「1週間前までJ2で試合してて、1週間後にはPSGと親善試合でっていう、本当にサッカー選手ならではというか。僕は本当に無名で育ってきて、こういうことがあるんだよ。っていうのは子供たちにとってもひとつの道になるのかなと思う。本当に。自分がそういう道標になれるように、これからもしっかりと頑張っていきたいなと思う」
J2藤枝からC大阪に移籍し、3日間しかチーム練習をしていなかったFW渡辺の言葉だ。相手はパリ(サンジェルマン(以下PSG)、観衆3万2000人という劇的な環境の変化をしみじみ噛みしめているようだった。
クロアチアのHNKシベニクからC大阪に復帰したばかりのMFの新井は。
「(復帰の)最初の試合がPSGだったので、本当にワクワクしながら楽しみながらプレイできた。特に印象に残った選手はハキミ。最初守備のシーンで1回裏を取られた。あのシーンは普通だったらクローズできたけど、やっぱり初速っていうところで世界のレベルだなと思った」
「自分が求められているのはスピード。そこをどんどんアピールしたいと思った。ファーストプレイは自分からいこうと思っていた」
新井は鋭い出足でボールを奪い、決勝点となるMF香川のゴールをアシスト。
「C大阪は守備が重要視されている。そこはクロアチアでも学んだこと。攻撃面でもっと判断良くプレイしたり、個人で打開できたシーンもあったのでそこはちょっとビデオ見て反省しながら次に生かしたいと思う」
「クロアチアで試合に出れたっていうのが自分の自信にも繋がってるので、そこは日本に帰ってきて自信を持ってプレーしたいと思っている」
後半から若いフレッシュな選手を投入したC大阪の小菊監督。ふたりについて次のように話した。
「渡辺に関してはまだC大阪に来て間もないタイミングで、3日間のトレーニングでかなり疲弊してる状態だった。かなり悩んだが、30分限定でできるという判断をした。攻守に非凡なものを見せてくれたと思うし、やはり私が求める、攻撃だけではなくて、守備の自己犠牲献身性、そういったところも非常に発揮してくれたと思う」
「新井も海外を経て、たくましく帰ってきたなということを練習からもすごく感じていた。今日改めて素晴らしい才能を発揮してくれたと思うし、この両名に関しては練習であったり試合を重ねるごとにどんどんパフォーマンスが変わっていくことを期待している」
前半はほぼ主力で固めたが、後半は出場機会をうかがう若い選手がPSG相手にひるむことなく前線からのプレスで相手のミスを誘発した。渡辺は2点目のアシスト、そしてそのアシストからゴールを決めたのがFW北野だ。
「すぐに天皇杯もあるし、リーグ戦ではレオ(セアラ)が累積警告で出場停止。(チームサイドは)『ここは無理することはない』という判断だったが、個人的にはチャンスだと思ったので、『何とか出たい』と伝えた。フィジカルコーチやトレーナーにも『やれる』と伝えて、小菊監督も最終的に認めてくれた。それでこの試合に出ることができたので、フィジカルコーチ、トレーナー、小菊監督に感謝している」
10年前、マンチェスターユナイテッドとの親善試合でゴールを決めた南野が世界に羽ばたいた。北野自身も自らのキャリアを切り拓く意味で、この試合だけはどうしても出なくてはいけないと思っていたようだ。
ゴールのシーンについては「あれはもう、(渡邉)りょうくんのプレスのおかげ。僕は決めるだけだった。緊張したがチャンスだったので、決めることができて良かった」。
もうひとり存在感を見せた若手がいる。それが身長185cmの大型ボランチ石渡ネルソンだ。
「初めて世界のビッグクラブと対戦して、個のクオリティーが凄かった。試合前から分かってはいたが、もう2個くらいレベルが上だと思った。(守備では)ファウルで止める場面が多かったので。ノーファウルで奪えたら良かった。ただ抜かれるよりはその前でつぶせるのが一番なので、そこは良かったと思う。
「(前に運ぶという自身の持ち味は)今日はあまり出せなかった。1度くらい出せたが、この強度の中で何回も出せる選手にならないと上には行けない。課題がいっぱい見つかった」
口を突いて出てきたのは反省の弁。PSGには自分よりも年下の選手すらいるという現実に、もっともっとやらなくてはいけないという思いが募ったのだろう。
しかし小菊監督は「ネルソンも圧巻のパフォーマンスだった」と褒めちぎった。
あくまでヨーロッパのクラブにとってはプレシーズンの親善試合にすぎない。しかし日本のチームにとっては飛躍のためのチャンスであることは間違いない。C大阪にとってはこれがクラブの歴史を作る礎となるだろう。
近い将来、PSGの関係者に「君が欲しい」といわせるような選手が出てくることを期待したい。
文/吉村 憲文