[特集/新生日本代表へ3つの提言 02]得点パターンが違う2人の才能を徹底分析 新エースFWは上田綺世か古橋亨梧か

 5大リーグではないとはいえ、欧州を舞台に1シーズンで20ゴール以上を奪う大活躍。所属クラブで結果を残し、今夏の移籍市場でも評価がうなぎ登りな上田綺世と古橋亨梧が、第二次森保ジャパンの新エースFWとして名乗りを挙げた。

 これほど欧州でゴールを量産した日本人FWが、かつていただろうか。ともに代表での経験や実績こそまだまだ乏しいが、長年日本の課題と言われ続けてきた「決定力不足」の解消へ向けて、FW陣への期待が最高潮となっているにちがいない。

 日本代表では、長らくCFのポジションが課題だと言われてきた。しかし森保政権2季目にして、最前線の人選がいよいよ面白いことになってきた。

特長が異なる上田と古橋 所属クラブでゴールを量産

特長が異なる上田と古橋 所属クラブでゴールを量産

日本代表の新エースFWとして期待される上田と古橋 photo/Getty Images

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 センターフォワード(CF)はよほど絶対的な存在でもないかぎり、入れ替わりが起こりやすいポジションだ。数字(得点)が評価に直結するわかりやさがあるかわりに、そのときの調子によって左右されがちで、ワールドカップ本大会でもそれまでのエースが外れ、新エース誕生というケースはこれまで何回もあった。

 古くは1990年イタリア大会でサルバトーレ・スキラッチが大会中にジャンルカ・ビアリからレギュラーを奪い、大会得点王になった。1958年にブラジル代表が初優勝しているが、17歳のペレが抜擢されたのは3試合目からである。先のカタール大会では、アルゼンチン代表のCFが最終的にラウタロ・マルティネスからフリアン・アルバレスに変わっている。大会中の出来事ではあるが、このようにエースストライカーの評価は変わりやすい。ゴールという結果を出さなければならないポジションだからだ。

 現在の日本代表でエースの座を争うのは上田綺世、古橋亨梧の2人だろう。ともに昨季はそれぞれの所属クラブで得点を量産し、結果を出しているストライカーでもある。上田はサークル・ブルージュで40試合に出場して22ゴール、ベルギーリーグで2位の得点数だった。古橋はリーグ戦36試合27ゴールでスコットランドリーグ得点王。欧州主要リーグでも最多得点であり、セルティックの国内三冠に貢献、MVPなど個人賞を総なめにした。
 実績十分の2人だが、プレイの特長は違っている。

 上田は身長182㎝、ここ数年で体格がひとまわり大きくなった印象でパワフルなプレイが持ち味だ。6月のエルサルバドル代表戦で先発してPKから1得点。44分には高いジャンプで縦パスを収めてつなぐ圧巻のポストプレイを披露している。ここから堂安律の4点目につながった。プルアウェイでパスを引き出す動きの上手さがあり、足でも頭でも無理な体勢からでも力強いシュートを打てる。CFらしいCFだ。

 古橋は170㎝と小柄なFWだが、俊敏さと得点感覚が図抜けている。ヴィッセル神戸でプレイしていたころ、ボランチのセルジ・サンペールから古橋へというホットラインがあった。フィールドのど真ん中からのミドルレンジのパスで裏をとるシーンなどプロの試合ではなかなか見られないものだ。パスの精度もあるが、それ以上に受け手の古橋の力量が並外れていた。味方とのタイミングを計り、オフサイドにならない飛び出し、なおかつDFを振り切るスピード。この3つが瞬間的に揃わないと成立しない。

 セルティックではクロスボールから得点を積み重ねた。ボールが入ってくる瞬間にマークを外すタイミング、瞬間的な速さはここでも威力を発揮。もともとウイングやトップ下もできる器用さと技術の高さもある。上田と交代したエルサルバドル戦では相馬勇紀のクロスボールに絶妙のタイミングでDFの間に入ってヘディングで決めている。

現状の得点力では古橋 ただ、チームとの相性次第か

現状の得点力では古橋 ただ、チームとの相性次第か

空中戦も得意な上田。3月のコロンビア戦では超高打点のヘディングで相手のゴールを脅かすシーンがあった photo/Getty Images

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 得点に限定すれば、古橋が上田をリードしていると思う。現在の日本代表の武器がサイドアタックだからだ。

 三笘薫、伊東純也の両サイドからの攻撃が強力で、クロスボールは主要なアプローチになっている。横からのボールを得点に変換することにおいて、古橋は世界的にもハイレベルな能力を持っている。サイドアタックとの相性がいい。

 ただ、上田は古橋にはないポストプレイという特長がある。試合展開が劣勢となり、押し込まれたときに、そこから反撃できるかどうかはトップにボールが収まるかどうかに左右される。ボール保持力に優れた相手と対戦したとき、得点の前に攻撃できるかどうかという問題があるわけで、ポストプレイヤーの存在はかなり重要になると想定される。

 ウイングが堂安や久保建英の場合、カットインからのスルーパスというアプローチが多くなる。上田はそのときにマークを外してパスを引き出すのが上手い。コパ・アメリカで代表デビューしたときから久保との相性は良かった。久保か鎌田大地がトップ下としてプレイするなら、ラストパスを引き出せる上田との組み合わせは効果的だ。

 古橋と上田はともにゴールゲッターだが特長は違う。対戦相手や想定される試合展開によって使い分けるという手はあるかもしれない。さらに前田大然、浅野拓磨もいる。この2人は上田とも古橋ともまた違う特長がある。

 前田、浅野の武器はスプリント。当たり負けしないパワーと運動量も兼ね備え、前線からのプレッシングでは上田、古橋を上回る。とくに前田のDFやGKへのプレスは、その予想外の速さにしばしば相手はパニックになっていて、ハイプレスという守備を攻撃に直結させられる特異なFWだ。

 ストライカーはいわば水物のポジションなので、そのときに調子のいい選手が起用される傾向がある。日本代表のCFはまだ確定されておらず、この先も競争は続くだろうし、新たな選手が台頭してくる可能性も十分にある。カタールワールドカップの3年前に三笘がこれほどの存在になるとは予想されていなかった。1998年大会のマイケル・オーウェン(イングランド代表)のように大会直前で頭角を現す十代のスターだって出てこないとは限らない。現時点では上田と古橋が最有力候補だが、得点という結果を出し続け、なおかつ本番で最高のコンディションに持っていくという、高いハードルを越えなければならない。

 上田と古橋という、特長の違うストライカーを擁する日本代表。なんにせよ、どのような戦い方にも柔軟に対応しうる最前線のカードを手に入れることができたのは大きい。ここからW杯本番に向けて、この2名を中心に最適解を探っていくことになるだろう。

文/西部 謙司

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)283号、7月15日配信の記事より転載

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