横浜FCは最後に苦戦したが総合力でJ1昇格を掴む
1年でのJ1返り咲きとなった横浜FCは、20戦無敗を記録するなど総合力が高かった Photo/Getty Images
今季J2の順位が確定しました。毎年そうですが、またも自動昇格チーム、昇格プレイオフに進むチームともに最終節まで決まらない混戦となりました。最後にうれし涙でシーズンを終えたチームがあれば、悔し涙で終えたチームもあります。
まだ昇格プレイオフという一大イベントが残されていますが、全18チームが38試合を戦い終えました。長いシーズンの間には、それぞれ紆余曲折がありました。何事もなく順調に戦いを終えたチームは存在しません。そこで今回は、J2ウォッチャーである私の琴線にとくに触れた3チームの今季を振り返りたいと思います。
横浜FCはラスト4試合に2分2敗というフィニッシュになりましたが、その前に20戦無敗を達成するなどシーズンを通じて安定した試合運びができていました。J2最少失点であり、先制したら負けないパターンが徐々にできていきました。
補強もうまくハマりました。森海渡が負傷して前線が手薄になると、まずは浦和からJ2を良く知っている高橋利樹を獲得。さらに、夏になるとジョアン・パウロを獲得しましたが、両者ともにすんなりフィットしました。
セットプレイでは福森晃斗の“悪魔の左足”が相手に脅威を与えていました。相変わらずキックの精度が高く、その左足はホントに際立っていました。福森晃斗、ンドカ・ボニフェイス、ガブリエウの3バックは堅く、ブレなかったですね。GK市川暉記も手堅い印象で、守備の堅さがあったから最後の2試合を0-0、0-0で乗り切れたのだと思います。
リーグ最少失点は守備陣だけの力ではなく、前からのプレスも効いていました。四方田 修平監督の守備をベースにしたブレないチーム作りのもと、ユーリ・ララ、井上潮音、中野嘉大、山根永遠といった中盤の選手がシーズンを通じて活躍し、伊藤翔など経験ある選手も要所で役割を果たしました。
コーチングスタッフと選手の信頼関係も良いなと感じました。四方田修平監督は選手の特長を引き出していたし、中村俊輔コーチ、土肥洋一GKコーチも自らの経験を生かしてチームの勝利に貢献していました。
また、ニッパツ三ツ沢球技場へ取材に行くと、いつもファン・サポーターが良い雰囲気を作ってくれていて、横浜FCは良い雰囲気のなか戦っているなと感じていました。今季の横浜FCのJ1昇格は、チームに関わる全員で掴み取ったものです。総合力で勝ち取った自動昇格でした。
いわきFCは選手が育つ 水戸は守備整理で残留果たす
水戸の草野は古巣・横浜FC戦での得点もあった Photo/Getty Images
いわきFCは昨季18位から9位へ順位を上げました。残留争いから一桁順位までジャンプアップした功績は高く評価できます。しかも、選手を引き抜かれ、主力が入れ替わったなかこの成績です。2012年クラブ創設でJ2もまだ2年目です。この勢いでいくと、さらなる大躍進も期待できます。
前線の谷村海那、有馬幸太郎が揃って二桁得点し、中盤では山下優人が9アシストしました。生存競争が激しく、次々に選手が出てきます。前述した選手だけでなく、期限付き移籍で加入した大迫塁、西川潤、熊田直紀なども良い経験を積んでいます。
この辺り、補強のうまさを感じます。シーズン前半に躍動した大西悠介がケガをすると、柴田壮介を獲得。照山颯人が長崎に移籍すると、堂鼻起暉を獲得。モチベーターである田村雄三監督のもと、加入した選手がいきいきとプレイする土壌ができています。
田村雄三監督とは現役の最後に湘南で一緒にプレイしましたが、気さくな人柄で「この人のためなら」と周りが動くタイプです。監督更新が発表されており、来季もいわきFCは田村雄三監督で戦います。また選手を引き抜かれ、今季よりも対策されるでしょう。そうしたなか、どうバージョンアップした姿を見せてくれるか楽しみです。
水戸は序盤に苦戦し、シーズン途中にクラブを熟知している森直樹監督、細川淳矢コーチという体制になりました。すると、3バックへのシステム変更などで立て直し、徐々に勝点を積み上げて15位でフィニッシュしました。
4バックの左サイドをできる大崎航詩が左センターバックに起用され、偽CBのようにどんどん攻撃参加。長井一真、新井晴樹などのプレイも目に留まりました。ケガはありましたが、落合陸や寺沼星文は序盤の苦しい時期を必死にプレイしていました。
シーズン後半の水戸は守備を整理したことで負けないチームになっていたと思います。手堅い守備をベースに、キャプテンの草野侑己、途中加入した中島大嘉、大卒2年目の久保征一郎などが少ないチャンスをモノにすることで残留争いから抜け出しました。
アツマーレというクラブハウスが完成するなど、水戸は着実にクラブとして大きくなっています。個人的には鹿島との“茨城ダービー”をいつかJ1で見たいと思っています。
最後に、今季で引退する武田英二郎(横浜FC)、田中謙吾(いわきFC)、本間幸司(水戸)に「お疲れさま」と伝えさせてください。それぞれ、第2の人生で頑張ってほしいです。
※ザ・ワールド2024年12月号、11月15日配信の記事より転載