[特集/アジアカップのその先は? 02]技巧派のカタール、空中戦のイラン、瞬発力のヨルダン…… キャラクター際立つアジアの最新勢力図

欧州のクラブに所属する選手を多く抱えていることもさることながら、各国リーグで圧倒的な存在感を放つ選手が増えていることもあり、開幕以前は決勝での日韓戦の実現も期待された。

しかし、いざ開幕してみると日本と韓国はおろか、オーストラリアやサウジアラビアといったアジアの強豪国たちが揃ってグループステージから苦戦を強いられた。今大会の全51試合中、3点差以上差がついた試合が6試合しかなかったことからもわかるとおり(2019年大会は12試合)、当然ながらレベルアップしていたのは強豪国たちだけでなかったのだ。

選手個々の技術力の差はまだまだあるかもしれない。ただ、それぞれの国がしっかりとしたキャラクターを持っており、「チーム力」という意味ではむしろアジア各国の差は縮まってきているのかもしれない。カタールの連覇に終わった今大会の結果を踏まえて、アジアの最新勢力図に迫る。

今大会のサプライズはヨルダンとタジキスタン

開催国のカタールがアジアカップでの連覇を達成した photo/Getty Images

24カ国で開催されたアジアカップは開催国カタールが優勝。ちなみに前回に続いて連覇を成し遂げている。

参加国を地域別に分けると、西の中東勢が11チーム、東側は9チーム。それに旧ソビエト連邦の中央アジア3チーム、オーストラリアの計24チームとなる。ベスト4はカタール、ヨルダン、イラン、韓国なの
で地域別では中東3、東アジア1だった。ベスト8まで広げるとタジキスタン、ウズベキスタン、オーストラリア、日本が含まれるので、地域別のバランスは中東3、東アジア2、中央アジア2、オセアニア1と意外とバランスがとれている。

今大会でポット1に入っていた6カ国(カタール、日本、イラン、韓国、オーストラリア、サウジアラビア)の中で、唯一サウジアラビアがベスト8に入れなかった。だが、これは準々決勝で当たった韓国にPK戦で敗れているためで、ポット1同士の潰し合い。残りの5チームはすべてベスト8に入れていて、3チームはベスト4。およそ事前の評価どおりの実力だったといえる。

ポット2からはウズベキスタンとヨルダンがベスト8入りし、さらにヨルダンは切れ味の鋭いカウンターで決勝進出まで果たす躍進を示したが、さらにサプライズだったのはFIFAランキング106位でポット4だったタジキスタンのベスト8。ヨルダンとタジキスタンが新興勢力とし
て台頭したことになる。

ロングボール戦法で異彩を放ったイラン

最前線に入ったアズムン目掛けてロングボールを蹴り、日本の弱点を突くイラン。特に後半はそれが顕著だった photo/Getty Images

キャラクターで異彩を放っていたのがイランだった。地域的には中東勢なのだが、他とは明らかにプレイスタイルが異なっているのだ。中東といえばサウジアラビアやカタールに代表されるように技巧的でパスをつないでいくスタイルなのだが、イランはFWめがけてのロングボールと空中戦がメイン。これはイランの伝統でもあり、他の中東勢よりも体格も大きく高さと重さを持っている。かつての大エース、アリ・ダエイが君臨していたころから空中戦は得意だった。ただ、以前までのようなサイドからのハイクロスではなく、DFからのロングボールで高さを使っていたのは今大会の特徴かもしれない。

このイランのプレイスタイルが奏功したのが準々決勝の日本戦だった。

日本が前線からプレッシングを仕掛けようとすると、すかさず最前列までロングボールを飛ばし、高さを活かして競り落としたボールを拾って、チャンスを作っていった。ある意味、原始的ともいえる戦法だが日本に対して有効だったのは間違いない。また、日本とは対照的な戦い方でもあった。

パスをつないで攻め込もうとするチームの多くは、相手が守っていない場所へボールをつないでいく。およそボールはサイドへ行き着くので、そこで1対1に勝てるタレントがいるかどうかが成否を左右する。今回の日本は伊東純也を大会途中で失い、三笘薫が負傷のためにベストコンディションではなく、いわば飛車角落ちの状態だったのが響いた。

一方、イランはCBを直接攻撃する。相手が守っている場所、つまりCBを攻略することがゴールへの最短ルートだからだ。イランのロングボール攻撃は大雑把であり何の意外性もないが、相手のCBを攻撃して攻略している点において、日本の迂回攻撃よりずっと迫力があり、合理的でもあった。

かつてはオーストラリアがイランと似たキャラクターを持っていた。しかし、ポステコグルー監督に率いられて優勝した2015年大会では、すっかり様変わりしてモダンな攻撃型スタイルになっていた。もはやロングボール戦法主体のスタイルはイランだけになっている。

中東勢は時代の流れで強化。国際経験が今後の課題か

ヨルダンとの決勝で3本のPKを沈め、カタールの連覇に貢献したアクラム・アフィーフ photo/Getty Images

決勝のカードがカタール対ヨルダンだったことに象徴されるように、今大会は中東勢の強さが目立っていた。

連覇達成のカタールは中東勢の変化やキャラクターを体現するチームといえる。有名なアスパイア・アカデミーに代表されるように育成に力を入れてきた。国策的強化はワールドカップ開催が背景にあったわけだが、そもそもワールドカップ開催そのものが国策なのだ。中東諸国はエネルギー産業の衰退を予期し、エンタテインメント産業など次世代への投資を行っている。カタールのワールドカップ開催やサウジアラビアの欧州スター選手の引き抜きなども、その流れの中にある。欧州サッカーの今日の隆盛も、カタール、サウジアラビア、UAEのマネーに支えられてのものだ。

ともあれ、カタール、サウジアラビア、UAEがサッカーに本腰を入れてきた。育成過程では欧州からの指導者、理論を採り入れていて戦術的に洗練。もともと持っていた個々のテクニックに加え、弱点だった戦術面の整理や体力の向上がもたらされ、レベルアップしている。

優勝したカタールは変則的なシステムだった。[4-2-3-1]の右サイドハーフがSBに下がって5バック化する。片側だけがワーキングウインガーという、ブラジルの昔懐かしい形に近い。戦術上の運用が洗練されてきたわけだが、それ以上に育成を背景として優れた人材を生み出している。

大会得点王とMVPを受賞したアクラム・アフィーフは主に左ウイングとしてプレイした。トリッキーなアイデア、絶妙なボールタッチとスピードを持つ。文句なしの大会ベストプレイヤーだった。前回大会得点王のアルモエズ・アリ、そして今回のアフィーフのような逸材が現れているのが大きい。

中東勢の弱点は国際経験の乏しさだろう。カタールは以前からコパ・アメリカに出場するなど、積極的に国際試合を続けてきた。ただ、ほとんどの選手は国内リーグでプレイしている。欧州サッカーの強度を日常的に体験しているわけではなく、そこをどう克服していくかは今後の課題になりそうだ。

東側に足りていない中東勢とは“逆の”国際経験

グループステージ初戦のバーレーン戦では2ゴールの活躍。韓国から大会ベストイレブンにも選ばれた韓国の至宝イ・ガンイン photo/Getty Images

旧ソ連の中央アジア勢は洗練されたパスワーク、コンビネーション、アタッカーの裏へ抜けるスピードが伝統的。キルギス以外の2チーム(ウズベキスタン、タジキスタン)がそのキャラクターを活かしてベスト8入りしていて、ベスト4には行けなかったが可能性は示した。

東アジアは韓国がベスト4入りしたが、優勝候補筆頭だった日本は準々決勝で敗退した。韓国と日本は主力の多くが欧州リーグでプレイしている。アジアカップのレベルは彼らが普段プレイしている欧州主要リーグほど高くない。そう考えると、日本と韓国は自ずと優勝候補にあげられるのだが、個々の能力は高くてもチームとして図抜けた存在にはなっていなかった。

日本や韓国の弱点はカタールなど中東勢とは“逆の意味”での国際経験だ。日本はグループリーグでイラクが対策してきたロングボール戦法に敗れている。さらにイランにも同じ戦法でやられた。明らかに苦手なタイプがあるわけだが、イラクとイランの戦法は日本の主力がプレイしている欧州リーグにもJリーグにもほぼない戦法だった。

森保監督や選手たちはしばしば「アジアの戦いの難しさ」を口にしていた。しかし、多くの選手がプレイしている欧州よりアジアのレベルが高いわけではない。つまり自分たちに弱点があり、そこを突かれると足下をすくわれる可能性があると、ある程度予期していたのだろう。

アジアには主に地域によっていくつかのプレイスタイルがある。代表選手の大半が自国リーグにいる場合、欧州リーグに所属している場合とでは、編成の状態に違いがあるが、明確なキャラクターを持つことで強豪国を苦しめるチームも増えてきた。今大会を見ても分かる通り、アジア全体のレベルアップは間違いなく進んでいる。

ただ、世界を見据えたときにはやはりアジアのトップとなるのは日本、韓国、イラン、サウジアラビア、オーストラリアの5強。そこに連覇を達成したカタールを加えた「新たな6強」がアジアをリードしていくこととなるだろう。


文/西部謙司

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)290号、2月15日配信の記事より転載

記事一覧(新着順)

電子マガジン「ザ・ワールド」No.299 フリック・バルサ徹底分析

雑誌の詳細を見る

注目キーワード

CATEGORY:特集

注目タグ一覧

人気記事ランキング

LIFESTYLE

INFORMATION

記事アーカイブ