強豪とも対等に戦えている 1トップの理想は大迫勇也
1トップとして「得点を取る」ことが期待される田中 photo/Getty Images
─東京五輪(2021年)は無観客で開催され、ベスト8という結果に終わりました。田中選手は2得点していますが、どういう記憶が残っていますか。
「悔しさが残っている大会ですね。なにもできなくて、あっけなく終わってしまいました。チームや選手個々の能力に関して、世界との成長スピードの差を感じました。本番になって日本は遅かったんだなと感じました」
─その後の時間で田中さん自身、さらにチームはどんなことにフォーカスしてレベルアップに努めていったのでしょうか。
「個人としてはフィジカルで負けていたので、シンプルに当たり負けしないような強化をしてきました。パーソナルトレーナーに見てもらい、筋力や体幹を高める。厳しくマークをされても、マイボールにできる状態で受けるようにする。また、シュートレンジを広くすることも意識してトレーニングしてきました。チームに関しては監督が変わり、選手も大きく変わったのでなにもかも変わりました。太さん(池田太監督)になってからの3年間でチームとしての一体感が生まれてきています。戦術の落とし込みなど、だいぶ積み上げができているなと感じています」
─成長スピードという部分については、東京五輪後の3年で変化をどう感じていますか。
「チーム体制が変わって最初のころにスペインやイングランドと戦ったときは、ぜんぜん歯が立ちませんでした。フォーメーションなどいろいろ試すなか戦ったこともあり、うまくハマらず圧倒されました。そこからいまに至って、強豪とやっても対等に戦えている実感があります。五輪本番では運も必要になってきますが、チームとしても選手個々のレベルも成長できているなと感じています」
─昨年のW杯の結果(ベスト8)と内容はどう受け止めていますか。
「敗れた最後のスウェーデン戦(1-2)は後半になって日本のペースでずっと押していましたが、決めるべきところで決められなかったのでFWとして決定力の部分で課題が残りました。相手のほうが少ないチャンスで得点する一発勝負での強さがありました。実力もそうなのですが、運も引き寄せられなかったです。ただ、あの雰囲気のなか戦えて、みんなやるべきことはやり切ったなと個人的には思っています。チケットが完売し、日本コールもすごかったです。日本チームは愛されてるんだなと思えました。海外の人にも認めてもらえるチームだったんだなと思っています」
─そうしたW杯での経験を受けて、その後にどういったことに取り組んできたのでしょうか。
「1トップをやることが多いのですが、中盤に下りたときの動き、まわりを生かす動き、自分が得点にこだわりつつ、仲間に得点してもらう動きなど、プレイの幅を増やす。選択肢を多く持ちながらプレイすることを意識しています。また、ファウルで倒されるとプレイが切れてしまうので、厳しいマークを受けても自分で持っていける力をつけたいです。ファウルされても倒れずに、一歩でも二歩でもいいから進む。東京五輪後から引き続きフィジカルの強化に取り組んでいます」
─1トップとしてプレイするなか、参考や目標にしている選手はいるのですか。
「イメージ像は大迫さん(大迫勇也/神戸)です。プレイを研究しているわけではないですが、大迫さんは中盤に下りてきて起点になれるし、裏に抜け出すこともできます。両方ができてすごく安心感がありますね。下りてくるだけだと怖くないですが、一発で裏を取るアクションがあり、ワンタッチゴールを狙えるポジションにいる。自分が理想にしているカタチに近いなと思っています」
─中盤に下りてくるにしても裏に抜け出すにしても、動き出しが大事になってくると思います。オフ・ザ・ボールのときに、どんなことを意識されていますか。
「最初の考え方として、自分はやっぱり得点したいのでゴールを目指しますが、難しいとき、味方が困りそうなときは、できるだけ良いカタチで受けることを意識しています。ひとつ手前にボールが入るときに、次に受ける自分はどこで受けられるか。相手を背負った状態で受けると潰されちゃうので、半歩とか一歩、相手から離れてボールをもらうことを意識しています。DFラインにギャップができているときは、裏を取ろうとします」
─まわりの選手と話すなか、田中さんが求めていることはあるのですか。
「自分はゴールに一番近いところでプレイしているので、ゴールに向かう姿勢を一番見せないといけない選手です。ポゼッションサッカーをするなか、横に振りながら攻めるというのもありますが、1本のパスで裏に抜け出せたほうがいいときもあります。その瞬間を逃さないようにしているので、自分自身が思うタイミングでボールが出てこなかったときは『出して』という要求はしています」
大きかったドイツでの経験 受け身にならなくなった
ドイツのレヴァークーゼンでは“闘う”意識の大切さを再認識した photo/Getty Images
─パリ五輪に臨むなでしこジャパンには10代の選手2名も含めて、若い選手が多いです。チームを円滑に進めるために、意識して取り組んでいることはありますか。
「とくにないですね(笑)。いまの若い子はすごいですよ。若いと思うことがないです。FWのまいか(浜野まいか/チェルシー)はまだ波を感じるときもありますが、それが若さゆえの良さでもあるので自分がなにか言うことはないです。萌々子(谷川萌々子/ FCローゼンゴード)や塔子(古賀塔子/フェイエノールト)は10代ですけど、ホントに堂々とプレイしています。太さん(池田太監督)の起用方法がうまいので、チームのなかで自分がどうこうするというのはないです」
─逆に、若い選手から学んだこと、触発されたことはありますか。
「どん欲さですかね。まいかとかはどん欲にゴールへ向かう姿勢が表に出ています。自分はまわりを見るがゆえにそうした姿勢を失っているなと思ったときもあって、そこは同じようにどん欲にいかないといけないと思います。昔の若い子はひとつ突出しているものがあるから試合に出られるという感じでしたが、最近の若い子はトータルでみてすごくポテンシャルが高いです。ボールを扱う技術が高く、フィジカルも整っている。あおば(藤野あおば/日テレ・東京ヴェルディベレーザ)なんかも小さいですが、身体は強い。みんな、インテンシティも高いです」
─田中さんは2021年にレヴァークーゼンで半年間プレイしています。女子ブンデスリーガ1部での経験を聞かせていただけますか。
「シンプルに言うと、技術的なうまさに差は感じなかったです。ただ、サッカーに対する熱がすごかったです。絶対に取られたくないという強い意思があって、球際のところはまさに“バトル”でした。日本の選手がうまくやろうとするところをブンデスリーガではバチバチいってました。ゴールへのどん欲さも違いましたね。もうちょっとうまくやればいいのにと思う部分もありましたが、そういう“闘う”というところに一番の違いを感じました。また、ドイツに行く前は代表で海外のチームとやるときに圧力を感じて受け身になることもあったのですが、あの環境を経験したことでそれがなくなりました。これは自分のなかですごく大きかったです」
自分が決めればチームが救われる 責任を持って頑張りたい
W杯スペイン戦でもゴールを奪った田中。五輪でも再現を期待したい photo/Getty Images
─パリ五輪では初戦でいきなりスペインと対戦します。去年のW杯では4-0で勝利したものの、あの結果はあまり参考にならないのかなとも思っているのですが、どう考えていますか。
「あの試合はホントに参考にならないと思います。ボールを保持された印象が残っていて、打ったシュートがぜんぶ決まったからあの結果になっただけで、『あの試合があったから……』と考えている選手はいないと思います。それでもひとつ感じたのは、ポゼッションサッカーを目指すなか、カウンターからゴールすることができました。攻撃のバリエーションとして、ああいうカタチでも点を取れるという自信を得られました。ポゼッションを目指すのか、カウンターからゴールを狙うのか──。これからどういうカタチで初戦に臨むのかやっていくことになりますが、初戦に勝てたら大きいのでやっぱり勝ちたいですね」
─仮に去年と同じような劣勢になるとして、1トップでの出場が濃厚な田中さんはどのような意識で臨もうと考えていますか。
「守備でまずは走らされると思うので、そういう展開になることを想像して身体を作っていきたいです。そうしたなかでも、マイボールになったらスペースに出ていく。去年の対戦で日本の選手ならCBと対峙したときに仕掛けられると実感したので、1対1になったらどんどん仕掛けていこうと思っています。いずれにせよ、さぼらない献身的な守備でまずは失点をしない。そこからチャンスになったら前に出ていく走力を身に付けて臨みたいと考えています」
─グループリーグ2戦目のブラジルとは、昨年末からの短期間で3試合を戦っています。その3試合で田中さんはいずれも得点していますが、どのようなイメージを持っていますか。
「直近のブラジル戦(4月9日/△1-1)ではマンツーマンでハメてきました。自分がどこに下りても、CBが一枚付いてきました。このときの対応に関して、反省点が多いです。普段はちょっとした緩急で付いてくるCBが迷ってフリーでボールをもらえるシーンがあるのですが、ブラジルは割り切ってマンツーマンで来ててCBが迷う瞬間がなく、けっこう潰されてしまった。トラップしたあとに食われていたので、ワンタッチではがす質を高めたいなと思っています。ただ、マンツーマンで来てたので裏にスペースはあって、チームとしてそこはけっこう取れていました。あとはゴールですね。チャンスはけっこう作れていたけど決めることができていなかったので、自分が決めるイメージを持ってプレイし、ゴールにしっかりと結びつけないといけないです」
─3戦目のナイジェリアに関しては、どのようなイメージがありますか。
「ナイジェリアだけではなく、コロンビアなんかもそうですが、高いポテンシャルを持つ選手たちが組織的になってきている。この変化はイヤだなと思っています。組織的に守っているところから、ちゃんと攻撃してゴールにつなげる。パスをつないでゴールにつなげることができてきている。フィジカルだけではなく、組織的なサッカーができているなと認識しています」
─グループリーグを勝ち上がった先のことなのですが、東京五輪、W杯の8強を越えるためには、なでしこジャパンにはどんな力が必要になってくると考えていますか。
「決定力なのかなと思っています。ゴールするチャンスは作れると思います。あとは一発勝負の場で決めるか決めないかの戦いで、メンタル的な要素もからんできます。そうした決定力と、あとは粘りですね。ベスト4に行けるか行けないかは、そこの差で決まると思っています。FWの自分には決めないといけない責任があると思っています。後ろの選手が身体を張って守ってくれるぶん、決めるのは前の仕事です。どんなにビルドアップが良くても、最後に決まらないと結果(=勝利)につながらない。自分が決めればチームが救われる。そういう仕事なので、責任を持って頑張りたいなと思っています」
─チームとしてメダル獲得を目指していると思います。目標を達成するために、ピッチ内外で必要になってくることを考えると、どのようなことが浮かびますか。
「ピッチ内では個々の選手がトップコンディションを維持し、チーム戦術のなかでしっかりと持っている能力を発揮することが大事です。ピッチ外では選手だけでなく大会に臨む全員でコミュニケーションを取り、一体となって戦うことですね。これに関しては、昨年のW杯でできていたので問題なくできると思っています。あとは運も必要になってくるので、引き寄せられたらいいですね」
─五輪に臨むにあたり、楽しみにしていることはありますか。
「注目度の高い大きな舞台であり、このピッチに立てるのは幸せだなと思っています。W杯とは違っていろいろな種目の日本代表がいて、サッカーを知らない人、女子サッカーに興味がない人でも、勝ち上がることで応援してくれると思います。日本女子サッカーの未来のためにも、注目度が高いなか良い色のメダルを取りたいなと思っています。国を代表して戦ってくるので、サッカーに興味がない方でも応援してくれたら嬉しいです」
インタビュー・文/飯塚健司
※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)第295号、7月15日配信の記事より転載