ち点18差あるため)チャンピオンズリーグに集中できることは大きなアドバンテージだ」と話し、特に警戒していた。それほどナポリはヨーロッパでも見逃せない存在となっていた。

 ビッグクラブがまだ手をつけていない優秀な若手を連れてきた首脳陣。選手の特性を見極めて正しい仕事を与えた指揮官。そしてそれに応えてさらに進化していった選手たち。ナポリの歓喜は、クラブ全体の並外れた仕事の上にできあがった傑作だ。

 この武器がどのように磨かれていくのか。その切れ味が再びヨーロッパの強豪に恐怖を与えるのか。いまから今後のさらなる成長が楽しみで仕方がない。

 文/伊藤 敬佑


電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)281号、5月15日配信の記事より転載

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