「勿論嬉しい気持ちはあるが、だいぶ時間がかかったし、チーム状況が大きく変わった訳ではない。この勝利を次につなげていかないと意味がないと思っている」
就任後9試合目にしてリーグ戦初勝利を手にした柏の井原監督だが、まさに勝って兜の緒を締める言葉を口にした。
前夜、残留争いの直接的相手である湘南が広島を下したことで、どうしても勝ち点3が必要になる。何よりネルシーニョ監督を解任し井原監督が指揮を執ることになっても、チーム状況が大きく変わることはなかった。その原因とリーグ中断期間の修正点を問われると「ここまでかなり失点をしていて、組織的な守備をもう一度見直そうということで、守備のやり方を少し変えた。選手は素早く理解してくれたし、水曜日の天皇杯に続いて今日のリーグ戦も粘り強く戦えた。やはり無失点で試合を進めるということが、今の我々のチーム状況からすればすごく大事になってくる。最後は泥臭くなったが、私が就任してから最後に追いつかれたり、得点してすぐに失点することが続いていた。そこを修正していくことを特にやってきたし、そこを出すことができて良かった」と答えた。
結果的にまさに泥臭い戦いで虎の子の1点を守り切り、井原監督就任後初、そして11試合ぶりの勝ち点3を手に入れることに成功した。
その虎の子の1点をもたらしたのが、これで3戦連発となるFW細谷である。
「勝てない時期が続いていたが、自分たちを信じてやってきた結果が今日だと思う」
ミックスゾーンでは表情を変えることなく、淡々と話した。
シュート場面については「相手の背後を取ることは監督から言われていたし、相手も嫌がっていた。得点は相手が少しミスしたところで、バウンドしたタイミングでギアを少し上げてマイボールにすることができた。シュートのバウンド自体は狙いどおりではなかったが、右から相手DFがきていたので、腕で押さえてミートすることを意識した」。
ストライカーの嗅覚というのだろうか、相手のミスを見逃さず、ゴールにつなげる技術は同年代の選手でもトップだ。この試合が完璧な出来だったとはいい難いが、それでも試合を決めてしまうあたりは非凡という言葉以上のものがある。
逆に失点に直接絡んでしまった京都のCB井上は「失点は僕の責任だし、それ以上もそれ以下もない」。
ただ「相手は裏を狙ってきたが、それは想定していたことで驚くことではなかった」。
味方との連係が取れず、井上のヘディングのクリアがフリーで走りこんでいた細谷にわたってしまった。ただサッカーはミスのスポーツでもある。想定内でもミスは起きる。これをどう取り返すかだ。その点で前半の京都は自分たちの持ち味をまったく忘れていたように見えた。
「前半の20~30分は酷い試合だった。キャンプや今週の練習を通じて、柏戦はこういうゲームになることは分かって選手を送り出したし、いろいろな準備はしたつもりだが、最初のプレイでボールにいけず、腰が引けたような戦いになった。ボールを持った時も、ただ前方へ行きますよというようなパスを連発していた」
前線から次々とプレスをかける京都のスタイルを放棄して、漫然と試合をしている。
「自分たちがボールを持ったときにFW頼みになる状況が多くて、それだけだと苦しくなる。ボールを収められないといけないし、僕たち最終ラインや中盤も含めて、全員が考えていかないといけない」(井上)
前線と最終ラインの連動ができず、京都は柏に主導権を譲り渡してしまった。
後半に入って京都は[3-4-3]にシフトチェンジ。
「後半はフォーメーションを変えたことで、相手に隙ができた。自分たちのやりたいことができた部分はある」(途中起用されたMF谷内田)
更に次々と高さのあるFWを投入することで柏にプレッシャーをかけ続けようとした。ただ最後までそれが実ることはなかった。
この夏の移籍で加入し、途中起用されたFW原は京都でのデビュー戦となったが「大きく蹴るにしても、チームとして中途半端だった。蹴るならもっと蹴るべきだし、そういうところが自分も含めて合わせないといけない部分だと思う」と、身長191cmという彼の圧倒的な高さを京都はチームとして活かしきることができなかった。
原と同様に移籍後初の試合となった柏のCB犬飼は「今日は勝つことだけがベストだと思っていた。今日は満足して、ここからより良い試合や勝利を多くしていけるようにしたい」と話した。出場機会を求めて浦和から期限付きで加入し、試合勘を取り戻しながらのプレイだったが、チームの勝利に貢献できたことに満足感を漂わせた。
ただし「脚が攣りかけて、思ったより早いタイミングで交代することになった」。
井原監督は犬飼のプレイを「チームに落ち着きや守備の安定感をもたらしてくれた。経験豊富でリーダーシップもある。初めての試合とは思えないくらいの出来だった」と評価した。
残留争いが熾烈になり、下位のチームの勝点は更に詰まっていくことが予想される。新戦力をどう融合させていくのか、指揮官とチームの総合力が試される。
文/吉村 憲文