[特集/移籍市場の勝者はどこだ!? 01]チーム完成のラストピースか、変革のための一手か 豪華すぎるプレミア新戦力が命運を分ける

 世界一といわれるプレミアリーグは、世界でもっともお金が激しく動くリーグでもある。シーズンオフともなれば、タブロイド紙は移籍の噂で持ち切り。潤沢な資金を持つクラブが、どんな選手を獲得するのか。世界中から注目が集まり、今夏も実に1億ポンド超えの移籍が複数成立した。

 しかし、今夏に移籍した選手がどのようにチームに組み込まれるか、はたまた活躍できるのかは金額や獲得経緯とは別の話だ。順調な世代交代なのか、急遽の立て直しを余儀なくされて獲った選手なのかで立ち位置も違うはずで、これはそのまま今季のプレミアの見どころに直結していく。補強を終えたクラブがどんな状態にあるのか、そして、新戦力によって今季の命運は決まるのか。勢ぞろいした豪華な面々とともにみていこう。

シティ、アーセナルは順調 世代交代も見据えた補強に

シティ、アーセナルは順調 世代交代も見据えた補強に

さっそくペップの信頼を得たコバチッチ。その適応力もさすがだ photo/Getty Images

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 4連覇を狙う王者マンチェスター・シティは、今夏も堅実な補強に終始した。DFアイメリック・ラポルト、MFイルカイ・ギュンドアン、FWリヤド・マフレズらを放出。その穴を埋めるような即戦力ばかりを補強している。DFヨシュコ・グヴァルディオル、MFマテオ・コバチッチとクロアチア代表の2人、加えてドリブラータイプのFWジェレミー・ドクをレンヌから引き抜いたが、これらはいずれも前述の3選手の穴を即座に埋められる選手だ。

 もともとペップ・グアルディオラは余剰人員を多く抱えることを好まず、昨季もシティのスカッドはコンパクトだった。賭けのような若手補強はなく、グヴァルディオルにしてもドクにしても、前クラブや代表チームで一定の活躍を見せてきた選手だ。確実にチームにプラスをもたらす選手だけを揃え、徹底的にやり方を叩き込んで、誰が出てもクオリティの落ちないチームをつくる。それがペップがここ数シーズン、シティで成功を積み重ねてきたやり方だ。

 開幕戦で大黒柱のMFケビン・デ・ブライネを負傷で失ったのは痛かったが、それでもフィル・フォーデンという代役がいるため大問題には至っておらず、シティは唯一の開幕4連勝を飾っている。新加入コバチッチも第2節ニューカッスル戦でさっそく初スタメンを飾り、そこから3連続先発。即戦力ぶりを見せつけた。
 グヴァルディオルやMFマテウス・ヌネスにしても経験のある選手で、ちょくちょく出番は回ってくるだろう。ペップは細かな戦術調整を得意とする指揮官で、確固たる戦術をチームに植え付ける反面、その戦術を利用して試合ごとに微調整をかけることに長けている。メンバーもあまり固定しない。ここはコバチッチではなくヌネス、ここはグヴァルディオルといった“使いどころ”がどこになるか、チームの戦術変化とともに見ていくと面白いはずだ。

 アーセナルも補強は順調だった。プレシーズンの早い段階でドイツ代表MFカイ・ハフェルツ、アヤックス育ちの万能DFユリエン・ティンバー、そして英国人選手の歴代レコードを更新する1億500万ポンドという移籍金でイングランド代表MFデクラン・ライスを獲得。買取オプション付きのローンという形で、ブレントフォードからGKダビド・ラジャまでをも獲得した。

 これで、各ポジションにレギュラークラスの選手を2名ずつ揃えられるような陣容となり、やはり目指すところはシティに近い。昨季は序盤の勢いのままに終盤まで首位で突っ走り、優勝もあるかと思われたアーセナルだが、最終盤にケガ人が重なったことで失速。レギュラーとベンチの間に差があることが露呈し、シティに優勝を譲ってしまったという経緯がある。ミケル・アルテタ監督は昨季はほぼ固定した戦い方を強いられたが、今季はやれることが一気に多くなった。

 だが、それがうまく機能するかは別の話だ。開幕からMFトーマス・パルティを右サイドバックで使い、新加入のライス、ティンバー、ハフェルツを同時起用する戦術を披露。しかし、その開幕戦でティンバーが今季絶望ともいわれるケガを負ってしまった。ハフェルツにしても、トップではなく中盤での起用が効果を生み出しているのかは議論があり、昨季ほどの爆発的な攻撃力は見られない。

 FWニコラ・ぺぺやDFロブ・ホールディングといった余剰戦力の放出にはどうにか成功し、選手層が質・量ともに一気に改善されたアーセナル。そのスカッドをどう活かすか、今後はアルテタの采配にかかってくるところが大きい。

中盤の選手がいない!? 大改造に踏み切った2クラブ

中盤の選手がいない!? 大改造に踏み切った2クラブ

1億1000万ポンドの男カイセド。今のところ失点につながるミスも散見され、本領発揮はこれからという印象 photo/Getty Images

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 昨季をベースに補強を行なったシティ、アーセナルと対照的に、チェルシーとリヴァプールは大改造の夏となった。闇雲な補強により昨季12位と大失態を見せてしまったチェルシーは、指揮官の交代に始まり、古株のメンバーを大量に放出した。MFエンゴロ・カンテ、MFメイソン・マウント、MFルベン・ロフタス・チークなど、完全移籍だけでもその数14名。他にもFWロメル・ルカク、GKケパ・アリサバラガなど数名をローンで放出しており、ほぼ完全にチームは様変わりすることになった。

 特に中盤の選手が駒不足に陥ったが、獲得の目玉はブライトンの中盤を支配していたMFモイセス・カイセド。移籍金は1億1000万ポンドと、プレミア記録を更新したようだ。一時はリヴァプール獲得がほぼ確実とも報じられ、大混乱のなかでのチェルシー移籍となった。同じく昨季、史上最高額移籍で話題となったMFエンソ・フェルナンデスとの最高額コンビに期待がかかってくる。

 他にもシティ育ちのMFロメオ・ラヴィア、快速でかっ飛ばすFWニコラス・ジャクソン、ブンデスリーガで得点を積み重ねたFWクリストファー・エンクンクなどが加わったチェルシー。指揮官も含めゼロからのスタートとなっており序盤は苦戦中だが、チームの一体感はむしろ昨季より改善されているように見える。ポチェッティーノのマネジメント力がどう発揮されるか、面白いチームに生まれ変わる可能性は大いにあるだろう。

 カイセド獲得合戦で敗れたリヴァプールも、厳しい夏となった。MFファビーニョ、MFジョーダン・ヘンダーソンがサウジアラビアへ去り、MFナビ・ケイタやMFジェイムズ・ミルナーらは契約満了。こちらも中盤がチェルシー以上の駒不足に陥った。

 W杯覇者でもあるMFアレクシス・マックアリスター、技巧派MFドミニク・ショボスライの獲得は早かったが、そこからが難しかった。前述のカイセドやラヴィアもチェルシーに横取りされるような形で獲得失敗。急遽、シュツットガルトからMF遠藤航を、バイエルン・ミュンヘンからMFライアン・グラフェンベルフを獲得した。

 クロップが志向するプレッシングサッカーでは、中盤の働きがとみに重要となる。いわばチームのエンジンだが、新加入の4人は技巧もありながら、しっかりハードワークできるタイプ。人材を揃えることには成功したといっていい。

 あとはこの新エンジンが、いかに機能するかだ。遠藤が出場した試合では2度ともに数的不利で10人となっているなど、まだ新エンジンが十全に機能したといえる試合がみられないが、チームは苦しみながらも3勝1分と無敗で推移している。前線や最終ラインに大きな変化はなく従来のクオリティを保っており、サウジ方面からの執拗なオファーが話題となっていたFWモハメド・サラーも残留となりそうだ。中盤さえ機能すれば、シーズンが進むにつれてパワーアップしたリヴァプールが見られるかもしれない。

ストライカー獲得に悩まされた開幕前 ユナイテッド、スパーズは状況が対照的

ストライカー獲得に悩まされた開幕前 ユナイテッド、スパーズは状況が対照的

早くもチームに馴染んだマディソンは、スパーズの前線に流動性をもたらした photo/Getty Images

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 チームの柱となるエースストライカーの状況に悩まされたのが、マンチェスター・ユナイテッドとトッテナムだ。ユナイテッドはいわゆる「9番」の不在が昨季からの課題であり、トッテナムFW
ハリー・ケイン、ナポリFWヴィクター・オシムヘンなどを候補として交渉を続けていたものの、あまり良い形で進んでいなかったようだ。

 結局、アタランタから7200万ポンドといわれる移籍金で、20歳のデンマーク代表FWラスムス・ホイルンドがやってきた。しかし、獲得が決まった際にホイルンドは背中を負傷しており、約6週間の離脱を強いられる状態であった。開幕から3試合は起用することができず、ユナイテッドはFWマーカス・ラッシュフォードを最前線で起用することでどうにか急場をしのごうとするも、開幕戦はDFラファエル・ヴァランの得点でどうにか1-0、第2節はトッテナムを相手にいいところなく0-2と敗れてしまった。

 ようやく第4節アーセナル戦で途中起用することができたホイルンドだが、まだ未知数のところは大きい。また、中盤にも複雑な交渉の末に買取OP付きでMFソフィアン・アムラバトを、左SBには負傷が重なったことを受けてDFセルヒオ・レギロンをローンで獲得するなど滑り込み移籍が多く、どうにも動きがバタバタしていた。チェルシーの生え抜きMFメイソン・マウントも加入早々に離脱してしまい、ユナイテッドはチーム状況に振り回されてしまっている。

 足元に優れたGKアンドレ・オナナの獲得にみられるように、指揮官エリック・テン・ハーグは自己流をよりチームに浸透させようと狙っているはずだが、FWアントニーの暴力問題など新たな火種も生まれてしまった。新戦力を加えたチームが一枚岩となっているとは言い難いようだ。

 トッテナムはエースのハリー・ケインの移籍に振り回された。バイエルンからオファーが届いていたものの、チームはこれを数度にわたり拒否。チームがプレシーズンの海外遠征から帰り、いよいよプレミア開幕目前というタイミングでの4度目のオファーで、ようやく移籍が決定した。スパーズはプレシーズンも去就不透明なケインを最前線で起用し続けていたが、エースFWが欠けた状態で開幕を迎えることになってしまった。

 しかし、チームは開幕から3勝1分で2位につけており、今のところケインが抜けた穴は感じられない。アンジェ・ポステコグルー監督は短期間でチームに規律を植え付けており、得点数はシティと並んでリーグ2位の11得点。ケインを欠いても、得点力に陰りはみられない。

 功労者はレスターから今季新加入のMFジェイムズ・マディソンだ。マディソンはさっそく前線でチャンスメイカーとしての才を発揮し、第3節ボーンマス戦と第4節バーンリー戦では得点も記録。新主将のソン・フンミンとともにチームを引っ張っている。以前はケインが降りてきてゲームをつくることも多かったが、マディソンという司令塔の獲得はチームに流動性をもたらしており、得点源の不在を感じさせない。

 また、ヴォルフスブルクからやってきたDFミッキー・ファン・デ・フェンは、DFクリスティアン・ロメロとともに落ち着いたプレイでさっそくスタメンを掴んだ。展開力も持ち合わせる左利きのCBで、攻撃的な前線との相性も良さそうだ。今季はここに加えて、出場機会に乏しかったMFイヴ・ビスマが中盤で存在感を見せており、ケインの移籍は思ったほどのダメージではなかったように見える。

 エース候補を獲得したものの苦しんでいるユナイテッドと、絶対的エースを放出したものの好調を維持するスパーズ。今夏の悩みは似ていた2クラブだが、開幕からの戦いぶりは対照的となっている。

BIG6だけで終わらないプレミア 注目の移籍は盛りだくさん

BIG6だけで終わらないプレミア 注目の移籍は盛りだくさん

今季は三笘のチームメイトとなるファティ。プレミア初挑戦だがプレシーズンにはトッテナムと対戦していた photo/Getty Images

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 いわゆる「BIG6」の移籍を中心に見てきたが、プレミアでは他にも驚くような移籍が成立した。筆頭はブライトンへのローン移籍が決定した“バルサの10番”FWアンス・ファティだ。

 ファティはバルサで数々の最年少記録を更新し、神童のように扱われた20歳。しかし膝の手術により長期離脱を強いられ、最近は絶対的な存在ではなくなっていた。左サイドを得意とし、FW三笘薫ともポジションが被る選手だが、プレミアでその才能を見せつけてくれるだろうか。

 資金潤沢ながら堅実な補強をすることで力をつけてきたニューカッスルは、セリエAのミランからMFサンドロ・トナーリを獲得。ミラニスタの寵愛を一身に受けていたイタリア代表は、新たな地で開幕からすでに先発を続けている。そのプレイビジョンは、ニューカッスルにこれまでにない創造性を加えてくれそうである。

 また、アストン・ヴィラはDFパウ・トーレスやDFクレマン・ラングレなど、指揮官ウナイ・エメリのスタイルに合いそうなDFを補強。デイビッド・モイーズ率いるウェストハムには、プレミアきってのセットプレイの名手MFジェイムズ・ウォード・プラウズが加入した。このように、チームのスタイルにきわめて合致しそうな移籍も多いプレミア。そのケミストリーがビッグクラブを苦しめることも大いにありうるわけで、上位クラブ以外の移籍も見逃せないのがリーグの魅力ともなっている。ビッグクラブだけでなく、中位クラブも豪華な新戦力を獲得したプレミアリーグ。今季の命運を握る選手は誰なのだろうか。

文/前田 亮

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)285号、9月15日配信の記事より転載

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