[特集/新世代監督TOP3 02]インテリジェンスで瞬く間にチームを掌握 絶対王者の連覇を止めるのはシャビ・アロンソしかいない

 昨シーズンの第9節からレヴァークーゼンの指揮官となったシャビ・アロンソ(1981年11月25日生まれ、41歳)は、1勝2分5敗で17位に沈んでいたチームを蘇らせ、最終的に6位となってEL出場へと導いた。今シーズンも開幕から好調で、第7節を終えて6勝1分けで単独首位に立っている。

 2017年に現役を引退し、翌年の18年にはUEFAの監督ライセンスを取得。レアル・マドリード、レアル・ソシエダの下部組織で指導者として経験を積み、40歳でレヴァークーゼンを率いることになった。古巣であるレアル・マドリードの次期監督としても名前があげられるようになったアロンソは、どんな手腕でブンデスリーガの名門を蘇生したのだろうか。

戦術理解度が高かった現役時代 語学堪能でドイツ語も話す

戦術理解度が高かった現役時代 語学堪能でドイツ語も話す

昨季途中に40歳でレヴァークーゼンの指揮官に。守備組織を立て直し、低迷していたチームを6位まで引き上げ、ELでも準決勝まで勝ち進んだ photo/Getty Images

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 優れたサッカーセンスを持つのはもちろん、地頭がよく、語学にも堪能。現役時代のアロンソには、そんなイメージが残る。リヴァプール時代には英語を話し、バイエルンに移籍したときは週3でドイツ語のレッスンを受け、わずか3カ月で普通に会話ができるようになった逸話が残されている。

 個人的な思い出だが、バイエルンに移籍したばかりのアロンソがすぐにドイツ語を話せるようになっているという情報を過去に記事にしたことがある。欧州で難しいとされているドイツ語を短期間でマスターしたのはそれほど驚きだった。

 戦術理解度も高く、どのクラブでもレギュラーとして活躍した。監督にとっては自らの戦術をピッチで体現してくれる選手で、リヴァプールではラファエル・ベニテス、R・マドリードではジョゼ・モウリーニョやカルロ・アンチェロッティ。バイエルンではペップ・グアルディオラとアンチェロッティのもとでプレイし、数々のタイトルを獲得した。
 2017年に引退するとすぐに指導者の道を目指し、翌年にはUEFAの監督ライセンスを取得。R・マドリードU-14、レアル・ソシエダBを指揮して経験を積んだ。R・マドリードU-14ではリーグ戦に無敗優勝という成績を残し、R・ソシエダBではチームを2部昇格へと導いている。ただ、翌年に3部へ降格したことで退任してフリーになっていた。

 名選手、名監督に非ずという言葉が存在するが、名選手が名監督になる可能性を高く持っているのも事実。2022-23シーズンを迎えて、チームの低迷を受けて新監督を探していたレヴァークーゼンのシモン・ロルフェスSDが、招聘可能な人材のなかから現役時代に複数の名監督から薫陶を受け、ドイツ語も話し、指導者としての道を歩みはじめていたアロンソに声をかけたのである。

4バックから3バックへ 守備を整備してチームを蘇生

4バックから3バックへ 守備を整備してチームを蘇生

攻撃を引っ張るヴィルツは、今季開幕のライプツィヒ戦でも決勝点をマーク photo/Getty Images

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 アロンソが就任したころのレヴァークーゼンは[4-2-3-1]で戦っていたが、持ち味であるはずの素早く、少ないパス本数でフィニッシュまでいく攻撃のカタチをなかなか出せず、守備に悪い影響が出て第8節を終えて16失点していた。状況を打開するべくアロンソは就任初戦の第9節シャルケ戦に[3-4-3]で臨み、攻守のバランスを安定させて4-0の快勝を収めた。以降、レヴァークーゼンの基本は[3-4-3]となった。

 サイドバックだったジェレミー・フリンポンとピエロ・インカピエがウイングバックのポジションへ。最終ラインが3枚となり、1トップ、2トップどちらの相手にも数的優位となるように変更された。フリンポン、インカピエが低いポジションを取れば5バックとなり、中盤の中央ではエセキエル・パラシオス、ロベルト・アンドリヒのダブルボランチが付かず離れずの距離間でプレイすることで失点を減らすことに成功。後ろが安定したことで今度は攻撃に良い影響が及ぶこととなった。

 前線は両ウイングバックの前方にムサ・ディアビ、アミンヌ・アドリが配置され、1トップがアダム・フロジェク。中盤と前線のワイドなポジションに合計4名がいる[3-4-3]であり、右ウイングバックのフリンポン、両ウイングのディアビ、アドリらのスピードが引き出されるようになり、連動した攻撃が蘇っていった。

 ほどなくして、ヒザの十字じん帯断裂で長く戦列を離れていたフロリアン・ヴィルツが復帰したのもアロンソを後押しした。ドイツ代表の将来を担うことが期待される20歳のヴィルツは献身性のある司令塔で、おもに右ウイングでプレイ。中央に絞ってフリンポンが攻撃参加するスペースを作れば、相手を欺く好パスでゴールチャンスを演出。昨シーズンは17試合の出場ながら6アシストで復活を印象づけた。

 シーズン中盤から終盤に向かうレヴァークーゼンは完成度を増し、ブンデスリーガだけでなくELでも勝利を重ねた。両ウイングバックが下がったときは5バックになると前述したが、そうなったときは[5-2-3]、あるいは両ウイングが中盤まで下がって[5-4-1]となり、相手に攻撃のスペースを与えない。ELでは4強まで勝ち上がり、ブンデスリーガでは5連勝を含む9試合負けなしの時期もあった。この間、18得点6失点であり、バイエルンにも2-1で逆転勝ちしている。

 最終ライン、中盤の選手たちが縦、横の距離間を保ってコンパクトにプレイし、狙いどころで意識を合わせてプレス。マイボールになったら素早いトランジションで攻撃へ移行し、スピードある選手たちが持ち味を生かしてフィニッシュまで持っていく。90分間を通じてハイプレスをかけることは不可能で、レヴァークーゼンはアロンソの手腕によって柔軟な判断ができるチームへと仕上がっていったのである。

微調整して今季を迎え無敗で単独首位に立つ

微調整して今季を迎え無敗で単独首位に立つ

アロンソの微調整で1トップのボニフェイスもイキイキしている。第3節ダルムシュタット戦では技巧的なフィニッシュでゴールネットを揺らした photo/Getty Images

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 今夏にはアロンソ自身にトッテナム行きの噂があったなか、レヴァークーゼンとの契約を2026年6月30日まで延長した。右ウイングだったディアビは移籍したものの主力の大半が残留し、継続性のある強化が可能な体制が整えられていた。

 継続性があるだけでなく、結果として実に効果的な補強にも成功していた。グラニト・ジャカ(←アーセナル)がボランチに入り、左ウイングバックにアレックス・グリマルド(←ベンフィカ)。2列目にヨナス・ホフマン(←ボルシアMG)、最前線にヴィクター・ボニフェイス(←ユニオン・サンジロワーズ)。新加入のこの4名は開幕戦から先発出場を続けており、無敗で首位をキープするチームを支えている。

 メンバーが入れ替わったことにより、アロンソは微調整を加えている。昨シーズンまでの[3-4-3]から[3-4-2-1]と表現できる布陣に変更した。1トップ+2ウイングでワイドに開いていた前線を今シーズンのメンバー編成に合わせて1トップ+2シャドー(司令塔)として2列目の選手が1トップにより近いポジションでプレイできるようにした。

 顔ぶれとしては、1トップにボニフェイス、その下にホフマン、ヴィルツである。そして、ボランチがジャカ&パラシオス。ウイングバックが右にフリンポン、左にグリマルド。3バックがヨナタン・ター、エドモンド・タプソバ、オディロン・コソヌ。GKがルーカス・フラデツキー。レヴァークーゼンはここまで7試合中6試合をこのスタメンで戦っている。残り1試合もパラシオスのところに昨シーズンまでのレギュラーであるアンドリヒが入っただけで、ほぼメンバーが固定されている。選手たちが自信を持ってプレイしており、これが攻守の安定感につながっている。

 ハイプレスに行く時間帯、受け止める時間帯の使い分けがうまく、プレスに行くときは最終ラインのター、タプソバ、コソヌも相手FWに張り付いて高いポジションまで上がってくる。第4節バイエルン戦(△2-2)でもボニフェイス、ホフマン、ヴィルツが前線からボールを追いかけ、相手が苦し紛れに出した縦パスをタプソバやコソヌが相手陣内で前を向いてボールを奪い、そのまま攻撃につなげるシーンがあった。

 ホフマン、ヴィルツは攻撃のアイデアが豊富で、ドリブル&パス&シュートの質が高い。ウイングバックのグリマルド、フリンポンはスピードがあり、クロスはもちろんシュートの精度も高い。さらに、1トップにはボールをしっかりと収められるボニフェイスがいる。加えて、中盤の底にジャカとパラシオスというファイトできる献身的なボランチがいる。

 アロンソが微調整した[3-4-2-1]のなかで、これらの選手たちがいかんなく力を発揮している。ゆえの単独首位であり、アロンソの評価は右肩上がりで上昇している。早くも、古巣であるR・マドリードの次期監督候補として名前を挙げられるほどである。

 昨シーズンは秋ころにヴィルツが復帰し、これが奏功した。今シーズンは経験豊富なチェコ代表ストライカーのパトリック・シックがもう間もなく復帰する。早ければ第8節ヴォルフスブルク戦からいけるという情報もある。そうなると、ボニフェイス、フロジェク、シックという他クラブが羨むストライカーが揃うことになる。

 アロンソは現役晩年の2014-15から3シーズンをバイエルンでプレイし、いずれもマイスターシャーレを獲得している。そのバイエルンの12連覇を止めるのは、勝手知ったるアロンソが率いるレヴァークーゼンになるのか。もしそうなったなら、いやたとえならなくても、ついこないだまで現役で活躍していたまだ41歳のアロンソの台頭に、新時代の到来を感じずにはいられない。


文/飯塚 健司

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)286号、10月15日配信の記事より転載

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