バイエルンの11連覇という一強時代が長く続いているブンデスリーガ。この王者はたしかに強い。しかし、連覇達成の背景には、国内にライバルがいないという現実があった。ドルトムント、ライプツィヒ、レヴァークーゼンなどはコンスタントに上位をキープするが、牙城を崩せずにきた。昨シーズンは最大のチャンスでドルトムントが勝点71で並んだが、得失点差では大きく差をつけられていた。
エースストライカーとしてハリー・ケインを手に入れたバイエルンに対して、ドルトムントはジュード・ベリンガムが去った。ライプツィヒはヨシュコ・グヴァルディオル、ドミニク・ショボスライ、クリストファー・エンクンクなどが移籍している。今シーズンもまた、バイエルンがマイスターシャーレ(優勝皿)を掲げることになるのだろうか。
ケイン筆頭に即戦力を補強 バイエルンは整理された印象
第2節アウクスブルク戦で自身この日2点目、チーム3点目をマークするケイン photo/Getty Images
続きを見る
ユリアン・ナーゲルスマンからトーマス・トゥヘルへ。昨シーズン終盤に監督交代があるなか、バイエルンは11連覇を達成した。しかし、ロベルト・レヴァンドフスキを失った影響からか、例年通りの強さは感じられず、最終節で逆転優勝を決める薄氷を踏むタイトル獲得だった。間違いなく、ここ数年でもっとも苦戦したシーズンだったが、それでも王者の座を譲らなかったのは大きく、沈んだところからまたチーム力を上げていくと考えられる。放出人数に対して補強人数が少なかったが、しっかりと即戦力を獲得している。
FWケインを獲得して「9番」のポジションを補強し、前線に起点ができた。タメを作れてボールをさばけて点も取れるケインは第3節を終えてすでに3得点。ケインの加入によって、ジャマル・ムシアラ、セルジュ・ニャブリ、レロイ・サネ、キングスレイ・コマンらのチャンスメイクが実際に得点になる場面が増えることが予想される。
ライアン・グラフェンベルフを放出した中盤には、ライバルであるライプツィヒからMFコンラッド・ライマーを獲得した。守備的MFをジョシュア・キミッヒ&ライマーとし、前方への推進力があるゴレツカをひとつ前に配置すればゴリゴリと攻めることができる。守備的MFをライマー&ゴレツカとすれば、どんなポジションでも機能するキミッヒを自由に起用できる。
最終ラインには屈強な身体を持ち、左足で正確にボールをさばけるCBキム・ミンジェと、ドルトムントで左SBのファーストチョイスだったラファエル・ゲレイロが獲得されている。バンジャマン・パヴァール、リュカ・エルナンデス、ヨシプ・スタニシッチが移籍したので、CBはダヨ・ウパメカノ、キム・ミンジェ、マタイス・デ・リフトでまわしていくことになるが、このポジションはコマ不足であり冬に補充することになるか。
左SBにはプレシーズンから良い動きをみせている20歳のフランス・クレツィヒもいる。下部組織で育ち、バイエルンⅡでプレイしていた若手で、ブレイクする可能性を秘めている。
シーズンインを迎えた選手編成をみると、スマートに整理されているなという印象を受ける。沈んだところから浮上するのが早いのもバイエルンの特徴である。ブンデスリーガにおいて、昨シーズンほどの落ち込みはないと考えられる。
追いかける両雄は主力が移籍 ドルトムント&ライプツィヒ
バイエルン→マンUを経てドルトムントへ。ザビツァーは真価を問われる1年になる photo/Getty Images
続きを見る
昨シーズンのドルトムントは勝利すれば優勝だった最終節のマインツ戦に引分け、勝点で並ばれて得失点差によってバイエルンの後塵を拝した。本来、今シーズンも最大のライバルとならなければいけなかったが、インサイドハーフを務めていたベリンガムが抜けた影響を大きく受けることになるか。
ベリンガムが抜けたインサイドハーフには、ブンデスの経験豊富なMFマルセル・ザビツァー、シティアカデミー育ちのMFフェリックス・ヌメチャを補強した。R・ゲレイロ(バイエルンへ移籍)がいなくなった左SBにはボルシアMGからラミ・ベンセバイニを獲得。この3名は即戦力として期待がかかる。
指揮官であるエディン・テルジッチは[4-2-3-1]と[4-3-3]を併用することを目指しており、既存のエムレ・チャン、ユリアン・ブラント、マルコ・ロイスなどに、新加入のザビツァー、ヌメチャをどう組み合わせるか模索中だ。
パターン①は[4-2-3-1]でチャン&ザビツァーの守備的MF、トップ下にマルコ・ロイス。パターン②は[4-3-3]でアンカーにチャン、インサイドハーフがザビツァーとヌメチャ。パターン③は[4-3-3]でアンカーがチャン、インサイドハーフはブラントとザビツァー。
ヌメチャのドリブルを生かすためには、できるだけゴールに近いところで起用したい。攻撃を考えるなら、②③のヌメチャをウイングにできるパターンだろうか。
前線にはダイナミックな突破を見せるFWニクラス・フュルクルクが加わっている。セバスティアン・アレ、ユスファ・ムココ、ドニエル・マレン、カリム・アデイェミも健在で、ヌメチャも含めてこのポジションのコマは豊富。そうなると、鍵を握るのはインサイドハーフでの起用になるザビツァーになる。
ライプツィヒも状況が似ており、こちらはグヴァルディオル、ショボスライ、ライマー、エンクンクなどドルトムントよりも多くの主力が抜けている。とはいえ、明確なスタイルを持つことで新加入選手が馴染みやすい傾向がある。
とくに、系列クラブのレッドブル・ザルツブルクからやってきたMFニコラス・ザイヴァルト、FWベンヤミン・シェシュコに違和感はなく、ザイヴァルトは開幕戦から先発を務め、シェシュコは交代出場ですでに2得点。さらに、ショボスライが務めていた[4-2-2]の右サイドの攻撃的MFでは、新加入のシャビ・シモンズが存在感を見せつけている。ダニ・オルモ、シャビ・シモンズの2列目はなかなかの破壊力で、第2節シュツットガルト戦には5-1で大勝している。攻撃陣には前方への推進力があるMFクリストフ・バウムガルトナー、スピードのあるFWロイス・オペンダも補強しており、十分に戦える戦力が揃っている。
懸念されるのは守備面で、グヴァルディオルが抜けた穴はやはり大きい。モハメド・シマカン、ヴィリ・オルバンがCBを務めるが、就任2年目を迎えたマルコ・ローゼのなかには3バックも選択肢のなかにある。そうなると、新加入のDFカステッロ・ルケバの存在がクローズアップされる。5年契約の3500万ユーロ(約55億円)でリヨンからやってきたルケバを加えて、守備面がいかに安定するか要注目だ。
ボニフェイスにブレイクの予感 ボルシアMGは苦しい1年になるか
強靭な肉体を持つボニフェイス。発想力も豊かで、相手を惑わすプレイもできる photo/Getty Images
続きを見る
昨シーズン途中からシャビ・アロンソが監督に就任し、6位でフィニッシュしたレヴァークーゼンは良い補強をしている。基本となるのは[3-4-3]で、最終ラインのヨナタン・ター、オディロン・コヌス、エドモンド・タプソバは昨シーズンから変わらず、さらにバイエルンからDFヨシプ・スタニシッチも加入し、ローテーションが可能となった。
中盤には守備的MFグラニト・ジャカ、サイドハーフにMFアレックス・グリマルドを補強。同じくサイドハーフができる20歳のMFアルトゥールも獲得したが、右太ももを痛めて戦線離脱してしまった。左にグリマルド、右にジェレミー・フリンポンでしばらくは戦うことになる。
昨シーズンはロベルト・アンドリヒが中盤で強度の高いプレイを見せたが、今シーズンはジャカが加入したことでジャカ&エセキエル・パラシオスの守備的MFでスタートし、後半途中から汚れ役ができるアンドリヒを投入するのがパターン。終盤になってアンドリヒが出てくるのは相手にとってかなり嫌なことである。
新加入のMFヨナス・ホフマンが右ウイングに入り、最前線にこれまた新加入のFWヴィクター・ボニフェイスを配置。身長190センチのボニフェイスは高い身体能力を持つのはもちろん、足元の技術力も高く、プレイのアイデアも豊富。強く、柔軟性のあるストライカーで、すでに4得点で旋風を巻き起こしつつある。
最後に、奮起してほしいチームとしてボルシアMGがあげられる。昨シーズンの主力から、ベンセバイニ(→ドルトムント)、ホフマン(→レヴァークーゼン)、ラース・シュティンドル(→カールスルーエ)、マルクス・テュラム(→インテル)が去った。
一方で、目立った補強はFWトマーシュ・チュワンチャーラ、FWフランク・オノラなど。戦力ダウンが否めないなか、ジェラルド・セオアネが新しく指揮官に就任しており、新チームとなっている。開幕戦から3戦未勝利……。ボルシアMGは結果を出すまで時間がかかるかもしれない。
文/飯塚 健司
電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)285号、9月15日配信の記事より転載