ブンデスリーガにおけるバイエルンの連覇記録は「11」でついに途絶えた。絶対王者を倒したのは、そのバイエルンで現役を引退したシャビ・アロンソが監督を務めるレヴァークーゼンだった。33節を終えて27勝6分。残りは1試合で、前人未踏の無敗優勝が現実味を帯びている。
強調しなければならないのは、無敗なのはブンデスリーガだけではないということ。DFBポカール、ELでも黒星がなく、このままいくとレヴァークーゼンは無敗で3冠を達成することになる。
これまでは一度もリーグタイトルを獲ったことがないシルバーコレクターであり、2002年にはUEFAチャンピオンズリーグ、ブンデスリーガ、国内カップ戦をすべて準優勝で逃したことから「ネヴァークーゼン」などというありがたくないアダ名を頂戴したこともあるレヴァークーゼン。しかし、いま彼らをそんなふうに揶揄するものはどこにもいない。
今シーズンのレヴァークーゼンがどんな歩みで白星を重ねてきたのか、いち早く優勝を成し遂げたブンデスリーガでの戦いを振り返る。
開幕戦でライプツィヒを撃破 王者からも敵地で勝点1ゲット
第29節ブレーメン戦で優勝を決めた選手たち。バイエルンでさえ成し遂げていない無敗優勝という偉業まであと一試合だ photo/Getty Images
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ひょっとしたらという前兆は、昨シーズンからあった。序盤戦の不調を受けて9節からシャビ・アロンソが監督に就任すると、レヴァークーゼンは息を吹き返して6位でフィニッシュしてEL出場権まで手にした。選手のモチベーションを高め、チームを蘇生させたシャビ・アロンソの手腕は高く評価され、シーズンオフには早くも将来のレアル・マドリードの監督候補として名前があげられていた。
とはいえ、絶対王者が君臨していたブンデスリーガを制するには、ハイペースで勝点を積み上げていかないといけなかった。取りこぼしが少ないバイエルンと優勝を争うためには、引分けを勝利に、敗戦を引分けに持ち込む粘り強さ、勝負強さが必要だった。
レヴァークーゼンが開幕で対戦したのはライプツィヒで、最初から上位争いが予想される相手との対戦だった。バイエルンの連覇を止めるとすれば、ドルトムント、レヴァークーゼン、ライプツィヒだろうと言われており、いきなりの直接対決だったのである。そうしたなか、ジェレミー・フリンポン、ヨナタン・ターのゴールで幸先よく2点をリードし、1点を返されたが若き司令塔フロリアン・ヴィルツの得点で突き放してシーズン初っ端にライバルを3-2で下すことに成功した。
3連勝で迎えた4節のバイエルンとのアウェイ・ゲームは序盤のヤマ場だった。例年はエンジンのかかりが遅いバイエルンも3連勝しており、ここで負けると「ああ、今年もやっぱりか……」となる可能性があった。
試合は立ち上がり7分、ハリー・ケインにゴールを許して追いかける展開となった。しかし、24分にアレックス・グリマルドが直接FKを決めて1-1に。その後もアウェイであっても高い位置からボールを追いかけるサッカーを続け、若い2人、ヴィルツとビクター・ボニフェイスの連携で決定機を作り出していた。
一進一退のなか、86分に失点して1-2となる。最高に盛り上がるアリアンツ・アレナ。残り時間はわずか。それでもレヴァークーゼンは諦めずに攻撃を仕掛け、90分を過ぎてヨナス・ホフマンがPA内で倒されてVARによってPKを得た。これをエセキエル・パラシオスが確実に決め、土壇場で2-2として勝点1ともぎ取ったのである。敗戦を引分けに持ち込んだ一戦だった。
序盤のヤマ場を乗り越えたレヴァークーゼンは、5節ハイデンハイム(4-1)、6節マインツ(3-0)、7節ケルン(3-0)と危なげない戦いで勝利を重ねていき、バイエルン戦以降、8連勝でがっちりと首位をキープしていた。ただ、バイエルンも同様に勝点を積み上げており、同じく上位にいるドルトムントを含めて優勝争いは混とんとしていた。
先制されても負けない 劇的なゴールも続いた
開始早々に失点し嫌な空気が漂ったドルトムント戦も、復帰したシックと点取り屋ボニフェイスの連携がチームを救う photo/Getty Images
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今シーズンのレヴァークーゼンは4節バイエルン戦も含めて、4試合しか先制点を奪われていない。そのうちのひとつが13節ドルトムント戦で、開始5分にユリアン・リエルソンにゴールを許した。ホームゲームであり、その後はボールを支配して試合を進めたが、なかなかゴールを奪えなかった。
だんだんと時間が過ぎていき、サポーターも焦れてくる。緊迫した展開を動かしたのは、負傷から復帰したばかりのパトリック・シックだった。79分にパラシオスと交代でピッチに立つと、直後に前線の好ポジションで縦パスを受け、ゴール前にラストパスを出してボニフェイスの同点ゴールをアシストした。
ようやくケガから復帰したこれまで得点源だったシックから、新加入で前線を支えてきた若いボニフェイスへのアシストは、レヴァークーゼンの新時代を告げるものだった。両者は同時起用でも機能する。シーズン半ばにして、攻撃のバリエーションが増したのである。
この事実はチームに自信をもたらし、続く14節シュツットガルト戦でも先制されたが、ヴィルツのゴールでまたも追いついてみせた。ドルトムント、シュツットガルトとの連戦は上位対決であり、ここを粘り強く戦い抜いたのは大きかった。バイエルンは14節フランクフルト戦に1-5で完敗して今シーズン初黒星を喫しており、どちらが先に折れるか(負けるか)という争いでレヴァークーゼンは競り勝ったのである。
さらには、バイエルンに快勝したフランクフルトと15節に対戦し、ボール支配率61%対39%というスタッツで3-0の完勝を収めてみせた。ウィンターブレイクを迎えて、レヴァークーゼンは13勝3分で勝点42。バイエルンは1試合消化が少なく、12勝2分1敗で勝点38。ブンデスリーガは前半戦を首位で折り返したチームを“冬の王者”と呼ぶが、過去60年の歴史のなか約68%がそのままマイスターシャーレを掲げていた。すなわち、この時点で首位に立っていたレヴァークーゼンの優勝可能性は高く、「ひょっとしたら」から「これはあるかも」という雰囲気になっていた。
ただ、それでも最後はバイエルンが頂点に立っているのがここ数年だった。徐々に失速するライバルたちに対して、逆に調子を上げて突き放していく。これが王者に求められることで、今シーズンはレヴァークーゼンがまさにこの通りの戦いをみせた。
後半戦最初の17節アウクスブルク戦は堅守を崩せず苦しい展開となったが、90+4分にパラシオスが決勝点を奪って1-0で競り勝った。18節ライプツィヒ戦も常にリードされる展開のなか、90分を終えて2-2。白熱した攻防に終止符を打ったのはレヴァークーゼンで、90+1分にCKからピエロ・インカピエが劇的なゴールを奪った。
この試合では1-2から2-2とするゴールもCKからヨナタン・ターが奪っており、セットプレイの正確性も威力を発揮していた。とくに、左足から繰り出されるグリマルドの精度の高いキックはこの試合に限らずチャンスに繋がることが多く、自身10得点に加えてチーム最多の13アシストとなっている(33節終了時)。
もともと得点力があるうえ、シックが復帰し、さらにはセットプレイも武器になっていた。17節、18節はいずれも90分を過ぎて決勝点を奪った。自分たちで掴み取ったこうした結果はチームに自信をもたらし、もともと前方へ向いていたレヴァークーゼンのサッカーは推進力をより一層と増し、凄みを増していった。
先に紹介してしまうと、90分を過ぎて同点弾、決勝点を奪ったのはこの2試合だけではない。30節ドルトムント戦、31戦シュツットガルト戦でも劇的なゴールが生まれている。これは決して幸運や偶然によるものではなく、パワーをかけて攻撃を続けることで相手をジワジワと追い込み、最後の最後に奪った必然といえるゴールだった。
17節、18節と奇跡的な連勝でレヴァークーゼンが勢いを増すなか、バイエルンは18節のブレーメン戦に0-1で競り負けている。逃げるレヴァークーゼンが鋭い末脚を発揮しはじめたのに対して、バイエルンはつまずき、ドルトムント、ライプツィヒ、シュツットガルトといった上位陣は勝点を積み上げられないでいた。
そうしたなか、21節にレヴァークーゼン×バイエルンが行われた。お互いに20試合終えて、首位レヴァークーゼンが16勝4分で勝点52。2位バイエルンが16勝2分2敗で勝点50。いよいよ迎えた天下分け目の一戦だった。
バイエルンを3-0で一蹴 バイ・アレナが歓喜の坩堝に
堰を切ったようにピッチになだれ込んだレヴァークーゼンのサポーター。彼らにとっても初となるリーグタイトルだ photo/Getty Images
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今シーズン最大の注目を集めた一戦は、両者の立場が完全に入れ替わっていることを証明する結果に終わった。臆することなく、立ち上がりから積極的にボールを追いかけ、マイボールになると素早く、精度の高いパスワークでフィニッシュまで持っていく。ここまでレヴァークーゼンが積み上げてきたスタイルは揺らぐことなく、バイエルンを飲み込んだ。
18分、素早いスローインからロベルト・アンドリヒが左サイドを崩し、最終ラインが整っていないゴール前にクロスを入れる。バイエルンの守備陣はボールウォッチャーになっており、走り込んだヨシプ・スタニシッチが難なくゴールに流し込んで先制点を奪った。
レヴァークーゼンの勢いは止まらず、後半立ち上がりの50分にはグリマルドがネイサン・テラとのワンツーを成功させてゴール前に抜け出し、利き足である左足を振り抜いてゴールネットを揺らした。リードを奪っていることでムリにボールを支配するのではなく、バイエルンにボールを持たせ、自分たちは鋭いカウンターを仕掛けて追加点を奪う。狙いがしっかりとハマったゴールで、90+5分にはGKが攻撃参加して無人となったゴールにカウンターからフリンポンがボールを流し込み、バイ・アレナを歓喜させた。
首位攻防に3-0で完勝したレヴァークーゼンには、もう敵はいなかった。このバイエルン戦も含めて、20節ダルムシュタット戦から10連勝を達成。そのうち、27節ホッフェンハイム戦は0-1で試合が進んだが、88分にアンドリヒ、90+1分にシックが得点して2-1で捲っている。この粘り、勝負強さはサポーターにも伝播し、とくにバイ・アレナではたとえ負けていてもどちらが勝っているかわからない雰囲気が作られており、これも選手たちの背中を後押ししていた。
10連勝を達成したのは29節ブレーメン戦で、この一戦は勝てば優勝が決まるメモリアルマッチだった。自信に満ち溢れた選手たちは、まったく浮足立つことがなかった。25分、ボニフェイスがPKを決めて先制点を奪う。60分にはグラニト・ジャカが左足で技巧的なミドルシュートを決め、リードを広げた。
レヴァークーゼンにとってチームのために闘えるジャカが加入した影響は大きく、両サイドのフリンポンとグリマルド、インサイドハーフのヴィルツやホフマンが存分に力を発揮できた要因のひとつとして、ジャカがしっかりとサポートしていたからという事実があげられる。そのジャカがメモリアルマッチでビューティフルゴールを決めたのだから、バイ・アレナが盛り上がらないはずがない。
沸き上がるなか、交代出場した若き司令塔であるヴィルツが3点目、4点目を奪い、さらに90分に5点目を決めた。興奮状態で我慢できなくなったサポーターが次々にピッチへ乱入し、この時点で試合続行は不可能に。無敗で突っ走ったレヴァークーゼンの優勝はサポーターに最高の歓喜をもたらし、ド派手に決定したのである。
優勝決定後の30節ドルトムント戦、31戦シュツットガルト戦は先制点を奪われたが、前述したとおり土壇場で追いつき、残り1試合となったいまも無敗を守っている。DFBポカール、ELでも快進撃は続き、欧州カップ戦出場クラブにおける連続無敗記録を「50」に更新。ベンフィカが持っていた「48」を59年ぶりに塗り替えている。
新たに誕生したブンデリーガの王者は自信に満ち溢れ、負ける気配や雰囲気がない。レヴァークーゼンはなんとも魅力的で、対戦相手にとっては最後まで勝負を諦めない恐ろしいチームである。シャビ・アロンソが監督に就任してから、まだ1シーズンと半年しか経っていない。ブンデスリーガ連覇、さらにはCL制覇が来シーズンのミッションとなるが、それはまた来年の話である。いまは無敗記録をどこまで伸ばすか、この
まま3冠達成はなるのか──。勝ち続けるレヴァークーゼンの戦いを楽しみたいところである。
文/飯塚 健司
※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)第293号、5月15日配信の記事より転載