イングランド・フットボールの歴史を築いた名将を陰で支え続けた伴侶について、悲しいニュースが報じられました。マンチェスター・ユナイテッド元監督サー・アレックス・ファーガソンの妻、レディ・キャシー・ファーガソンが84歳で逝去したのです。
2人は1964年にお互いがグラスゴーのタイプライター工場で働いていた時に出会い2年後に結婚、ピーターバラのダレン・ファーガソン監督を含む3人の息子に恵まれました。2021年に放送されたドキュメンタリー番組の中でキャシーは「初めて彼を見たとき、強面で暴漢だと思ったわ。フットボールをしているのは知らなかった」と出会いを回顧、最初のデートは映画館に行ったことを明かしていました。
彼らの転機は1986年、当時低迷していたマンチェスター・ユナイテッドの監督にサー・アレックスが就任したことでした。27年間の在任中にプレミアリーグ制覇13回、FA杯優勝5回、チャンピオンズリーグのタイトルを2度獲得する名将となりました。そのキャリアの半ば、2002年にサー・アレックスが退任を検討したことがありましたが、思いとどまるよう説得したのがキャシーでした。「あなたが監督を続けるべき理由が3つあるわ。まず、あなたの健康状態は良好である。2つ目は、あなたを家に置いておけない。そして3つ目は、まだ若いでしょ」と。この助言がなければ、ユナイテッドの黄金期は訪れなかったかも知れません。
ユナイテッドの本拠地オールド・トラッフォードでは半旗が掲げられ、8日に行われたブレントフォード戦では選手が喪章を着けてプレイしました。監督キャリアをスタートさせた古巣のセント・ミレンやマンチェスター・シティ、アーセナルなどのライバルクラブも哀悼のメッセージを発表しました。マンチェスター・ユナイテッドは、「クラブのスタッフ一同は、サー・アレックス・ファーガソンとご遺族の皆さまにキャシー夫人の逝去を悼み、心より哀悼の意を表します。レディ・キャシーは最愛の妻であり、母であり、姉であり、祖母であり、曽祖母であり、サー・アレックスにとってキャリアを通じて心の支えでした」と声明を出しました。
出会いから約60年、稀代の指揮官を支え、叱咤激励し、家庭を守ったレディ・キャシー・ファーガソンの存在はマンチェスター・ユナイテッドの歴史の一部であり、プレミアリーグの成長を支えた功労者であると言っても過言ではないはずです。
「 妻のキャシーは私のキャリアを通じて重要な人物であり、安定と励ましの両方の基盤を提供してくれました。これが私にとって何を意味するのかを言葉で表現するのは十分ではありません」サー・アレックスの声明からは、夫婦の絆や妻への愛情が込められています。心よりご冥福をお祈りします。
文/西岡明彦
電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)286号、10月15日配信の記事より転載