[特集/欧州戦線を変える新監督3人 02]覇権奪還は38歳の青年監督に託された 新生バイエルンにコンパニが必要だった理由

コンパニが志向するのは能動的に仕掛けるスタイル

コンパニが志向するのは能動的に仕掛けるスタイル

バイエルンは監督経験の少ないコンパニに覇権奪還を託すという賭けに出た photo/Getty Images

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 コンパニの初陣となったのは、7月25日のロタッハ・エガーンとのトレーニングマッチで大勝(14-1)している。EURO2024、コパ・アメリカ2024、パリ五輪が開催された関係でまだ合流していない選手が多かったが、この試合をバイエルンは3バックで中盤にアンカーを配置する[3-3-3-1]とも[3-1-2-3]とも表現できる布陣でまずは戦っている。

 先発メンバーは以下の11名だった。GKスヴェン・ウルライヒ、DFヌサイル・マズラウィ、ヨシプ・スタニシッチ、エリック・ダイアー、MFハビエル・フェルナンデス、レオン・ゴレツカ、ラファエル・ゲレイロ、ガブリエル・ヴィドヴィッチ、FWアディン・リチーナ、ブライアン・ザラゴサ、マティス・テル。フェルナンデスとリチーナはレギオナル・リーガを戦うバイエルンⅡのプレイヤーで、後半になると同じく若い選手にガラッとメンバーが変更されたが、システムは3バックのままだった。

 続いて28日に行われたデューレンとの一戦も3バックが採用され、最終ラインは左から伊藤洋輝、キム・ミンジェ、ヨシプ・スタニシッチとなった。中盤のカタチに変更があり、ダイアー、ゴレツカのダブルボランチで、左にゲレイロ、右にサシャ・ブイ。前線の3枚がリチーナ、ザラゴサ、テルという[3-4-3]だった(結果は1-1)。
 既報の通り、この一戦で伊藤は右足の中足骨骨折となり、復帰時期未定の離脱となってしまった。倒れた相手選手の背中が激突して痛めたもので、しばらくプレイしていたが自らピッチに座り込んで続行不可能に。新天地でポジション獲得を目指していた伊藤にとっても、最終ラインの複数のポジション、さらには中盤での起用も考えていたかもしれないバイエルンにとっても想定外の出来事となった。

 最終ラインのコマが1枚減った影響なのか、主力が戻ってきたからなのか、その後の試合でコンパニは4バックを採用している。昨シーズンまで指揮したバーンリーでは[4-4-2]をベースに、ポゼッションを高めて攻撃を仕掛けるサッカーを志向していた。現役時代にマンチェスター・シティでジョゼップ・グアルディオラの指導を受けているコンパニは、やはり能動的に主導権を握るスタイルを好む。

 また、バイエルンは11連覇中、長く4バックで戦ってきた。なかには3バックに変更した試合もあったが、とくに昨シーズンはそれで良い結果が出たわけではなかった。こうした事実を照らし合わせて考えると、コンパニのもとで今シーズンを戦うバイエルンのシステムは、8月に入ってから採用した[4-2-3-1]になると考えられる。

4バックを踏襲して攻撃的に コンパニ流はかなり前向きか

4バックを踏襲して攻撃的に コンパニ流はかなり前向きか

デイビスの去就が懸念されるなか、トッテナム戦で良い動きをみせたゲレイロ photo/Getty Images

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 バイエルンは8月3日、11日にいずれもトッテナムとトレーニングマッチを行っている。フルメンバーではないが、各大会に出場した選手が戻り、いよいよシーズン開幕に向けた準備という要素が強い2試合で、コンパニはまず3日の試合を以下の布陣で戦っている。

 GKマヌエル・ノイアー、DFゲレイロ、スタニシッチ、キム、ブイ、MFアレクサンダー・パブロビッチ、ジョシュア・キミッヒ、テル、トーマス・ミュラー、セルジュ・ニャブリ、FWヴィドヴィッチ。中盤がパブロビッチとキミッヒのダブルボランチで、ミュラーがトップ下の[4-2-3-1]である。

 こうしたトレーニングマッチは後半になると多くの選手交代があるため、だいたい前半がキモとなる。この一戦の前半ではバイエルンの前方へ仕掛ける積極性が目立ち、4分にはすぐにゴールへと結びつけている。相手が最終ラインからビルドアップするところにハイプレスをかけ、GKが不用意に出した縦パスをニャブリがカットしてそのままシュート態勢に入る。一度DFに弾かれたが、きっちりフォローに入っていたヴィドヴィッチが決めて先制点を奪った。

 両サイドバックのポジションも高く、とくに左サイドのゲレイロはゴールを意識した動きで相手をかく乱した。38分、同サイドの前方でボールを持つテルが1対1の勝負を仕掛けていた。すると、アンダーラップでその前を走り抜けてボールを受けようとした。パスは出てこなかったが相手DFにとってはやっかいな動きで、ゴールにはつながらなかったものの攻撃に厚みを加える効果的な動きだった。

 その後にゴール正面、PAの外からフィニッシュした場面もあるなど、ゲレイロは縦にはもちろん、斜め横への攻撃参加でも特長を発揮できる。昨シーズンまでのファーストチョイスであるアルフォンソ・デイビスの動向が不透明ななか、11日の試合にも先発したゲレイロの存在はバイエルンとコンパニにとって貴重なものとなっている。

 右サイドバックを務めたブイも位置取りが高く、ときにニャブリを追い越していた。このポジションに関しては人選が難しく、スタニシッチ、キミッヒという選択肢もコンパニにはある。ただ、キミッヒの獲得を狙っているメガクラブが複数あるなど、ボランチも含めてこの辺りは今後の移籍事情、最終ライン、中盤との組み合わせで決まってくるだろう。

戦力は揃っていないが準備状況はまずまず

戦力は揃っていないが準備状況はまずまず

複数のメガクラブが獲得を狙うキミッヒ photo/Getty Images

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 11日のトッテナム戦はより多くの主力を加えて戦っている。3日と同じく[4-2-3-1]でCBにダヨ・ウパメカノ、右ウイングにジャマル・ムシアラが入り、CBだったスタニシッチが右サイドバックを務め、右ウイングだったニャブリが左ウイングへ。左ウイングだったテルがトップに入った。

 この試合でも高い位置からのプレスが奏功し、ゴールを奪っている。1-1で迎えた31分、相手GKが縦に出したルーズなパスにムシアラがチャレンジし、ボールがこぼれる。これが高いポジションをキープしていたミュラーに渡り、マイナスのラストパス。走り込んだニャブリがミドルレンジから正確なシュートでゴールネットを揺らした。

 GKからビルドアップしてくる相手に対してサイドへのパスコースを潰し、中央に下がってきた背中を向けたボランチに縦パスが出されたときにチャージをかける。2試合続けて同じカタチで得点しており、コンパニの指導が徹底され、選手たちがそれをしっかり実行していると感じられる2ゴールだった。

 各選手の立ち位置もかなり流動的で、前線ではテルが左サイドに流れることが多く、ムシアラ、ミュラー、ニャブリもそれぞれのポジションを確認しながら的確なポジションを取る。これは3日のトッテナム戦でも同じで、トップに入ったヴィドヴィッチがサイドに流れ、空いた中央にニャブリやミュラーが入ってくる。それだけではなく、サイドバックも飛び込んでくる。コンパニのもとでこの流動性をどうコントロールしていくか、試合を重ねたときの完成度が注目される。

 攻撃面ではポジティブな要素が見られたが、守備では昨シーズンから続く不安定なところがあった。11日の試合では前にかかり過ぎていて最終ラインの裏にスペースがあり、そこを突かれて2失点している。ウパメカノの後ろに下がりながらの守備、左右に振られたときのキムの対応、中央を破られたときのサイドバック、ボランチのサポートなど、精度アップが必要な改善点がどうやらありそうだ。

 伊藤が負傷したことで、最終ラインに補強された即戦力はスタニシッチだけ。中盤にボールを刈る能力が高いジョアン・パリーニャを獲得したが、まだバイエルンでの稼働がなくどれだけチーム力アップになるか未知数だ。屋台骨となるボランチ候補は、キミッヒ、パブロビッチ、パリーニャ、ゴレツカ、ライマー、ゲレイロなどコマが多い。コンパニにとっては、シーズンがはじまってもしばらくは答えを探す時期になるか。

 また、ハリー・ケインが登場したのは11日トッテナム戦の80分からだった。推定5300万ユーロ(約92億円)の移籍金で獲得したマイケル・オリーセは、パリ五輪を終えたばかりでトレーニングマッチにまだ出場していない。長いシーズンの途中には伊藤やレロイ・サネなど負傷中の選手が復帰するだろうし、夏の移籍期間にさらに戦力アップをはかる可能性もある。逆に、いなくなってしまう選手もいるだろう。

 すなわち、コンパニのチーム作りは試合を重ねながら、選手の組合せを考えながらになる。求められるのは結果(=勝利)を出しながら仕事を進めることで、そうでないと選手、クラブ、サポーターにストレスが溜まってくることになる。そういった意味で、すでに方向性が垣間見えていて、トッテナムとのトレーニングマッチに連勝するなど結果も出している。コンパニ体制となったバイエルンは、まずまずの準備状況でシーズンを迎えることになる。


文/飯塚健司

※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)第296号、8月15日配信の記事より転載

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