EURO2024決勝トーナメント・ラウンド8でスイスをPK戦の末に破り、準決勝までコマを進めたイングランド代表。チームとしてのまとまりが見られない戦いぶりはグループステージから多くの批判にさらされてきたが、そんな批判も裏腹にトーナメントを勝ち上がっている。
しかし、チームとしての形がまるで見えてこないのはスイス戦でも変わらなかった。この試合で、サウスゲイト監督は大胆なポジション変更を行い、これまでの[4-3-3]から3バックの[3-4-3]に変更。共存が難しいと言われたフィル・フォーデンとジュード・ベリンガムをケインの下のシャドーに置き、ブカヨ・サカとキーラン・トリッピアーをウィングバックとして起用した。
しかし、この変更が功を奏していたかといえば疑問が残る。ボールはむしろスイスが効果的に持ち、枠内シュートは相変わらず少ないまま。75分にブリール・エンボロの先制弾を被弾し、エベレチ・エゼ、ルーク・ショー、コール・パルマーの3枚を一気に投入するまではほとんど何も起こせなかった。変わらない“塩試合”ぶりにモヤモヤしたファンも多かったに違いない。
この交代も投入直後は機能し、ブカヨ・サカの同点弾につながるなど光る連携を見せた部分もあったのだが、時間が経つにつれてトーンダウン。結局、イングランドの枠内シュートは延長戦を含めてもわずか3本に終わっている。英『Mirror』も「パフォーマンスレベルはほとんど向上していない」と指摘している。
しかし、良いチームが結果を残すとは限らないのがEUROという大会だ。元イングランド代表DFジェイミー・キャラガー氏は2004年のギリシャや2016年のポルトガルを思い起こさせると『Telegraph』で語っているが、この2チームも決して他を圧倒するような戦いを見せていたわけではなかった。ギリシャもポルトガルも決して質が高いとは言えない完成度で、決して観ているものを熱狂させるようなサッカーではなかった。しかし、あわやグループステージ敗退かというところから、それでも勝ち進んで結果的にはトロフィーを手にしてしまった。
当時のギリシャやポルトガルに比べれば、今回のイングランドはまだ望みがあるように思われる。「個の質」という強みを備えているからだ。プレミアリーグのオールスターに、ラ・リーガ年間最優秀選手とブンデスリーガ得点王を加えたチームがどうしてこうも凡庸なサッカーに終始するのかと不思議に思わずにいられないが、トーナメントは一瞬の個人の判断やプレイの質が明暗を分けることがあり、その点でイングランドはやはり恐るべきチームだと言うことはできる。
結果だけは出ているイングランド。優勝候補と言われているスペインとフランスはトーナメントの反対側の山で潰し合うことになっており、運も味方している。58年ぶりのタイトル獲得が現実的になってきていることだけは間違いない。