[特集/海外組100人超の時代がやって来た! 欧州サムライ勢力分布 02]メガクラブで光るサムライたちの武器とは?

 シュツットガルトで確かな地位を築き、バイエルンに即戦力として引き抜かれた伊藤洋輝。優勝はならなかったがマンチェスター•シティ、リヴァプールと三つ巴の優勝争いを演じたアーセナルのなかで、安定感のある堅実なプレイを見せた冨安健洋。さらに、加入1年目でリヴァプールの中盤に君臨し、リーグカップ優勝に貢献した遠藤航。
 今季も活躍が期待された3名だが、伊藤、冨安はケガで出遅れ、遠藤は新監督が就任したチームのなかで大幅に出場時間を減らしている。今後、コンディションが万全 となったときに伊藤、冨安はどんな 役割を求められているのか。遠藤の出場時間はどう推移していくのか──。メガクラブでプレイする3 名は、苦しい現状をどう跳ね返し、 自らの武器を示していくのだろうか。

バイエルンは守備に不安あり 伊藤は復帰が待望されている

大きな期待を背負ってバイエルンに加入した伊藤 Photo/Getty Images

 伊藤洋輝のバイエルンでのデビュー戦は7月28日に行われた4 部デューレンとのトレーニングマッチ で、3バックの左サイドで先発した。中央がキム・ミンジェ、右サイドにヨ シプ・スタニシッチという最終ラインで、新加入の伊藤、ローンから復帰したスタニシッチを含む新鮮な顔ぶれだった。

 ところが、この一戦の前半途中に伊藤は相手選手と接触し、中足骨骨折でシーズン開幕には間に合わないことが確定してしまった。バイエルンはもともと4バックで、期待された即戦力のCBがひとり欠場となってしまった。今季から指揮官を務めるヴァンサン・コンパニはこうしたチーム事情を鑑み、第1節、第2節をともに[4-2-3-1]で戦っている。

 第1節ヴォルフスブルク戦(3-2)の4バックは右からサシャ・ブイ、キム・ミンジェ、ダヨ・ウパメカノ、アルフォンソ・デイビス。第2節フライブルク戦(2-0)は右からジョシュア・ キミッヒ、キム・ミンジェ、ウパメカノ、ラファエル・ゲレイロ。このフライブルク戦の4バックは、ブンデスリーガ開幕の1週間前に開催されたドイツ杯1回戦ウルム戦(4-0)のときと同じだった。

 いまのところ3戦3勝となっているが、選手層が厚い中盤、前線と比べると最終ラインには不安がある。とくにCBの2人、キム・ミンジェとウパメカノはポジショニングやボールタッチが不安定で、実際に失点を招いている。ヴォルフスブルク戦の後半早々 のこと。ウパメカノが中盤に引き出され、キム・ミンジェとほぼ縦関係のポジションになって最終ラインにスペースが生まれてしまう。そこに縦パスを出され、裏を取られたキム・ミンジェは追いつけない。右サイドから懸命に戻ったブイが追いついたが、後方から接触してPKを与えて失点同じ試合の54分、自陣の右サイドでキム・ミンジェがボールを持つと、相手が激しくプレスをかけてきた。 慌てたキム・ミンジェはバックパスを 選択したが、このパスを奪われてそのままショートカウンターを受けて失点となった。

 ウパメカノ、キム・ミンジェは対人の強さがあり、どちらも以前プレイしたライプツィヒ、ナポリでは堅守を支えていた。しかし、バイエルンではポジショニングやビルドアップで不安定なところが散見され、はじまったばかりの今季もヴォルフスブルク戦でさっそく失点を招いている。CBは伊藤に加えてスタニシッチも負傷離脱中で選手層が薄い。エリック・ダイアーはいるが、コマ不足によりフライブルク戦では終了間際に本来はボランチのレオン・ゴレツカがウパメカノに代わって最終ラインに入っている。こうした状況を考えると緊急補強があるかもと考えられたが、動きなく移籍期限を終えている。そうなると、伊藤の復帰が切実に待たれるところである。

 戦術への対応力がある伊藤が復帰したなら、バイエルンは3バック、4バックのどちらにも対応可能だ。試す時間は短かったが、伊藤、キム・ミンジェ、スタニシッチという選 択を一度はしている。また、3バックであればキム・ミンジェ、ウパメカノの対人の強さがいまよりも明確に発揮される可能性がある。

 ケガにより出遅れたことで、伊藤は復帰が待望されている。本人にとっては不本意なシーズンインとなったが、挽回するチャンスはいくらでもある。伊藤のボールコントロール&ビルドアップの正確さ、ポジショニングの的確さはいまのバイエルンに必要で、求められている。現状、復帰時期は未定となっているが、一 日でも早くピッチに立つ姿をみたいところだ。

冨安が両SB&CBで稼働すればアーセナルは組合せが増える

空中戦ではハーランドにも引けをとらない冨安。CB起用にも期待がかかる Photo/Getty Images

 アーセナルに加入してからの冨安健洋はケガが多い。昨季はふくらはぎを2度に渡って痛め、トータルで約2カ月プレイできなかった。良いスタートを迎えたかった今季もシーズン前にヒザの負傷が判明し、プレシーズンのツアーに参加することができなかった。現状、伊藤と同じく復帰時期は未定だ。

 冨安がアーセナルのなかで出場するとしたら、これまで起用されてきた左右のSBとなる。ただ、右にはベン・ホワイト、左にはオレクサンドル・ジンチェンコ、ユリエン・ティンバーなどがいて、コンディション万全でもレギュラーポジションを掴むこと
が難しいのが現状である。

 監督就任6年目を迎えたミケル・アルテタは時間をかけて[4-3-3] を磨いてきた。第1節ウルブズ戦(2-0)の最終ラインは右からホワイ ト、ウィリアム・サリバ、ガブリエウ・マガリャンイス、ジンチェンコ。第2 節アストン・ヴィラ戦(2-0)はホワイ  ト、サリバ、ガブリエウ、ティンバーで、第3節ブライトン戦(2-2)も同じ4 名だった。

 変化があったのは左SBのポジションだけで、右SBのホワイトは3 試合にフル出場となっている。まだ 3試合だが、冨安は復帰したならホワイトの負担を軽減する役割が求められる。途中出場、またはホワイトを休ませたいときに先発を務める右SBのバックアッパーという感じになる。

 ただ、相手のウインガーを通行止めにする対人守備の能力では、ホワイトをも凌ぐかもしれない。冨安は過去に何度もその粘り腰の強い守備によって、モハメド・サラー、ソン・フンミンといったプレミア屈指のウインガーたちを封殺してきた。状況や対戦相手によっては、冨安の方が先発に選ばれることもあるだろう。

 無論、冨安はCBでも稼働できる。現状、サリバとガブリエウは最終ラインに欠かせない2人となっているが、試合数の多さを考えればどこかでターンオーバーが必要になってくる。リッカルド・カラフィオーリをボローニャから獲得したが、代表戦で負傷した。そうなると、ヤクブ・キヴィオル、ホワイト、ティンバー、そして冨安などがCBの候補として名前があがる。

 ホワイトは右SBで定着しているが、数年前は冨安が同ポジションを務め、ホワイトがCBという布陣が通常だった。ガブリエウ&ホワイトのCBコンビは強固でビルドアップも正確だった。サリバ&ガブリエウのファーストチョイスに、ホワイト、冨安、カラフィオーリなどを加えたCBのセットが組めるようになればアーセナルはよりチーム力を増すことになる。

 離脱期間が長い冨安に不安が あるとすれば、一緒にプレイした時間が短い選手たちとの連携になる。デクラン・ライス、カイ・ハフェルツ とのプレイ時間をもっと増やしたいし、今季加入したラヒーム・スターリ ング、ミケル・メリーノといった選手   とも連携を深めたい。

 昨季はプレミアリーグで先発10試合、途中出場12試合だった。全38試合中22試合の出場で、アーセナルに加入してから3年でもっとも多くの試合に出場した1年になっ た(過去2年は21試合)。持っている能力の高さはすでに知られていて、監督やチームメイトからの信頼も得ている。負傷離脱した期間がなければ、この数字はもっと増えていたはず。コンディションを整え、ピッチに戻ってくる。そして、左右のSBだけでなく、ときにCBでプレイして勝利に貢献する。すべての大会で優勝を狙うアーセナルのなかで、複数のポジションを任されて活躍する。今季はそんな冨安の姿が見たいが、8月下旬に現地メディアが「練習を再開している」と報道している。いつ復帰するかは未定ながら、確実に “そのとき”は近づいている。

遠藤に求められるのは前方に運ぶ&得点に絡む力

遠藤は前線に差し込むパスの能力も低くない。それを新監督スロットに認めさせたいところ Photo/Getty Images

 負傷で出遅れている伊藤、冨安とは異なり、リヴァプールの遠藤航は新たに招聘されたアルネ・スロットが志向するスタイルのなか、先発ポジションをライアン・グラフェンベルフに奪われている。昨季までの[4-3-3]から[4-2-3-1]へと中盤が変化し、ボランチは開幕からグラフェンベルフとアレクシス・マクアリスターが務めている。トップ下にドミニク・ショボスライで、アンカー+インサイドハーフ2枚だった昨季から三角形が逆になっている。

 遠藤航がアンカーを務め、ショボスライ、マクアリスターのインサイドハーフ。この3名は連携が良く、中盤で相手ボールを奪う→攻撃に移行するというのが素早くできていた。スロットはここに修正を加え、第1節 イプスウィッチ戦(2-0)、第2節ブレ  ントフォード戦(2-0)、第3節マン チェスター・ユナイテッド戦(3-0)に いずれもクリーンシートで勝利するこれ以上ないスタートを切っている。

 3連勝するなか、遠藤がピッチに立ったのはブレントフォード戦の91分からで他の2試合は出場機会がなかった。イプスウィッチ戦、ブレントフォード戦はどちらもボールを保持して最後まで点を取りにいっており、疲労してきた3トップが優先して交代されている。ブレントフォード戦で のグラフェンベルフ→遠藤も疲労を考慮してのものだった。残り時間は 少なく2点差があり、遠藤を入れて 守りを固めるというほどの交代ではなかった。

 マンU戦は50分過ぎに3-0となり、中盤の守備を引き締めてショートカウンターで追加点を狙うなら遠藤投入もあるかと考えられたが、スロットには受けに回る、守備的にいくという意識はなく、前線の3人と両SB という攻撃で足を使うポジションの選手が交代され、攻撃の強度を落とさない選択が取られた。そして、遠 藤はベンチに座ったまま試合終了のホイッスルを聞いた。

 このマンU戦ではグラフェンベルフ、マクアリスターともに中盤でボールを刈り取り、素早いトランジションで得点にからむ仕事をしている。35 分の先制点はグラフェンベルフが相手パスをカットし、そのままダイナミックなドリブルで前方へ運び、絶好のタイミングで右サイドのモハメド・サラーにパスを出した流れから生まれている。

 41分の追加点は相手陣内でリヴァプールが強度の高いプレスを仕掛け、ルーズボールとなったところを的確なポジションを取っていたマクアリスターが拾い、すぐに前線の ルイス・ディアスへ縦パスを入れる。ルイス・ディアスが右サイドのサラー に散らし、ゴール前に走り込んでリターンパスをダイレクトでゴールに流し込んだものだった。

 スロットが遠藤に求めるのは、こうしたプレイになる。中盤で強度高く プレイしてボールを奪うだけでなく、自分で前方へ運ぶ。あるいは効果的かつ決定的なパスを出す。いまは 起用が少ないが、スロットは遠藤について問われると「遠藤も重要な戦力だ」と常々答えている。出場時間はともかく、今後もピッチに立つ機会は必ずある。いざ監督から声がかかったときに、いかに いまのリヴァプールのなかで求められるプレイができるかが大事だ。そ のことは経験を積み重ねてきた遠藤自身が一番わかっていると考えら れる。今季もマンCと優勝争いを繰り広げそうなリヴァプールのなかで、いかに存在感を出していくか。ここからのパフォーマンスが逆に楽しみだ。スロットのもと、さらに一段階レベルアップした選手になるかもしれない。


文/飯塚健司

※ザ・ワールド2024年10月号、9月15日配信の記事より転載

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