CL決勝でインテルを倒し、欧州の頂点に立ったマンチェスター・シティ。プレミアリーグのタイトルは幾度も獲ってきたが、3冠となると並大抵ではない。指揮官ペップ・グアルディオラは妥協のない理想のチームを作り上げるために幾年にもわたり取り組んできたが、ついに報われることになった。
ペップ・シティのスタイルはポジショナル・フットボールと呼ばれる。各選手が数的優位をとれる適切なポジションをとり、連携して動くことで複数のパスコースとスペースを常に作り出す。現代サッカーのロジックを極限まで突き詰めたものだ。
だが、そのペップの理想を実現するには高い足もとの技術、正確性、戦術理解、それを継続して実行できる献身性を備えていなければならない。そのために常に選手の入れ替えは行われ、適応できない選手は容赦なく切られてきた。ペップ就任最初の16-17シーズンに、リーグ屈指のシュートストッパーだったGKジョー・ハートを切り捨て、足でボールを扱えるクラウディオ・ブラボを迎えたことがあったが、ときに冷酷にも思えるほど選手の質にこだわるのがペップだ。
時間をかけてDFジョン・ストーンズ、MFベルナルド・シウバ、GKエデルソン、DFルベン・ディアスら現在のコアメンバーを揃えていったが、どうしても埋まらないのがセルヒオ・アグエロに代わる点取り屋の存在だった。昨季はそれを逆手に取り、MFケビン・デ・ブライネやMFフィル・フォーデンをゼロトップ的に起用して変幻自在の攻撃を見せた。しかし、CL準決勝のレアル・マドリード戦やシーズンダブルを喰らったプレミアのトッテナム戦など1点に泣いた試合も多く、多少強引にでも点を取れる純粋な点取り屋は待望されていたのだ。そんな期待を背負って、ついに獲得されたのがFWアーリング・ハーランドだ。
また、守備要員としてDFマヌエル・アカンジをハーランドとともにドルトムントから獲得した。チームに流動性をもたらしていたガブリエウ・ジェズスやオレクサンドル・ジンチェンコをアーセナルへと放出したが、ペップが叩き込んだポジショナルプレイはチームに浸透しており、結果的に彼らの不在がネガティヴな効果をもたらすことはなかった。他にも昨季から加入が決定していたアルゼンチン代表FWフリアン・アルバレスもチームに合流し、ついにシティはベンチメンバーにまで穴のない完璧な布陣を手に入れたといっていい。
ハーランドの存在は、まさに昨季のシティに足りなかったラストピースというにふさわしい。前線に194cmの大きなターゲットができたことで、シティは単純にハーランドにボールを集めるだけでも勝てるようになった。ハーランドは第1節ウェストハム戦で挨拶代わりの2ゴールを叩き込むと、第3節ニューカッスル戦から第10節サウサンプトン戦まで7戦連続ゴール、3度のハットトリックを含む13ゴールを荒稼ぎするという離れ業をやってのける。特に、第9節のマンチェスター・ダービーではハットトリック+2アシストという鳥肌ものの躍動でライバルを完全に叩きのめし、その怪物ぶりをあらためて知らしめた。
「ハーランドを見ていると、ズラタン(・イブラヒモビッチ)のようなゴールも、(クリスティアーノ・)ロナウドのようなゴールもある。トップ・オブ・トップのストライカーが一堂に会している。だから危険なんだ。トップストライカーたちが1人になったような、本当に贅沢な選手だ」
元ユナイテッドのGKピーター・シュマイケルの言葉だ。宿敵も認めざるを得ない、そんな圧倒的なパワーがハーランドには備わっていた。結果、プレミアでシーズン36ゴールという金字塔を打ち立て、アンディ・コールとアラン・シアラーの記録を塗り替えるまでに至っている。
ハーランドにボールを集めてゴールラッシュ。これをシーズン初めは戦術の退化ととらえる向きもあったが、やがてそれは間違いであることが証明される。よい例がCL準決勝のレアル戦だ。昨季の雪辱をどうしても晴らしたい相手だったが、1stレグではハーランドへの楔を徹底的に潰され、どうにかデ・ブライネのゴールで追いついたもののシュート10本、1-1のドローという不本意な結果に終わる。
だが続いた2ndレグで、ペップはまったく同じスタメンながらも戦い方をガラリと変えてきた。ハーランドへの楔を狙わず、サイド攻撃に人数をかける。ハーランドはボールと逆のサイドへと逃げるように動き、マークについたCBを釣りだした。その結果、レアルの最終ラインは横に間延びし、空いたスペースをストーンズやベルナルドが突くことでシティは好機を生み出せるようになった。先制点もまさにこのカタチから生まれており、間延びした最終ラインの裏を狙ってデ・ブライネがハーフスペースのベルナルドへスルーパス。ベルナルドはそれをニアへ打ち込んで決定的な1点をもぎとっており、それが4-0のゴールラッシュにつながっている。ハーランドはこの試合ではゴールもアシストも決めていないが、囮の役割を完遂することでチームへの貢献を果たしたのだ。
また、得点力があり、固め打ちもできるため格下相手には早めに勝負をつけることもできる。複数コンペティションを戦うシティのようなチームにとって、余力をもって試合を終わらせることができるのは大きなアドバンテージであり、シーズンを息切れなく戦うためにもハーランドの獲得はきわめて重要だったということができる。
強引に得点することも、ポジショナルプレイの鉄則にのっとってチームと連動することもお手の物。ハーランドの加入によって、ペップが追い求めた理想のポジショナル・フットボールはついに完成したのだ。