強豪クラブには、良質なボランチ(守備的MF)がいる。このポジションがうまくいけば、チームが機能することになる。たとえばリヴァプールは遠藤航が加入したことで、アレクシス・マクアリスターの能力がより引き出されている。
逆に、ここが定まらないといくら良い選手を揃えてもチームはうまくいかない。ブンデスリーガで長く我が世の春を謳歌していたバイエルンがこの例にあたり、無敵だったはずの王者の存在感が薄れているのもボランチが安定しないのが一因だ。ボランチは好守をつなぐ要所で、チームの原動力となる。強豪チームで欠かせない存在となっている現代の名ボランチたちを、クラブでの役割とともに紹介する。
ロドリが出れば負けない ライス加入で得点力アップ
CLではロドリVSクロースというハイレベルな戦いが実現。どちらもチームに欠かせぬ屋台骨だ photo/Getty Images
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プレミアリーグは三つ巴の激しい優勝争いとなっているが、3強はいずれもボランチが安定している。アーセナル、リヴァプール、マンチェスター・シティ。まずはこの3チームのボランチを見てみる。
シティは31試合を終えて3敗している。7節ウォルバーハンプトン戦、8節アーセナル戦、15節アストン・ヴィラ戦に敗れているが、ここには共通項がある。いずれもボランチであるロドリが出場していなかったのである。
特長をあげるといくつも浮かぶ。足元がうまく、視野が広い。判断もプレイも早く、パスも正確。戦況を読む力もあり、攻守で常に的確なポジションを取っている。身長190センチと体躯もあり、ボディコンタクトにも強い。
さらに、ロドリはシュート力もある。昨年夏に来日して横浜FMと対戦したときは、PA外から20メートル超えのロングシュートを実にしなやかなフォームで簡単に決めている。
シティは[4-1-4-1][4-2-3-1]などで戦うが、アンカーまたはダブルボランチの一角を務めるロドリがボールを持つと、全選手の意識がゴール方向へ向く。当然、相手は素早く潰しにいくが、ロドリは巧みなボールタッチでかわし、なおかつ同時進行で味方の動きを視野にとらえていて効果的なパスを出す。あるいは自らボールを前方に運ぶ。
攻撃のスイッチになっている一方で、オフ・ザ・ボールの動き、ポジショニングが的確で、攻撃から守備へ切り替わったときの対応も恐ろしく早い。相手PA内で即時奪回することもあり、このロドリのボール奪取能力がシティの連続攻撃を可能にしている一面もある。
アーセナルで同じ役割をこなすのがデクラン・ライスで、攻撃力、ボールを前方に運ぶ力に優れ、ドリブルをはじめるとスタジアム全体にゴールの予感が漂いはじめる。[4-3-3]のアーセナルのなかでアンカーが務めることがあれば、攻撃力を生かすべくインサイドハーフで出場する試合も多い。
シュートレンジも広く、古巣との対戦となった24節ウェストハム戦ではPA外から強烈なミドルシュートを冷静に決めている。フィニッシュの瞬間にうまく力が抜けていて、ゴールバーを越える“宇宙開発”が少ないタイプである。勝負強さもあり、4節ユナイテッド戦、15節ルートン戦では90分を過ぎてから貴重なゴールを奪っている。
ライスがボール奪取だけでなくさまざまな働きを見せるため、アーセナルは流動性ある攻撃が可能となっている。年明け頃からはセットプレイのキッカーを務めるようにもなっており、このキックがまた高精度。ライスはすでにリーグ戦で5つのアシストを決めていて、これはブカヨ・サカやマルティン・ウーデゴーに続く数字だ。
リヴァプールを支える2人 遠藤加入でマッカが輝く
獲得当初は疑念の声もあがったが、今や中盤のレギュラーとして欠かせない存在に。28節のシティとの大一番ではロドリ以上のボール奪取能力を見せつけ、MOMにも選出 photo/Getty Images
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リヴァプールに加入し、同じ効果をもたらしたのが遠藤航だ。[4-3-3]のリヴァプールはアンカーの適任者が不在で、シーズン当初はアレクシス・マクアリスターが務めていた。プレイエリアが広く、トランジションが早いマクアリスターは十分に役目を果たしていたが、彼の攻撃力を生かすためにはインサイドハーフで起用したかった。これを可能にしたのが遠藤の加入だった。
遠藤をアンカーに、マクアリスターとドミニク・ショボスライがインサイドハーフを務める。いまのリヴァプールはこの3名で中盤を構成するのがベストで、実際に結果にもつながっている。遠藤、マクアリスターは“わかりあえる2人”で、プレスにいくポイント、早さが見事に連動している。
前線の誰かがボールロストする→マクアリスターが素早く回収にいく→ボールがこぼれる→遠藤がフォローする。遠藤とマクアリスターを入れ替えても成立する流れで、この2人は同じサッカー感でプレイしている。シティとの上位対決でロドリ、ケビン・デ・ブライネに仕事をさせなかったことで、2人の補完性にさらに注目が集まることとなった。
中盤での回収が早いことで、最終ライン、前線の選手も楽になる。モハメド・サラー、ダルウィン・ヌニェス、ルイス・ディアスの3トップにはどの試合でも多くのチャンスがある。今季は決定力を欠いている面があり、この3人が決めるべきところを決めていれば、いまごろリヴァプールは首位独走だったかもしれない。
衰え知らずのクロース ギュンドアンも躍動
クロースは代表復帰戦となったフランス代表戦で、いきなり開始10秒でのアシストを記録したことが話題に。その存在感を見せつけた photo/Getty Images
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ラ・リーガで首位を走るレアル・マドリードには、オーレリアン・チュアメニ、トニ・クロースがいる。チュアメニは持って生まれた身体能力の高さに加えて、ボールタッチがやわらかくて足元の技術力が高い。レアルは[4-3-3]を基本とするが、万能型のチュアメニはアンカーだけでなく、CBでも稼働する。
プレイ、動きに変な癖がなく、シンプルに身体をぶつけてボールを奪い、持ち過ぎることなく前線に効果的なパスを出す。無論、自分で運べるときは前方にドリブルし、コースが見えたら多少の距離があっても積極的に狙う。チュアメニのロングシュート、ミドルシュートはエッ? というタイミング、場所から放たれ、ゴールネットを揺らす。
相手DFにとって“お手上げ”という状況で、だからといって複数の選手でケアするとフリーの選手やスペースができることになる。そして、チュアメニはこうした隙、チャンスを見逃さないサッカーセンスをも持ち合わせている。味方にとっては実に頼もしく、相手にとってはやっかいな選手である。
レアルの中盤にはクロースもいる。若いときから年齢を感じさせない老獪さがあったが、34歳となったいまはより洗練されたプレイを見せている。チュアメニがアンカーのときはインサイドハーフとして常に適確なポジションを取り、攻撃を組み立てる。チュアメニがCBに入ったときはアンカーを務め、冷静な判断で攻守のバランスを取る。
クロースは戦況を読む力、展開を読む力に優れ、攻守両面で大事なところに顔を出せる。キックの正確さは言わずもがなで、ロドリゴ、ヴィニシウス・ジュニオールといったスピードある選手が好むパスを出す。続けて、素早くゴール前にポジションを移してリターンを受け、展開力を生かして連続攻撃へとつなげることもできる。
2024年を迎えて、クロースはドイツ代表に復帰した。3月23日のフランスとの敵地での親善試合(フランス0-2ドイツ)では、レアルで同僚のチュアメニに対して激しくプレスにいくシーンもあった。お互いを知り尽くした質の高い両者の対戦は、EURO2024でも見られるかもしれない。
バルサではイルカイ・ギュンドアンが[4-3-3]のアンカーやインサイドハーフを務め、攻撃に厚みをもたらしている。運動量が多く、攻守両面でボールに絡む回数が多いギュンドアンは前線にボールを供給するだけではなく、自ら積極的にゴール前に飛び出してフィニッシュする。
チーム内にはアンカー候補としてギュンドアンの他にフレンキー・デ・ヨング、アンドレアス・クリステンセンなどがいて、いずれ献身的な守備ができてトランジションが早い。ウイングやインサイドハーフには連動する判断の早さ、プレイの早さが求められ、実際にいまのバルサには突破力のあるウイングが両サイドに配置されている。
同様にインサイドハーフにも攻撃の早さが求められるが、ギュンドアンは同ポジションでの出場も多く、タイミングを心得たボックス内への侵入で攻撃に厚みを生んでいる。古くはドルトムント時代からゴール前で仕事をするのが好きなタイプで、もともと得点力がある。33歳となった現在もイキイキとプレイし、バルサの中心となっている。
無敗を引っ張るジャカ チャルハノールは新境地開拓
ジャカは気性が荒く、以前は不要なカードをもらって退場というシーンがよく見られたが、そんな悪癖も改善。無敗の快進撃を続ける若きチームの屋台骨として獅子奮迅の活躍を見せている photo/Getty Images
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ブンデスリーガでは監督就任2年目のシャビ・アロンソに率いられたレヴァークーゼンが、無敗優勝に向けて快進撃を続けている。試合中に変動する[3-4-2-1]で戦うなか、ボランチを務めて献身的なプレイを見せているのがグラニト・ジャカだ。
ジャカは闘える選手、ファイターであり、常に持てる力を発揮するタイプである。アロンソ監督はどのポジションの選手も強度高くプレイすることを求めており、このスタイルにジャカはマッチしている。
ボランチは2枚でジャカとロベルト・アンドリヒというのがファーストチョイスで、この2人はどちらも汚れ役ができる。お互いの考えも共有されていて、絶妙な距離感でプレイするとともにお互いを信頼してプレイしている。守備能力が高いハードワークできる両名を中心に、レヴァークーゼンは28試合を終えて19失点と圧倒的な守備の固さを誇っている。
レヴァークーゼンはジャカがメンタル面で精神的支柱、プレイ面で心臓になることで、アンドリヒは攻撃面での良さを引き出され、高いポジションを取ることができている。同様に、ジェレミー・フリンポン、アレックス・グリマルドといった両サイドの選手。ヨナス・ホフマン、フロリアン・ヴィルツといった攻撃的MFたちも躊躇なく攻撃を仕掛けることができている。とくに、両サイドのフリンポン、グリマルドはゴールを狙う姿勢が高く、ここまで2人で17得点をあげている。
ここからレヴァークーゼンが失速することは考えにくい。2位バイエルンとの差はそろそろ勝点20近くにまで開こうとしていて、ジャカがマイスターシャーレを掲げる日は近そうだ(※編注:その後レヴァークーゼンは優勝決定)。
セリエAではインテルのハカン・チャルハノールがシモーネ・インザーギ監督のもと昨年からアンカーを務め、新境地を開拓した。フラットな[3-5-2]の中盤中央に配置され、レジスタとして長短の正確なパスを駆使して攻撃を組み立てている。
運動量が多く、頑張れるタイプの司令塔だったチャルハノールだが、うまさ、スマートさはあるものの現状を打破する“なにか”がないまま、年齢を重ねていた。変化をもたらしたのはS・インザーギで、ひとつポジションを下げてアンカーに起用した。
守備が求められるポジションだが、チャルハノールはしっかりとボールを追えるタイプで、すぐにこのポジションにフィットした。相手のプレスをかわす能力はもともと高く、前を向いてボールを持つ時間が増えたことで非凡なパスセンスが発揮されることとなった。
さらに、後方から攻撃参加することでより的確なポジションに入ることができ、フィニッシュするシーンも増えることに。現在10得点となっているが、二桁得点は2013-14にハンブルガーSVで11得点して以来だ。チャルハノールは30歳を迎えて再覚醒している。
レヴァークーゼンが無敗なら、インテルは31試合を終えてわずか1敗である。こちらも2位ミランを大きく引き離しており、スクデット獲得までそう遠くない。良いボランチがいるチームは、良い結果を残す。この法則は当たっているといえる。
文/飯塚 健司
※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)第292号、4月15日配信の記事より転載