[特集/移籍市場の勝者はどこだ!? 02]ビッグネームが去っても実力者たちが集まった! 23-24シーズンもラ・リーガのバリューに変わり無し

 近年サッカー界を牽引してきたスーパースターたちが去り、大きく世代交代が進むラ・リーガ。今夏もカリム・ベンゼマやセルヒオ・ブスケッツ、ダビド・シルバといった名手たちが別れを告げた。

 確かにここ数年は、あらゆるリーグから有力選手たちを買い漁っていたかつてほどの華やかさはないのかもしれない。しかし、バルセロナやレアル・マドリードを中心に、ラ・リーガを目指す選手は多い。今夏も欧州サッカー界を驚かせるようなピンポイントの目玉移籍がいくつかあった。やはりスペインは、若手からベテランまで多くの選手にとってまだまだ憧れの地なのである。

人件費を削減しつつも戦力を維持するバルセロナ

マンチェスター・シティで欧州制覇を成し遂げるも、シーズン終了後に退団。ギュンドアンは「夢」のクラブであるバルセロナへ移籍した photo/Getty Images

 夏の移籍市場の「優勝」はバルセロナだろう。7億800万ユーロに膨れ上がっていた人件費を4億400万ユーロに半減させた。マテウ・アレマニーSDの手腕は高く評価されている。

 アントワーヌ・グリーズマンのアトレティコ・マドリードへの完全移籍のほか、ウスマン・デンベレ、フランク・ケシエ、アブデ・エザルズリ、ニコ・ゴンサレスなど主力級を放出。長年チームを支えてきたジェラール・ピケが引退し、セルヒオ・ブスケッツとジョルディ・アルバは米国のインテル・マイアミへフリーで移籍。移籍金は獲れないものの、ベテラン勢への高年俸負担は軽減された。

 フットボールで最もかかるのは人件費。削るだけなら簡単だが、それでチーム力を維持しなければならない。しかし、バルセロナはそこも上手くやり繰りしている。マンチェスター・シティから獲得したイルカイ・ギュンドアンは今季の目玉だが移籍金はかかっていない。右SBの穴を埋めたジョアン・カンセロもローン、ジョアン・フェリックスも同じくローンで加入している。

 ただ、ここまでのところ昨季チャンピオンの戦力維持に貢献しているのはビッグネームではない。

 ブスケッツの後釜に据えられたオリオル・ロメウは31歳、バルサのカンテラ育ちとはいえトップチームにはほぼ縁のないままイングランドやドイツでプレイしてきた。昨季はジローナで活躍したが、ブスケッツのような司令塔というよりも豊富な運動量と堅実な守備で貢献する縁の下の力持ちだ。バルサ出身らしく技術も確かだが、ピボーテにロメウを据えたのはバルサのスタイルが微妙に変化しているからだ。かつてのように終始ボールとゲームを支配するスタイルでは、ブスケッツのように組み立ての名手が必要だった。しかし、現在はポゼッションとハイプレスの循環で90分を終えることは難しくなっていて、ミドルゾーンで守備をする時間が増えた。これはバルサだけでなく欧州全体の傾向で、守備力のあるピボーテが必要とされる傾向になっている。

 U-19から引き上げたラミン・ヤマルも期待に応える活躍をみせている。巧みなドリブルと正確なクロスボールに特徴があり、デンベレほどの迫力はまだないが安定感のあるヤマルのほうが計算できるウイングかもしれない。

比較的に静かな夏となったマドリードの2クラブ

半年以上の無所属期間を経て、ついに新天地が決まったイスコ。これまでの鬱憤を晴らすかのように、今季はピッチで違いを見せつけている photo/Getty Images

 レアル・マドリードは新戦力のジュード・ベリンガムが大活躍。カリム・ベンゼマのアル・イテハド移籍で空席となったCFに大物獲得はなく、ヴィニシウスとロドリゴの2トップ+ ベリンガムのトップ下という、「ベリンガム・システム」を採用している。開幕から4戦全勝。かつてのジネディーヌ・ジダンを彷彿とさせるスケールのベリンガムは、芸術的な技巧こそジダンに及ばないものの、得点力や運動量というジダンにはない長所がある。MFを組むフェデ・バルベルデ、エドゥアルド・カマヴィンガも攻守に働ける万能型。彼らの若さと機動力はレアルの新たな魅力となっている。

 懸念されるのはヴィニシウスの負傷。ただでさえ層の薄いFW陣がぎりぎりの状態になってしまった。ベンゼマだけでなくマルコ・アセンシオも放出したので、エスパニョールからローンで加入したホセルの活躍が期待される。FWに関しては、おそらくキリアン・ムバッペ待ちなのだろう。ミランから呼び戻したブラヒム・ディアスもトップ下のタイプなので、当面はベリンガム・システムを継続するつもりのようだ。ルカ・モドリッチ、トニ・クロースのフル稼働は難しいが、新世代への移行は今のところ順調といっていいだろう。

 そして、より目立った補強のないアトレティコだが、第3節のラージョ戦に7-0で大勝した試合は強さを印象づけた。昨季デビューした20歳のパブロ・バリオスが、欠場したコケの代役を十分に果たすなど選手層も充実している。高速ショートパスで相手のプレスをかいくぐってのカウンターは鋭く、守備の固さも健在。総合力の高さでバルサ、レアルに匹敵するだけでなく、ミドルゾーンの守備の強さという他のビッグクラブにない特徴を持つ。チームが完成されているので、さほど補強が必要なかったのではないか。

3強以外のクラブにも気になる補強が多数

今季ここまでリーグ戦全4試合に出場して5ゴール1アシスト。点の取れるMFとして、ベリンガムは早くもレアルの中心選手だ photo/Getty Images

 ダビド・シルバが引退したレアル・ソシエダは中盤の構成力に問題を抱えているが、久保建英の活躍でカバー。アーセナルからキーラン・ティアニーがローンで加入している。

 クラブの象徴ともいえるホアキンが引退したベティスは、無所属だったイスコを獲得。レアルを退団してセビージャに行ったが当時のSDモンチとの確執で退団、その後も所属クラブが決まっていなかった。31歳と老け込む年齢ではないが、もともと運動量やインテンシティに弱点がある。セルヒオ・カナーレスがメキシコのモンテレイに移籍したので、その後釜としてマヌエル・ペジェグリーニ監督がイスコを呼んだ。天才肌のイスコは監督との相性に左右されるが、かつてブレイクしたマラガで恩師といえるペジェグリーニが監督なのでその点は大丈夫だろう。あとはブランクのあった本人のコンディションしだいか。

 ロメウをバルセロナに引き抜かれたジローナは、エリック・ガルシア、パブロ・トーレを代わりにバルサからローンで加入させた。バイエルン・ミュンヘンからデイリー・ブリントをフリーで獲得。シティ・フットボール・グループ傘下だけに上手くやり繰りしているようで、まだ4試合とはいえ2位につけている。

 消化が1試合少ないとはいえ、開幕から3連敗でまさかの最下位に低迷するセビージャはセルヒオ・ラモスをフリーで獲得した。18年ぶりの復帰である。パリ・サンジェルマンとの契約延長、アル・イテハドへの移籍も噂されていたが、最後のチームとして故郷のセビージャを選んだ。レアル・マドリード時代に観衆を挑発するジェスチャーでファンの不興を買って以来、ラモスとセビージャの関係は冷え切っていたが、ラモスは「若気の至り」と謝罪を表明。守備崩壊の立て直しにホセ・ルイス・メンディリバル監督がCBの補強を要求していた。昨季はELこそ優勝したが、ラ・リーガでは12位。ラモスが苦境のチームを救えるか注目される。


文/西部 謙司

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)285号、9月15日配信の記事より転載

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