プレミアリーグの優勝争いが激化している。3月14日時点では、28節のリヴァプール×マンチェスター・シティが1-1の引分けに終わったことで、それまで3位だったアーセナルが勝点64(得失点差+46)で首位に躍り出ている。ただ、2位リヴァプールも勝点64(得失点差+39)で並んでいるし、3位シティも勝点63(得失点差+35)でピタリと追走している。プレミアが三つ巴の優勝戦線になったのは久しぶりのことで、昨季はマンチェスター・シティとアーセナルの争い、21-22シーズンはシティとリヴァプール、20-21シーズンはシティ独走のシーズンだった。
クラブ初のリーグ4連覇を目指すシティ、ユルゲン・クロップ監督の勇退に華を添えたいリヴァプール、そして優勝すれば20季ぶりとなるアーセナル。どのクラブもタイトルを目指すモチベーションにあふれていて、それが今季の3頭レースをこのうえなくエキサイティングなものにしているのは間違いない。シティも、リヴァプールも、アーセナルもとにかく強い。近年稀に見る驚愕のレベルで展開されるプレミア優勝争い。果たして、長いシーズンの終わりに笑っているのはどのクラブになるのだろうか。
8連勝中のアーセナルはシティとの直接対決を残す
リヴァプール×シティは1-1のドローに。遠藤航は先発し奮闘を見せた photo/Getty Images
2024年を迎えて、アーセナルはプレミアで負けていない。21節クリスタル・パレス戦(5-0)の大勝を皮切りに、23節リヴァプール戦(3-1)の勝利を含む8連勝でついに首位へと躍り出た。
監督就任5年目を迎えたミケル・アルテタのもと各選手が連携・連動するスタイルを継続して築き上げてきたが、ここにきてMFデクラン・ライス、MFカイ・ハフェルツを加えた2023-24バージョンのチームが爆発的な得点力を誇っている。
24節ウェストハム戦(6-0)、25節バーンリー戦(5-0)はいずれもアウェイゲームだったが、終始ボールを支配して試合を展開。自分たちのリズムでパスをつなぎ、自分たちのしたいサッカーで圧勝した。本拠地での26節ニューカッスル戦(4-1)を挟んで迎えた敵地での27節シェフィールド・ユナイテッド戦(6-0)はより衝撃的で、前半25分を終えて4-0。この時点でシェフィールド・Uのサポーターはゾロゾロと帰路についており、実力差をみせつけての圧勝だった。
28節ブレントフォード戦ではGKからビルドアップするときにミスが発生して失点し、1-1という時間帯が続いた。粘り強い守備を崩すのに苦戦し、前がかりになって攻めることでときおり失点のピンチがあるも、86分に攻撃参加したDFベン・ホワイトからのクロスにハフェルツが頭で合わせて2-1で競り勝った。この勝利と、翌日のリヴァプール×シティが1-1に終わったことでアーセナルがついに首位に立っている。
ただ、もちろんまだまだ予断は許さない。リーグ戦の残りは10試合で、そのなかには30節シティとの直接対決、33節アストン・ヴィラ戦、35節トッテナム戦など上位対決が残っている。37節マンチェスター・ユナイテッド戦もひとつでも順位を上げるべく、相手が高いモチベーションで挑んでくると予想できる。首位には立ったが息抜きはできない状況で、まずは4月1日(日本時間)のシティとのアウェイゲームが今季の命運を握るビッグマッチになる。
チーム状況をみると、DF冨安健洋がふくらはぎの負傷から戻り、FWガブリエウ・マルティネッリの足の負傷も重度ではなさそうだ。その他DFユリエン・ティンバーが引き続き十字じん帯の回復を待っているほかは各選手がコンディションを維持し、強度高く戦えている。リヴァプールを3-1で下したときもそうだったが、ハフェルツを1トップとする[4-3-3]は動きがあって相手DFが各選手を捕まえづらい。
FWブカヨ・サカの突破力。MFマルティン・ウーデゴーの神出鬼没な動き。ライスの絶妙なタイミングでの飛び出し。両サイドバックの攻撃参加。ピッチの至るところにストロングポイントがあって、どこを抑えればいいのか……。ハフェルツも4試合連続得点とここにきてブンデスリーガ時代の輝きを取り戻している。アルテタは未だエティハド・スタジアムで勝利したことがないが、ここで引き分け以上の結果を持って帰ることができたなら、いよいよ2003-04シーズン以来20季ぶりの優勝がみえてくるか。
アーセナル、リヴァプール、シティともに欧州カップ戦を勝ち上がっているのは同じだが、アーセナルはすでにFA杯で敗退している。同大会、さらにはCL、ELはこれから準々決勝、準決勝、決勝と最終段階に入っていく。今後の勝ち上がりによって変動するが、アーセナルにはライバルたちよりもわずかに試合数が少ないというメリットもある。
若手と新戦力のリヴァプールは決定力のなさがやや不安
20歳の俊英ブラッドリーが台頭するなど、ケガ人をカバーするように若手が躍動しているのは大きい photo/Getty Images
28節シティ戦に引き分けて首位陥落となったリヴァプールは、すでにライバル2チームとの対戦を終えている。しかし、32節ユナイテッド戦、36節トッテナム戦、37節アストン・ヴィラ戦といった上位との戦いを残していて、FA杯、ELも勝ち残っている。カラバオ杯に続くタイトル獲得を目指すが、厳しい試合が続くシーズン終盤となる。
そうしたなか、あまりにもケガ人が多い。改めて整理すると、GKアリソン・ベッカーがハムストリングを痛めて復帰見込みは4月中旬となっている。DFジョエル・マティプは十字じん帯断裂で今季中の復帰は不可能。DFトレント・アレクサンダー・アーノルド、FWディオゴ・ジョタもヒ
ザのじん帯を痛め、MFステファン・バイチェティッチ、MFチアゴ・アルカンタラは筋肉系のトラブル。MFカーティス・ジョーンズ、MFライアン・グラフェンベルフ、FWベン・ドークも戦線離脱している。
A・アーノルド、ジョーンズは3月中の復帰が期待されるが、その他の選手はもう少し時間がかかるかもしれない。ただ、本来ならチームが崩壊しかねない緊急事態だが、ユルゲン・クロップ監督のもと戦う9シーズン目であり、揺るぎないスタイルが植え付けられている。チャンスを得た選手たちが躍動しており、カラバオ杯に優勝したように、シティとの直接対決に引き分けたように、チーム力は決して落ちていない。
冷静で鋭い反応をみせるGKクィヴィン・ケレハーを守護神に、DFジャレル・クアンサー(21歳)、DFコナー・ブラッドリー(20歳)などが最終ラインで若者らしい外連味のないプレイでチームに勢いをもたらし、中盤ではいずれも今季加入したMF遠藤航、MFアレクシス・マクアリスター、MFドミニク・ショボスライが絶妙な距離感を保って強度の高いプレスで相手の自由を奪い、素早い攻撃へとつなげている。
選手の顔ぶれが昨季から様変わりし、リヴァプールの中盤はこれによって攻守両面で精度を増している。とくに、遠藤とマクアリスターは一緒にプレイする時間が増えてきたことで連携・連動するシーンが目立ち、シティ戦でも遠藤がプレスにいったときは後方をマクアリスターがカバーするなど意思の疎通が取れていた。
「(リヴァプールには)遠藤とマクアリスターがいた。パスをつなげる選手がいて、質の高いプレイもしていた」
これは試合後のペップ・グアルディオラ監督のコメントで、両名が中盤でいかに効いていたかを物語っている。
こうしてみていくと、リヴァプール優勝の鍵を握るのは前線の決定力かもしれない。エースFWモハメド・サラーは復帰したが、負傷明けでまだ万全ではない。FWダルウィン・ヌニェス、FWルイス・ディアス、FWコーディ・ガクポ、FWハーヴィ・エリオットのなかから先発3名を選ぶことになるが、決定力という面ではサラーに及ばない。
シティ戦もルイス・ディアスが決めていれば、ガクポが迷わずにシュートしていたらというシーンが散見された。27節ノッティンガム・F戦もなかなかゴールネットを揺らせず、終了間際にCKの流れからヌニェスが劇的な決勝点を奪っての勝利だった。
ケガ人が多いなか、アカデミー育ちの若い選手たち、今季加入した選手たちの力でリヴァプールは国内3冠(プレミア、FA杯、カラバオ杯)、さらにはEL制覇も狙っている。そのためには、過密日程を戦い抜かないといけない。ケガ人が少なく、試合数も少ないアーセナル。同じくケガ人が少なく、優勝経験が豊富なシティ。リヴァプールがプレミアリーグを制するには、ライバルに劣るこれらネガティブな要素を払しょくする力が必要になる。
シティは優勝方法を知っている 4連覇+2年連続3冠を目指す
リーグ18ゴールを挙げ、今季も得点ランキングトップを走る。やはり怪物ハーランドは恐ろしい photo/Getty Images
残り10試合の時点で3位にいるが、プレミア3連覇中のシティはどのチームよりも優勝経験が豊富だ。シーズンの“締め方”をわかっていて、昨季は後半戦に12連勝を達成している。尻上がりに調子を上げる傾向があり、今季も15節アストン・ヴィラ戦(0-1)に負けて以降、FA杯、CLを含めて黒星がない。アーセナル、リヴァプールが今後の試合で勝点を取りこぼすようだと、シティが3位からまくることになる。
最大のヤマ場はなんといっても30節アーセナルとの直接対決になる。昨季は33節という大詰めで対戦して4-0で完勝し、そのままの勢いで3連覇を達成している。グアルディオラ監督を筆頭に勝負どころを心得た選手が多いシティにとっては再現を狙う一戦で、勝ったほうが優位に立つ両者の今季を決定するいになりそうだ。
とはいえ、アーセナル戦のあともプレミア、FA杯、CLで落とせない試合が続く。上位との対戦も31節アストン・ヴィラ戦、34節トッテナム戦を残しており、決して簡単な日程ではない。FA杯でリヴァプールと、CLではアーセナルと対戦する可能性もある。
懸念されるのは試合数の多さで、ケガ人はいないが少数精鋭で戦っている面があり、強度を保てるかという不安がある。ただ、力を発揮できないとき、うまく試合を運べないときでもなんとかしてしまうのがグアルディオラ監督とシティの選手たちである。
28節リヴァプール戦は攻撃的MFのケビン・デ・ブライネとベルナルド・シウバが思うようにボールを持てず、前線のFWアーリング・ハーランドまでボールを運ぶことがなかなかできなかった。すると、グアルディオラ監督はデ・ブライネに代えてFWジェレミー・ドクを投入し、サイドを個人技で崩すことを狙った。
得点にはならなかったが、ドクが左サイドでボールを持ち、巧みなコントロールから左足シュートを放ってゴールポストを直撃したシーンがあった。グアルディオラ監督の交代によってシティの攻撃が活性化されたのは間違いなく、こうした柔軟性、対応力を持つのが3連覇中の王者のストロングポイントになる。
昨季、すでにプレミア、FA杯、CLの3冠を達成している。過密日程を戦い抜かなければならないが、シティにとってははじめてのことではない。監督はもちろん、各選手がどうしなければいけないか、これからの一試合一試合がどういう意味を持つか十分に把握している。いまは3位にいても、優勝に近いのはやはり経験豊富なシティなのかもしれない。
カギを握るのはヴィラとスパーズ 4位争いがトップ3にも影響与える
最後まで全力でゴールを目指してくるスパーズ。6節ノースロンドンダービーではアーセナルがリードを奪った直後にミスを突かれ失点、ドローに持ち込まれている photo/Getty Images
試合日程に目を戻すと、優勝争いを繰り広げる3チームの直接対決は30節のアーセナル×シティだけとなったが、いずれも4位アストン・ヴィラ、5位トッテナムとの試合を残している。この両チームとの戦いが、優勝争いの行く末を握っている可能性が高い。ヴィラもスパーズもひとつでも勝点を多く獲るべく、モチベーション高く挑んでくるはずだからだ。
シティとアーセナルは、今季のアストン・ヴィラに土をつけられている。ウナイ・エメリ監督は対戦相手の良さを消すことに長けた指揮官で、どちらも前半でまんまとリードを奪い、そのまま逃げ切ってしまった。決して主導権を握って戦うチームではないが、現在までの得点数はトッテナムやニューカッスルと並ぶ「51」。エースFWのオリー・ワトキンズはリーグ16ゴール10アシストと大暴れしている。ここぞの決定機を外さないチームで、攻めても攻めても点が取れない展開に持ち込まれ、そこからカウンターで一発……、というシナリオも十分に考えられる。
トッテナムは今季序盤に圧倒的な攻撃力で首位に立っていた。一時は離脱者の多さに悩まされていたものの、負傷していたMFジェイムズ・マディソンや、代表への招集でチームを離れていたFWソン・フンミン、MFイヴ・ビスマらが戻り、序盤の勢いを取り戻しつつある。28節では4位争いの直接のライバルとなるアストン・ヴィラを4-0と大差で叩いており、やはりその攻撃力は脅威だ。
4月20日にシティ戦、4月27日にアーセナル戦、5月4日にリヴァプール戦と、くしくも優勝を争う3強と3連戦を戦うことになっていて、ここでトッテナムがライバルたちを相手にどれだけのサッカーを見せるかがプレミア終盤の大きなヤマ場となりそうだ。特にアウェイで戦わなくてはならないシティ、アーセナルにとっては大きな壁であり、撃ち合いも厭わないアンジェ・ポステコグルーの超攻撃的なサッカーは優勝戦線に大きな狂いをもたらすかもしれない。
勝点1の取りこぼしが致命傷となるなか、上位勢との戦いでアーセナル、リヴァプール、シティがどんな結果を残すか。恐ろしいほどの高いレベルで展開されるプレミアリーグの優勝争いは、ひとつのミスで勝点を伸ばせなかったチームから脱落していく。そんなチキンレースの様相を呈してきた。
文/飯塚 健司
※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)第291号、3月15日配信の記事より転載