チケットは前売りで完売。ヨドコウ桜スタジアムとしては過去最多の2万2542人の観客を集めた。イニエスタの退団カウントダウンという条件が重なったことは否定できないが、そのイニエスタがベンチを外れたことを誰も不満に思わないほど試合は白熱したものになった。
ピッチ内では激しいバトルが繰り広げられ、90分の攻防は双方が持ち味を出し切った戦いになった。最後はミスが明暗を分けたが、選手は持ち味を出し切った。そこで両チームの選手の声をできるだけ拾い集めてみた。
まずは先制点のヘディングシュートを決めたC大阪のジョルディ・クルークスから。
「先週ケガをしてしまい、そこから復帰するのに1週間かかってしまった。メディカルスタッフのおかげで復帰でき、点を決められたのが嬉しい。今後継続していかなくてはいけないと思っている。今日は完璧だった。素晴らしいゲームになったと思う」
豊富なスタミナを武器に、中盤のかじ取りをした神戸の斎藤。
「チャンスは多くあった。それをやり切るのが神戸だと思う。相手が引き込んでいるからこそ、相手がクリアしたボールを跳ね返して前にいくんではなく、後半は落ち着かせていくシーンをもう少し増やしても良かったかな」
「(相手の攻撃を)脅威に感じたわけではない。前から僕たちがいって、香川選手や奥埜選手だったりがフリーで前を向くようなシーンが多かったわけでもない。それよりうちのミスでチャンスを作られてしまった」
「上で戦えているのはメチャメチャポジティブなこと。1試合少ない中で勝ち点3差。順位を気にするのは最後でいい」
復帰戦となった神戸の酒井はかなり苦労したようだ。
「1カ月(サッカーを)しなかったのは人生初。ほぼ練習もしていなかったので、前半丸々試合勘を取り戻すのに苦労しました」
「(対面のカピシャーバは)1カ月のブランクにしてはレベルの高い相手だったと思う。前を向かせなければ、そこまで怖くない選手かなと思ったが、思ったよりも体の使い方が上手で。セカンドボールを拾うのは得意なほうなので、相手の体の状態とか、ボールの軌道とかを読んで取りにいくが、結構上手に間に体を入れてきて、入れ替わったりしていたので、普通にすごく良い選手だったなという印象」
「正直チームを見ている余裕はなかった。試合に入るために落ち着こう、落ち着こうと。イエローなど自分らしくない部分もあった。自分のところで大きな失敗をしないようにしようというか。試合の空気に慣れようとした」
「自分を含めて感じたのは相手が割り切って侵入させている感じがあったこと。そこでクロスとか、仕掛けのボールが早すぎて相手に拾われた。2次3次攻撃ができずに入れ替わって起点を作らせてしまいました。押し込んだ時にボランチや逆サイドのSB、CBがいい状態を作って攻撃しても良かったかな。前半はそれがうまくいかず、後半は少しずつ回収できるようになった。もう少し厚みを出すための1,2回クッションを入れても良かった」
キャプテンマークを巻いてチームを最後まで鼓舞し続けた香川は、前節の名古屋戦からの学びが大きかったという。
「自分たちが戦い続けたからだと思う。(名古屋戦は)悔しい思いで、同じことを繰り返してはいけないと。後半は先制してすぐに返されて30分は苦しい試合だった。あそこで崩れずに最後まで食らいついて戦い続けたからこそ、ああいう結果につながりました」
「(神戸は)個人の能力は観ての通り抜けているチーム。その中でも必ず隙はあると話していた。ホームだから恐れずに戦ったことが、いい内容のゲームができたことにつながった」
キム・ジンヒョンがメンバーを外れたことで出番が回ってきたヤン・ハンビンは「今日の試合は神戸に勝ちたいというみんなの気持ちが最後の追加点につながったと思う。神戸の前からのプレスがきついので、そこは下手につながず、シンプルにすることを心がけた」と冷静に振り返った。
そしてビッグセーブも見せたものの最後の最後に大きなミスを犯してしまった神戸GK前川。
「試合通して(ピッチが)スリッピーだったが、1-1で引き分け(狙い)で簡単にクリアするより、胸でトラップして前線に蹴って少しでもチャンスを作れたならと思いました。こういう時こそ、顔を下げて最後に行くというよりも、一番初めに行って、サポーターの方々に今日はすいませんということを伝えたかった。でも、まだまだ試合は続くし、切り替えてやっていきたい」
「ああいうプレイで臆病になると、僕自身の良さも消えると思うので、これからももっとチームを救えるようにチャレンジしていきたいと思う」
「ディフェンスラインの背後のカバーなど、貢献もできていた。リスクは付き物なので恐れずにやっていくことが自分の強みだし、チームを助けられると思います」
しっかり前を向いて話す姿が印象的だった。
最後はATに決勝ゴールを決めた北野。
「興奮してあまり覚えてません(笑)。ムツくん(加藤)がGKにプレスにいってくれて、GKも難しい処理だったと思う。ムツくんを外して、その次のことを考えるのに精一杯だったと思う。(自陣から)ボールが出た瞬間に難しいボールだと思ったので、信じて走ったら、相手のミスってくれた。ゴールも見えたので流し込むだけでした」
「苦しい時期ではあったし、小菊監督とも代表から帰ってきて何回も話した。期待されていたぶん、自分自身も苦しい時間を過ごしていた。それでも信じて使い続けてくれた監督、ゴールを待ち望んでいてくれたサポーターの期待にやっと応えられた気持ちが強いです」
「首位の神戸、最高の雰囲気の中でというのもありますが、苦しい時間を過ごしたけどこの舞台で決められて忘れられないと思います」
将来を嘱望されながら、J1でのゴールはこの試合が初めて。試合後も出場時間が少ないためにピッチで練習をしていたという。これが飛躍のきっかけにしなくてはならない。
選手の思いは様々ではあるが、熱戦の興奮がスタジアムを包み、サッカーのおもしろさ、そして怖さを感じさせた試合だった。
文/吉村 憲文