その昔、初代Jリーグチェアマンの川淵三郎氏は「(日本代表に)チャンピオンズリーグで上位に入るようなチームでレギュラーを務める選手が10人以上いなければW杯優勝は狙えない」という言葉を残している。かつては夢物語だったが、日本サッカー界は確実にこの数字に向かって成長を続けている。
今シーズンはCLに12人、ELに3人、合計15人の日本人選手、サムライたちが参戦している。それぞれ、置かれた立場は違う。主力となっている選手がいれば、完全にはポジションをつかめていない選手もいる。優勝を狙っているチームでプレイする選手がいれば、リーグフェーズ突破が目標となるチームでプレイする選手もいる。ケガでまだ出場がない選手も……。15人それぞれの見どころを紹介する。
主力を張る南野&守田 チームからの信頼もある
スポルティングCPで堂々と主力を張る守田。CLでどこまで結果を残せるか Photo/Getty Images
昨シーズンのリーグ・アンで2位となってCL出場権を得たモナコでは、南野拓実がチームに欠かせない戦力となって活躍している。[4-2-3-1]と基本布陣とするなか、南野はトップ下を任されることが多い。リーグフェーズ第1節のバルセロナ戦でもトップ下で先発し、チームを勝利に導いてみせた。
ポット4のモナコに対して、バルセロナはもちろんポット1。ホームでの戦いとはいえ苦戦が予想されたが、立ち上がりに南野が大きな仕事をした。開始10分、GKマルク・アンドレ・テア・シュテーゲンがボールを持って出しどころを探す。南野は守備能力も高く、前線から献身的にボールを追いかけることができる。テア・シュテーゲンが無造作にエリック・ガルシアへパスを出したところにチャージをかけ、背後からボールを奪い取ることに成功した。
南野がそのままドリブルでペナルティエリアに侵入しようとしたところ、エリック・ガルシアに後方から倒された。このファウルでエリック・ガルシアは一発退場となり、モナコは残り約80分をひとり多い状態で戦うことができた。結果、2-1で勝利してポット1の相手から貴重な勝点3を得ており、改めて南野の評価が上がった一戦となった。
モナコは第2節ディナモ・ザグレブ戦を大雨のなかアウェイで戦い、2点をリードされる苦しい展開となった。しかし、終盤に2点を返して敵地で勝点1を積み上げている。この試合でも南野は積極的に足を動かし、ゴール前で2度の決定機があった。しかし、1本はGKの好セーブに阻まれ、もう1本はDFにゴールライン上で弾き出された。
モナコもリーグ・アンで首位に立ち、CLも1勝1分けと申し分ないスタートを切っている。南野も好調を維持しており、CLで得点する日もそう遠くなさそうだ。
スポルティングCPでは守田英正が中盤で代えのきかない選手となっている。指揮官を務めるルベン・アモリムはオフシーズンにリヴァプールへの転身が噂された攻守の組織力を高める能力に優れており、守田は[3-4-3]の布陣のなかボランチを務める。
プリメイラ・リーガでは8戦8勝、27得点2失点といまのところ国内に敵がいないなか、CLのリーグフェーズ第1節でもリールに2-0で快勝している。この試合でも守田はミドルシュートや素早いプレスで存在感を放っていたが、1点リードし、相手に退場者が出て、守田もイエローを1枚もらったことで前半を終えて交代となっている。
スポルティングは第2節をアウェイでPSVと戦い、1-1で引分けている。守田はボランチで先発フル出場し、押し込まれる展開になるなか中盤で常に最適なポジションを取り、相手に決勝点を許さず勝点1を持ち帰ることに貢献している。
モナコ、スポルティングはともに1勝1分けのスタートを切ったが、最終的にはまずは24位以内に入り、ノックアウトフェーズ・プレイオフに入ることが現実的な目標になる。そのなかで南野、守田はチームから信頼されており、実際に戦力となっている。
セルティックの3人衆は昨季準優勝に跳ね返された
スロヴァン・ブラチスラヴァ戦でチームの4点目を叩き込んだ前田 Photo/Getty Images
セルティックでプレイする3人のサムライも完全にポジションを得ている。古橋亨梧、前田大然、旗手怜央で、それぞれ加入当時から得点&アシストというカタチで目に見える結果を残している。
今シーズンもセルティックは国内で無敵を誇り、7戦7勝という状態だ。CLのリーグフェーズ第1節もスロヴァン・ブラチスラヴァと対戦し、5-1で快勝している。古橋1得点、前田1得点、旗手1アシストという試合だったが、圧巻だったのは前田のゴールだ。
相手ゴールに背中を向けて古橋が縦パスを受けると、その隣を旗手がフリーランニングして前線に飛び出す。この動きを見逃さず古橋がパスを出し、旗手がゴールを向いてボールを持つ。一連の動きに反応した前田が左サイドから斜めに走っており、旗手からその前田にラストパスが出る。GKと1対1になった前田が右足シュートを決めて奪ったゴールで、3人の連携がもたらした1点だった。
ただ、UEFAのクラブランキングでセルティックはポット3、スロヴァン・ブラチスラヴァはポット4で、ホームゲームでもありここは勝点3がほしい試合だった。真価が問われたのは第2節で、アウェイでポット1のドルトムントと対戦した。
そして、この試合でセルティックの抱える問題が露呈した。スコティッシュ・プレミアリーグの競争力は4大リーグに比べれば低く、昨シーズンのCL準優勝チームであるドルトムントに1-7で粉砕されたのである。
ポゼッション率、シュート数ではそれほど大きな差はなかったが、セルティックのディフェンスは大事なところでボールウォッチャーとなり、簡単にシュートを打たせていた。国内リーグの感覚では大丈夫なところもドルトムントは許してくれなかった。ハットトリックを達成したカリム・アデイェミのような突出した個人能力を持つ選手と対峙することはあまりなく、42分には自陣ペナルティエリア付近で不用意にボールを持った前田がアデイエミにボールを奪われ、そのままミドルシュートを叩き込まれいる。
ただ、まだ2試合を終えただけで1勝1敗だ。セルティックも現実的には24位以内が目標となる。確固たるポジションを得ている古橋、前田、旗手は、今後も変わらずにハイレベルな試合を戦っていくことになる。
上田は好機を生かせるか チェイス・アンリは進化中
身体の強さにも磨きがかかってきた上田。あとは得点という結果を出したい Photo/Getty Images
チームに欠かせない主力とまではいかないが、試合出場のチャンスを得ているのがフェイエノールトの上田綺世、シュツットガルトのチェイス・アンリ、ディナモ・ザグレブの荻原拓也だ。上田はチームのエースであるサンティアゴ・ヒメネスの負傷もあり、第2節ジローナ戦で先発している。チェイス・アンリは2試合に途中出場、荻原は第1節バイエルン戦に先発し、CL初ゴールを奪っている。
ヒメネスが離脱したことで上田にかかる期待は大きいが、現状はまだ力を発揮できていない。前線でボールを受ける動き、身体を張って足元に収めるシーンなどは出てきたが、エースがいなくなったいま求められているのは得点である。ジローナ戦ではチームがPKを得たとき、キッカーを務めた。力の入った低いシュートでゴールを狙ったが、相手GKの好セーブに阻まれてゴールはならなかった。
PKを蹴るチャンスだけでなく、後半には絶妙なスルーパスを受けてGKと1対1になりかけたシーンがあった。しかし、ファーストタッチが微妙にズレたことで縦に抜け出すことができず、切り返してしまった。次の瞬間に戻ってきたDFにクリアされてCKになったが、本来なら縦に抜け出してズドンというプレイだった。
加入2年目を迎えたが、フェイエノールトではまだ本領を発揮できていない。国内の試合に加えて、CLで試合数をこなせるのは上田にとってポジションを得るチャンスとなる。目に見える結果(=得点)がほしいところだ。
チェイス・アンリはシュツットガルトⅡで評価を高め、3年目を迎えてトップに昇格した。その勢いを持続させ、CLでは第1節レアル・マドリード戦に途中出場し、ヴィニシウス・ジュニオールと対峙するなどいきなりハイレベルな経験を積んでいる。
リーグフェーズ第2節スパルタ・プラハ戦も途中出場だったが、ブンデスリーガではすでに3試合に先発フル出場している。どうやら、セバスティアン・ヘーネス監督はおもにリーグ戦でチェイス・アンリを起用し、CLでは途中出場という流れが続くかもしれない。ただ、チェイス・アンリは最終ラインのどこでも対応可能なため、汎用がきく。まだ20歳であり、経験を積むことでどんな選手になるか──。大きな可能性がある選手だ。
ディナモ・ザグレブの荻原は第1節バイエルン戦で強烈なインパクトを残した。1-3で迎えた後半立ち上がりの50分、左サイドをドリブルで突破し、ヨシプ・ミシッチとの大きなワンツーで最終ラインの裏に抜け出し、左足シュートで飛び出したマヌエル・ノイアーの股を抜いて1点差とするゴールを奪っている。
このバイエルン戦では[4-2-3-1]の左サイドアタッカーで先発し、国内リーグでは4バックの左サイドバックで1試合に先発している。バイエルンには2-9で大敗したが、続く第2節モナコ戦は2-2の引き分けだった。荻原の出場はなくここでの日本人対決はならなかったが、12人のサムライが参戦するCLでは今後も日本人対決が控えている。荻原がプレイするディナモ・ザグレブも、第7節に冨安健洋がいるアーセナルと対戦する。CLでこうした対決が普通に見られる現実が、日本サッカーの成長を証明している。
遠藤は試練を迎えている 川村はCL出場なるか
遠藤は出場機会の少なさと戦っている。序列を覆すことができるか Photo/Getty Images
プレミアリーグでプレイする2人、リヴァプールの遠藤航、アーセナルの冨安健洋はCL優勝を狙える。実力どおりにいけば、少なくともラウンド16に勝ち上がるだろう。ただ、遠藤、冨安ともに出遅れており、昨シーズンほどチームで活躍できていない。
冨安に関してはヒザの負傷でプレシーズンから離脱しており先日のプレミアリーグ第7節サウサンプトン戦で復帰したばかり。これまでCLで出場がないのは仕方なく、今後ピッチに立つ回数が増えていくと考えられる。
復帰戦となったサウサンプトン戦は途中出場で右サイドバックを務めており、やはり冨安のアーセナルでの主戦場はこのポジションになる。CLはアタランタ(ポット2)、パリ・サンジェルマン(ポット1)との連戦を終えて1勝1分けというスタートになっている。プレミアリーグで優勝を争い、CLで早期敗退しないためには、分厚い選手層が必要だ。秋を迎えて冨安が復帰したのは、アーセナルにとって大きなプラスだといえる。
複数のタイトルを狙うリヴァプールのなかで、遠藤は昨シーズンから大きく出場時間を減らしている。プレミアリーグが2試合交代出場で合計2分、CLは1試合交代出場で1分という厳しい出場時間になっている。一方で、リーグカップには先発している。この流れでいくと、アルネ・スロットが主力を休ませたいと考えた試合で遠藤は先発することになる。
新監督のスロットは攻撃的なボランチを求めていて、自分で前に運び、ときに自分でフィニッシュするというタイプを同ポジションに起用している。リードを奪っても守りに入るという考えはなく、攻撃的な選手を入れてさらに畳みかけようとしている。この新たなリヴァプールのなかで遠藤は出場時間を増やせるのか、あるいは冬の移籍期間になんらかの動きがあるのか。いずれにせよ、遠藤の動向はチェックしていなければならない。
ここまで紹介した選手たちはすでにCLや国内リーグのピッチに立ったが、負傷によってまだシーズンがはじまっていないサムライもいる。バイエルンの伊藤洋輝、レッドブル・ザルツブルクの川村拓夢である。
プレシーズン中に右足の中足骨を骨折した伊藤は、スパイクを履いてボールを蹴る練習を再開したとのニュースがあり、年内の復帰が見込める。バイエルンは最終ラインの選手層に不安があり、ブンデスリーガ&CLともにキム・ミンジェ、ダヨ・ウパメカノのCBで戦っている状態で、CLリーグフェーズ第2節のアストン・ヴィラ戦に0-1で敗れている。コンディションが整ったなら、伊藤には必ずCLで出場機会がある。
同じく不運だったのは川村で、レッドブル・ザルツブルクに加入直後の7月に左ひざの内側靱帯を断裂して戦線離脱している。ポット3のザルツブルクは第1節スパルタ・プラハ戦に0-3、第2節ブレスト戦には0-4で完敗している。ブレストはポット4でクラブランキング最下位であり、この一戦に敗れたのはかなりの計算外だ。
川村の復帰時期は未定で、今シーズンのCLに出場できるかどうかわからない。昨シーズンで国内リーグの連覇が途切れたレッドブル・ザルツブルクにとって、今シーズンは沈みを少なくする意味でも大事な1年になる。川村は復帰を待望されている。
ELには3人が参戦 久保&ソシエダは油断禁物
やや出場機会を減らしている久保だが、焦る必要はない Photo/Getty Images
ELには3人のサムライが出場している。レアル・ソシエダの久保建英、AZの毎熊晟矢、ユニオン・サン・ジロワーズの町田浩樹で、毎熊、町田は2試合にフル出場し、久保は1試合に出場している。
リーグフェーズ2試合を終えて、ソシエダの久保は途中出場1試合で45分間のプレイにとどまっている。チームは1分け1敗とスロースタートとなっており、久保はどうも力を発揮できていない。指揮官のイマノル・アルグアシルの考えるサイドアタッカー像とマッチしていないのか、ラ・リーガでも先発を外れている試合がある。
ただ、ソシエダはポット2の最上位で24位以内は確保すると考えられる。油断は禁物だが、久保は焦る必要はない。ピッチに立ったときに自分の能力を示し、チームを勝利に導く。普段どおりにプレイすれば、ソシエダ&久保はELのリーグフェーズで苦戦するチーム&選手では決してない。今後にどう挽回していくか、目が離せないところだ。
AZの毎熊は第1節エルフスボリ戦では右サイドバックで先発フル出場して3-2の勝利に貢献したが、第2節アスレティック・ビルバオ戦では苦い経験を積んでいる。対峙するポジションにいたのはスペイン代表で活躍するニコ・ウィリアムズで、終始劣勢を強いられてチームも0-2で敗れている。
2試合を終えてAZは1勝1敗で18位だが、クラブランキングではソシエダに次ぐ順位となっており、リーグフェーズを突破できなければ不本意な敗退となる。チーム内でポジションを獲得している毎熊には、AZを勝利に、ラウンド16に導くことが求められている。
町田はユニオン・サン・ジロワーズで欠かせない戦力となり、ジュピラー・プロ・リーグやELで試合出場を重ねている。チームの基本陣は[3-5-2]で、町田はおもに最終ラインの中央でプレイする。ELではフェネルバフチェに1-2、ボデ・グリムトに0-0となっており、2試合を終えてまだ勝利がないものの、町田もそうだがユニオン・サン・ジロワーズそのものが欧州の舞台で戦う経験が浅く、一試合一試合が選手やチームにとって財産になっている。
ELはある意味で選手の見本市でもあり、とくに夏の移籍市場でステップアップの可能性が指摘されていた町田はビッグクラブのスカウティングが注目するホットな存在だといえる。ポジションを確保している町田が今後のELでどんなプレイをみせるか。そして、その先にどんな結果が待っているか。ここ数カ月の活躍によっては、リーグフェーズが終わるころ(2025年1月下旬)には町田はステップアップしているかもしれない。
文/飯塚健司
※ザ・ワールド2024年11月号、10月15日配信の記事より転載