[特集/アジアカップのその先は? 01]抱えていた慢心は教訓となった 名良橋晃が見た、8強敗退日本の“現実”と“伸び代”

 アジア杯開幕前の日本は、圧倒的多数の支持を受けて優勝候補にあげられていた。しかし、いざ大会がはじまるとベトナムに苦戦し、イラクに敗れるという波乱のスタートを切ることになった。

 インドネシアを下してグループ2位でラウンド16に進出したものの、チーム状態は上向かずに続くバーレーン戦でも失点して4試合連続失点と不安は拭えず。そして、迎えた準々決勝のイラン戦では先制点を奪ったものの後半になって劣勢を強いられ、終了間際にPKを許して1-2で惜敗となった。

 前回の準優勝を下回るベスト8で敗退となった日本。この結果をどう受け止め、今後に繋げればいいのか。本誌のご意見番である名良橋晃氏が提言する。

解決策がなかったベンチ ただの継続は停滞を招く

日本は準々決勝でイランに敗れた。相手の圧力を跳ね返せず、ベンチからの効果的なアクションもない敗戦となった photo/Getty Images

 優勝を目標に掲げているなか、日本はベスト8で敗退となりました。日本全体、私も含めてメディア、サポーター、日本サッカー協会(JFA)、さらには選手もそうだったかもしれませんが、率直に言ってアジアを軽視していました。連勝していて、失点も少なかった。好調のまま大会を迎えたことで、アジア杯の難しさ、真剣勝負の雰囲気が薄れていたのかもしれません。アジアのみなさんに「ごめんなさい」と言いたいです。

 各チームが過剰に日本をリスペクトすることなく、強度の高い守備で対応してきました。どのチームもドン引きというのがなく、前からしっかり圧力をかけてくる時間帯がありました。ベトナムにしても状況に応じてパスを繋ぐところはしっかり繋いできました。W杯の出場枠が増えた影響だと思いますが、「オレたちにもチャンスがある」という意気込みを各国から感じました。日本はいままで以上にちゃんとアジアと向き合う姿勢を持っていないといけないです。

 日本の攻撃を振り返ると、ビルドアップのところで相手がセンターバックとボランチにプレスをかけてきたときに、スムーズに前進できていませんでした。準々決勝のイラン戦の後半は最終ラインでボールを持った選手が出口を見つけられず、パスを引っかけたり、プレスをかわせずロストしたりというのがありました。

 前のほうでは久保建英が左サイドに流れるなどアバウトなポジションを取り、パスを引き出そうとしていました。しかし、相手が高い位置から日本のセンターバックとボランチに規制をかけてきたことで、どうしても窮屈になっていました。

 ひとつの対策として、前線を厚くしてボールが収まるところを増やしてもよかったかもしれません。上田綺世と細谷真大の2トップ気味にして、後方からのボールを収めて時間を作るなど──。森保一監督は2トップという選択をあまりしませんが、アジア杯がこういう結果に終わった以上、攻撃のバリエーションは増やさないといけないです。

 大会前のチェックポイントとして、相手がパワーを生かしたロングボールを使った攻撃を仕掛けてきたときに、どう対処するかというのをあげていました。これに関しては、不安が的中してしまいました。今後、対戦相手はマイボールになったら素早くロングボールを蹴ってくるでしょう。日本に対してはこのスタイルが効果を発揮していました。間違いなく、定番化されると思います。

 敗れた2試合、イラク、イランとの戦いがそうでしたね。イラン戦に関しては、板倉滉が前半にイエローをもらって厳しくいけない状況になり、完全に狙われていました。日本がハイプレスにいってもシンプルに蹴られて、裏返される。跳ね返してもライン間が間延びしていることでセカンドボールを拾えずに2次攻撃を受ける。自分たちがボールを持っても出口を見つけられず、ビルドアップできない。いわゆる悪循環に陥っていました。

 これまでの戦いでは、問題が起きても選手たちがピッチ内で解決できていました。しかし、アジア杯では対応できないケースがあると明確になりました。ボトムアップでの限界が見えたので、チームとしてどう対応するかの大枠を戦術的に落とし込んでいかないといけない。継続も大事ですが、ただ続けるだけでは停滞を招きます。こういう結果が出た以上、今後はベンチからのアクション、何かしらの工夫が必要になってきます。

日本は心・技・体が整わず万全の状態ではなかった

ケガの影響、イエローの影響、G K 鈴木をフォローしなければならない影響など、負担を抱えたイラン戦の板倉は本調子でなかった photo/Getty Images

 これはもう後出しじゃんけんになってしまうのですが、過去のW杯やアジア杯のように、経験のあるゴールキーパーがひとりはいたほうがよかったのではないかなと思います。鈴木彩艶は高いポテンシャルを持っていますが、ゴールキーパーはひとつの判断ミスが失点につながる難しいポジションです。今大会はメンタルのコントロールがうまくいかず、裏目に出てしまった部分がありました。

 私の息子(拓真/J3宮崎)はゴールキーパーをやっているので、話をしているとフィールド目線とゴールキーパー目線はやはり違うなと感じるときがあります。たとえばキャッチなのかパンチングなのかは、ボールの軌道や回転によって違ってきます。そこの判断はすごく難しいという現実があります。

 バーレーン戦で喫した1失点はコーナーキックからでしたが、その前に鈴木彩艶がハイボールを片手でパンチングしてクリアしたプレイがありました。いろいろ指摘されていたことで、メンタルが少しネガティブになっていたのかもしれません。フリーで相手もいなかったので、パンチングするにしても両手でいってほしかったです。

 しかし、もう結果が出て終わったことです。ひとつ言えるのは、今回の経験をムダにしてほしくないということです。鈴木彩艶のプレイに限らず、今大会ではスポーツはやはり心・技・体だなと感じました。三笘薫、冨安健洋は万全の状態ではなく、決勝ラウンドでは板倉滉も本来の状態ではありませんでした。久保建英もケガ明けでした。選手個々の心・技・体、チームとしての心・技・体があって、そのどこかが少しでも乱れるとプレイに影響が出ます。とくに、ゴールキーパーはその傾向が強いなと感じました。

 ディフェンスラインにゴールキーパーをかばう意識が生まれると、どうしても連携に影響が出てきます。「自分が踏ん張らないと」という思いから、いつもと違うポジショニング、動きになり、連携がズレてくるのです。

 心・技・体という面では、伊東純也に関するニュースも間違いなく影響があったと思います。短期間のうちに、離脱します→残ります→離脱しますと、JFAの判断が二転三転しました。これはやはり選手はもちろん各方面にショックがあって、歯車が狂ってしまったなと感じます。チームとして、万全の状態でなかったのは明らかです。

理想の限界が見えてしまった 経験あるスタッフが必要かも

理想の限界が見えた日本。コーチングスタッフのなかに、経験ある人材が必要かもしれない photo/Getty Images

 難しい大会になりましたが、右サイドバックを務めた毎熊晟矢は素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。ひとつ前のポジションでプレイする選手との連携もよく、攻守両面で安定していました。序列が上がったのは間違いなく、こうした選手間の競争によってチームはレベルアップしていきます。

 コンディションが懸念された上田絢世は1トップとして絶対的な存在であることを示してくれました。南野拓実からは決定力の高さはもちろん、大舞台に挑む気持ちの強さを感じました。久保建英や堂安律もさすがでした。相手の術中にハマらない絶妙なポジション取りでボールを受け、両名ともに攻撃の基点になっていました。

 こうした選手たちをどうマネジメントし、チーム力を高めていくかが森保一監督には求められます。攻撃のバリエーションは増やさないといけないでしょう。ビルドアップするときの出口も必要だし、サイドアタックももっとほしいです。私はずっと指摘していますが、ミドルシュートの意識とセットプレイの精度ももっと高めてほしいです。

 単純に“迫力”も足りなかったですね。後方から追い越す動き、カウンターの迫力、スピーディーさが他国に比べると足りませんでした。なんと言うか、複雑化し過ぎているので、もっとシンプルに考えてもいいのかなと思います。とくに攻撃は頭でっかちになっている印象があります。

 昨今は否定的にとらえられる根性論になりますが、泥臭さ、執念といったものが他国に比べて感じられませんでした。とくに中東勢は理屈ではなく、とにかく国を背負って戦っていました。その気持ちの強さはハンパではなく、きれいごとじゃないなとつくづく感じました。

 もし優勝していたら、日本は「このままでいいよね」となっていたでしょう。森保一監督の采配に関して、カタールW杯では前半我慢し、後半になって動いて成功しました。今大会は後手を踏む場面があり、逆の結果となりました。采配によってどういう結果が出るかは表裏一体ですが、今後にJFAがどんな判断をするか注目しています。

 アジア全体がレベルアップするなか、先駆けてレベルアップしてきた日本が今後にどうしなければならないか。問題に直面したときに選手たちがピッチで判断して解決するのが理想でしたが、現実が見えてしまいました。ひとつの提案として、コーチングスタッフのなかに然るべきポストを用意して、経験ある人材を入れるのはどうでしょうか。今大会の結果を受けて、日本はもう一度足元を見つめ直さないといけない。気づいたときに、変わらないといけないです。


構成/飯塚健司

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)290号、2月15日配信の記事より転載

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