プレイモデルの確立に向けて岩政監督は試行錯誤している
2016年を最後に国内無冠の鹿島。第32節柏戦も引分けとなった photo/Getty Images
鹿島が国内3大タイトルから遠ざかっています。2016年にJリーグと天皇杯、2018年にはACLに優勝しましたが、その後は苦しいシーズンが続いています。
以前といまではチーム作りが違います。選手の入れ替わりが激しく、クラブとして数年後を見据えて選手を獲得してもすぐに海外へ行ってしまいます。私が現役のころはそうした流れが少なく、チームを作りやすかった。選手の力量+明確なチーム作り。これがあって鹿島はタイトルが取れていました。
自分たちのサッカー、プレイモデルを確立していかないとますます苦しくなっていくでしょう。取材していると、岩政大樹監督がこの面で試行錯誤しているのがわかります。今シーズンに関しては、まだまだ明確な“色”は出ていないですね。
後ろから繋いでビルドアップする試合があれば、ロングボールを多用してセカンドボールの回収を狙う試合も見られます。どういうサッカーがしたいのか見えない今シーズンであり、良い言い方をすれば相手によって柔軟に対応していたとなりますが、自分たちのサッカーが確立されていないことで相手ありきのサッカーになっていました。いまの選手たちは答えを待っています。若いころからいろいろな指導者に出会うことで、頭のなかにいろいろな戦術を持ってプレイしています。彼らに対して、答えを出してあげないといけない。どう戦うのか、選手は判断を待っている面があります。
プレイモデルが確立されれば、原理原則が植えつけられれば、そこが立ち返る原点になります。対戦相手がこうした問題をすでに解決しているのに対して、鹿島はまだ劣っています。いまはやっていくしかありません。プレイモデルを確立し、それにマッチした選手を育てる。または獲得するということをやっていかないと、タイトル獲得はますます遠くなっていくでしょう。
私は以前の鹿島を知っている岩政監督にこのまま任せるべきだと考えています。ここで監督交代となったら、いままでと同じです。石井正忠→大岩剛→ザーゴ→相馬直樹→レネ・ヴァイラーとここ数年で指揮官が入れ替わるなか、現在を迎えています。いまの岩政監督は、どうプレイモデルを作るかで試行錯誤している段階です。フロントがどれだけ我慢できるかが大事です。ひとつひとつ整理して積み重ねていかないと、これからも難しいシーズンが続くことになります。
鈴木優磨に頼り過ぎている 言い合えるぐらいの雰囲気を!
小笠原も熱い闘志を持つキャプテンだった photo/Getty Images
ひとつ強調したいのは、戦術も大事ですが、もっとも重要なのは“絶対に勝つ”という強い気持ち、戦う強い気持ちだということです。新たな戦術が生まれる欧州、たとえばプレミアリーグでも、そこにはある程度の基準があります。勝利を目指す強い気持ちがベースにあってこその戦術で、そこを疎かにしてきれいなサッカーをしても勝てません。サッカーは楽をして勝てるスポーツでは決してありません。
勝つために、なにをすればいいか。選手個々がそれをわかっているのが常勝のころの鹿島の強みでした。練習の雰囲気にしても、言葉があっているかわかりませんがとても殺伐としていました。試合のための練習なので、バチバチとやりあっていました。試合に出ていない選手が、練習で強度高くプレイする。それが、鹿島の伝統でした。
以前は本田泰人、小笠原満男など、嫌われてもいいから言動で示す選手がいました。三竿健斗もそうでした。いまは鈴木優磨から“オレがなんとかしないと”という気持ちが強く見えますが、まわりがそれに頼ってしまっています。本来、ピッチで言い争うぐらいなのが鹿島です。
体現できる選手はいると思います。昌子源、植田直通、柴崎岳、土居聖真などが、どれだけそうした雰囲気を作れるか。練習から強度高くできるかで変わってくると思います。私の印象として、徐々に試合における強度の高さは戻ってきていると思います。攻守の切り替えや球際の攻防で劣っていたら、どんなに高等な戦術があっても勝てません。ある程度の基準がなければ、戦術うんぬん言ってもはじまらないです。
サポーターももっと厳しい目を持っていいと思います。みんな現状で満足しているのでしょうか? 背中を押すためにも、厳しい目が必要です。これだけタイトルを取れていないと、常勝を知らない新規のサポーターもいるでしょう。いまの流れでも満足しているのかもしれませんが、だとすると変わらないです。現状に慣れてしまうのだけはダメです。変わっていくためには、サポーターも真剣に向き合わないといけないです。
そして、フロントです。声を大にして言いたいのですが、現場を少し疎かにしていないでしょうか? クラブの規模を大きくすることももちろん大事ですが、正直そこ(現場を疎かにしていないかという部分)には少し不安を感じています。
フロント、現場、サポーター。昔の鹿島はすべてが同じ方向を向いていました。それぞれが勝つために動いていました。それぞれが、勝つためになにをすればいいか理解していました。Jリーグは残り2試合となりました。モチベーションが難しい2試合だからこそ、勝利を目指してどん欲に戦う姿を見せてほしいです。
構成/飯塚 健司
電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)287号、11月15日配信の記事より転載