[特集/究極・三つ巴戦線 02]明確な武器から繰り出される致命的な一撃 3強の運命を左右する要注意選手6人

アーセナル、リヴァプール、マンチェスター・シティのデッドヒートとなっているプレミアリーグはラスト10試合。第30節にシティ対アーセナルが残されているものの、それ以外に3チームの直接対決はすでに終わっている。

となると、鍵を握るのは下位チームに対していかに取りこぼしを少なくするか。1敗どころか、1失点すら命取りとなる可能性が高い今季の優勝争いにおいて、油断ならないのは明確な武器をもったアタッカーたちだ。

まだまだ曲者たちとの戦いが続いていくなかで、3強に致命的な1失点を与えることができる選手は誰なのか。もしかしたら、彼らの一発が運命を変えてしまうかもしれないのだ。

周囲も活かして相手に迫るマッギンとソン・フンミン

第16節アーセナル戦では決勝ゴールを決めたマッギン。シティ戦からの連勝の立役者となった photo/Getty Images

これから優勝争いを繰り広げる3強と当たるチームとして、まず注目されるのがアーセナル、リヴァプール、シティの3強すべてと当たるアストン・ヴィラ、トッテナム・ホットスパー、ウォルバーハンプトン、ブライトンだ。

中でも、第28節時点で4位につけているアストン・ヴィラは“中堅の名将”ウナイ・エメリ監督の下、対策に冴えをみせる。ホームではシティ、アーセナルに連勝。相手の長所を抑え、弱点をつくスタイルは強豪相手にも実証ずみだ。

エースストライカーのオリー・ワトキンズ、ジャマイカ人ウイングのレオン・ベイリーが攻撃の切り札だが、忘れてはいけないのが攻守両面で存在感を放つキャプテンのジョン・マッギンだ。

この曲者はスコットランドの選手らしくハードワークができて、そのずんぐりした体格と硬めの身のこなしとは裏腹な左足の繊細なボールタッチと確かな状況判断でチャンスメイカーとなっている。相手に応じて細かな対策を練るエメリ監督にとって頼りになるフィールドのリーダーだ。シティとアーセナルに連勝した際には、パス、ドリブル、守備と、多岐にわたって相手を苦しめていた。

第28節トッテナム戦での一発退場により、マッギンは第31節シティ戦には出場できない。シティにとっては朗報か。一方で、第33節で相見えるアーセナルは少しリフレッシュしたマッギンと対峙することになる。前半戦では相当苦しめられただけに、この差がどう出るか。また、第37節で対戦するリヴァプールにとっても、肉体だけでなくメンタル的にも追い込まれる可能性がある最終盤で、こういった闘えるタイプの選手が目の前に立ちはだかるのはできれば避けたかったかもしれない。

前半戦では3強相手に全ての試合でゴールを決めたソン・フンミン photo/Getty Images

5位のスパーズはアストン・ヴィラとは対照的にアンジェ・ポステコグルー監督の攻撃スタイルの旗の元、自分たちのサッカーをぶつけていく。勢いに乗ったときの攻撃はスピーディーでアグレッシブ。3強とも正面からの打ち合いを挑むだろう。その先頭に立つのがソン・フンミンだ。

相変わらずの俊足と1対1の突破力だが、より円熟味を増した。冷静に周囲の状況を把握してのラストパスに味が出てきた。以前は左サイドでの突破力が際立っていたが、CFとしてプレイする機会が多くなった。プレミアらしいパワフルなCFではなく、スピードと巧さが際立つタイプ。かつての単独プレイから味方を上手く使っての連係で新境地を拓いている。

高い得点能力も言わずもがな。今季前半戦ではアーセナル相手に2ゴール、リヴァプールとシティ相手に1ゴールと、しっかり数字を残している。トッテナムは今季、ソン・フンミンがゴールを決めた試合はいまだ負け知らず(9勝2分)。優勝へ向けて3強が勝ち点の取りこぼしを防ぐためには、ソン・フンミン封じは必須だ。

小柄なテクニシャンとプレミアらしい正統的CF

第5節リヴァプール戦では1-3で敗れはしたものの、鋭いドリブルからアシストを記録したネト photo/Getty Images

順位はアストン・ヴィラ、スパーズから下がって8位ながら、ウルブズも気になる存在だ。アーセナル、シティと対戦した後、リヴァプールとは最終節で当たる。僅差勝負の優勝争いは最後までもつれる可能性があり、リヴァプールはスパーズ、アストン・ヴィラの次がこのウルブズ戦。一方、シティも2節前にウルブズと対戦。最終盤に優勝を左右するチームとなるかもしれない。

そのなかで、注目はペドロ・ネト。ウイングの名産地であるポルトガルのレフティだ。細かいタッチから一気に加速していくドリブル、多彩なテクニックはいかにもポルトガル的。2、3人の間をするすると抜けていくセンスもある。実際に第5節リヴァプール戦では、ドリブルで3人の間をぶち抜きペナルティエリア内へ進入し、ファン・ヒチャンのゴールをアシストするシーンがあった。

小柄だがフィジカルコンタクトにも強く、接近戦でボールを自分の前にこぼす技術にも長けている。左右どちらのサイドでもプレイできて中央もやれる。左足のキックが正確。ヘッドダウンしてドリブルするので周囲が見えていないようだが、ちらりと盗み見するように状況を把握していて、ドリブルしながら的確にラストパスのターゲットを見つけることができる。懐から飛び出すようなキックは鋭く、精度が高い。

ネトは第28節フラム戦で負傷交代を余儀なくされた。ただ、3強との対戦は幸いにも1カ月以上先。もし試合に間に合えば展開の優劣関係なく個の力でさまざまな局面を打開できるネトは、3強といえども警戒せざるを得ない存在だろう。

今季もこここまで6ゴールを挙げているファーガソン photo/Getty Images

3強すべてと対戦するブライトンは目下10位。主力の負傷離脱が続き、一時期の勢いはなくなっている。切り札である三笘薫の今季中の復帰は難しく、十八番の擬似カウンターもかなり対策されるようになった。

ただ、ボール保持率は相変わらず高い。チャンスを効率よく得点に結びつける点で要注意なのがエヴァン・ファーガソンだ。

故郷アイルランドのボヘミアンFCで14歳にしてトップチーム昇格という早熟のストライカー。体格がよく、素早さとパワーを兼ね備える。ダイナミックで真っ直ぐにゴールを目指す姿は英国の正統的CFの系譜だ。9月のニューカッスル戦ではハットトリックを達成していて、18歳以下としてはプレミア史上4人目の快挙だった。

チームの停滞とともに昨年末からゴールがない。しかし、アーセナル戦のゴールをきっかけに勢いに乗った昨季中盤戦のように、1つのゴールで一気に調子が上向く可能性は十分あるだろう。それだけに第29節シティ、第30節リヴァプール、第32節アーセナルと、3強との対戦が固まっていることも、優勝を狙うクラブにとっては不気味かもしれない。

異彩を放つ2人の10番。3強にとっても脅威か

ビッグマッチに強いラッシュフォード。3月3日のマンチェスター・ダービーでも強烈な一撃を叩き込んだ photo/Getty Images

そのほかにも、6位のマンチェスター・ユナイテッドはアーセナル、リヴァプールとの対戦を残している。どちらもホーム、オールド・トラッフォードのゲームなので、ここも優勝争いに影響を与える可能性が高い。

新加入のラスムス・ホイルンドは馬力と得点感覚に優れたストライカーで、ユナイテッドのエースとして真価をみせられるかが注目される。ただ、個の力でこじ開けられるタレントといえば、やはり10番を背負うマーカス・ラッシュフォードだろう。

好不調の波はあるものの、好調時の無双ぶりはよく知られている。劣勢の中でもカウンター一発でゴールを呼び込める突破力は魅力的で、ビッグマッチにも強い。2ゴールしか挙げることができずイマイチ調子の上がらなかった前半戦でも、アーセナル(第4節)を相手に鋭いカウンターからゴールを揺らした。先日のマンチェスター・ダービーでも強烈なミドルシュートを決めている。ツボに入ったときのスピーディーなドリブルと爆発的なフィニッシュはアーセナル、リヴァプールにとっても脅威だ。

独特なスタイルで異彩を放つパケタ photo/Getty Images

さらに7位ウェストハムもシティ、リヴァプールとの対戦がある。デイビッド・モイーズ監督が仕込んだコンパクトな堅守が持ち味。ハードワークに徹するチームの中、毛色が違っているルーカス・パケタに注目したい。

ラッシュフォードと同じくチームの10番を背負うパケタ。主にMFの左でプレイし、他のチームメート同様にハードワークをこなすが、攻撃でのアイデアと技術は他と一線を画している。スペースの見方、プレイ選択がプレミアでは独特で、ブラジルのクラッキに共通するセンスを持つ。複数の相手を操りながら、わざと集結させてまとめて置き去りにする感覚。ブラジル伝統の独特なアプローチは現在では身に着けている選手が少なく、カタールワールドカップのブラジル代表ではネイマール、ロドリゴ、パケタの3人くらいだった。

直線的で速く、パワフルなプレミアでは希少であり、さらに堅守とハードワークのウェストハムではほとんど異物なのだが、パケタはハードワークができるのでその点で違和感はない。そして時折みせる周囲と隔絶したアイデアでチャンスを作り出す。特にリヴァプール戦は得意としている印象で、昨季第33節では素早い囲い込みをものともせず左サイド(リヴァプールの右サイド)をこじ開けて華麗なミドルシュートを決めた。今季第6節でもパスやドリブルでを翻弄していた。なぜ、ウェストハムにいるのか不思議な感さえあるが、それだけに面白い存在にもなっている。

アーセナル、リヴァプール、シティの前に立ちはだかる6名のアタッカーたち。3強に一泡吹かせるだけの武器は持っており、今季の頂点に立つためには彼らをしっかり抑えなければならない。一切油断できない状況の中、彼らに屈せずトロフィーを手にするのはどのクラブか。

※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)第291号、3月15日配信の記事より転載

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