キックオフ直後のチャンス。
「自分があのシュートを決めてれば試合の展開も変わったので、すごく厳しく感じているし、そういう個のところで上回らないと勝ち点も拾えないかなっていうのは改めて感じた」
湘南のMF田中は自身の責任を痛感しているようだった。
その後「(前半プレスに)行けなくて、後ろで回されてて。1 回行こうみたいになって自分も前に出て。そうしたらスペースをやられたので、FWと自分が話し合ってちょっときついから来れるかみたいな話もした。それでもう限定もできて取れそうだったが、後ろとちょっと距離が開き、キャップができてやられた」。
「前線から湘南らしさを出せれば自分たちの時間ももっと作れるのかなと思う。監督もそこはすごくハーフタイムでは強くいっていた。でもピッチに立つとすごく難しい。そんな簡単にうまくプレスもかけられないし、声も通りづらい」
ピッチの状況がアウェイの湘南に厳しかったのは、かつてG大阪でプレイした経験を持つMF小野瀬も感じていたようだ。
「いつも自信持ってやれていたサッカーが前半全然できてなかった。まあそういう(G大阪の)サポーターが作る圧というか」
スタジアムを埋めた3万2567人のサポーターの大半はホームG大阪への声援一辺倒で、彼らが作り出す雰囲気がアウェイチームのコミュニケーションを非常に難しいものにしていた。
湘南の山口監督は。
「今日は前半の戦い方に尽きると思う。自分たちから奪いにいくところ、アグレッシブに前にゴールを目指すところが欠けていた試合になった」
「一度背後を取られて、嚙み合わせのところで危ないシーンがあった。心理的な、最終ラインの問題もあると思うが、そこから自分たちの前に相手を置くしかできなくなってしまった。勿論ゴール前で我慢するところはあったと思うが、なかなかそこから回復するところは難しい。じゃあいつ回復するのか。本当にその捉え方というか、やってきたことができていなかったので、それはハーフタイムにも、今も伝えた。それに尽きる」
前半は湘南らしい前線からのプレスが鳴りを潜め、G大阪の攻撃にリアクションするしかない状況が続いた。
どのような修正が必要だったかという問いには「ボールホルダーに対してどういうところで行くのかと、伝えているつもりでもゲームでやれてない。僕の持っていき方が悪いと思うので、そこは伝え方を工夫しないといけないなという自分自身のところが問題だと思ってる。選手は相手がいて景色が変わるとネガティブになるところもあるので、そうじゃなくていろいろな用意をする中で行けるように僕も伝えたいと思う」と、往々にして自軍の選手を批判する監督が多い中、山口監督は自身の反省点を口にした。
実際は後半立ち上がりから湘南は山口監督の指示どおり前線からのプレスを見せ、高い位置でのプレイも増えた。惜しむらくは60分にハンドでPKを取られてしまったことで、完全に勢いを削がれる形になってしまった。試合終了間際に1点を返し意地を見せたものの、90分を通じて湘南らしいプレイを見せた時間は僅かだった。
「球際の部分など、当たり前のことが前半は特にできていなかった。自分たちが練習でやってきたことを前半出せなかったというのが勝てなかった一番の要因」とFW大橋は振り返った。ツートップの守備ができていなかったことで、自身の責任を痛感していたのだろう。
田中は「自分の出来もダメでボールも触れなかったし、触っても失う場面も何回もあった。根本的にそういう自分の役割というか、もっと試合を作る部分はもっとやらないといけないし、守備でもそう。ちょっとフリーに相手が気持ちよくやられてたので、こういうゲームになってしまったと思う。チーム全体もそうだが、個人的にもっと見直していきたい」。
この言葉に尽きるだろう。他のJ1クラブに比べて個の能力で劣るといわれる湘南。それをグループ戦術で戦い抜いてきた。ただ個の成長を諦めていては先がない。
現在最下位で残留争いの真っただ中にある湘南。今後も苦しい戦いが続くことは間違いないだろう。生命線である前線からの激しさをもう一度ピッチで表現することでしか残留は勝ち取れない。そこにはチームは勿論、この成長も不可欠だ。
文/吉村 憲文