[特集/フリック・バルサ徹底分析 02]カンテラの質こそがバルサの強み 躍動するヤング・バルサ14人

 異論はあると思うが、バルサのカンテラ(下部組織)は世界一のサッカー選手育成機関だと言える。過去にはカルレス・プジョル、アンドレス・イニエスタ、セルヒオ・ブスケッツ、リオネル・メッシなどを輩出。今季のバルサを支えるのも、カンテラ出身の良質なタレントたちだ。

 ベイビー・バルサと呼ばれるバルセロナの若手たち。ラミン・ヤマル(17)、パウ・クバルシ(17)、アレハンドロ・バルデ(21)、マルク・カサド(21)フェルミン・ロペス(21)らは中心戦力として活躍し、ガビ(20)も負傷から復帰。カンテラ出身ではないがパブロ・トーレ(21)、ペドリ(21)、ジェラール・マルティン(22)らもいる。ここまで若手が活躍するバルサは近年なかったのではないだろうか。

ヤマルは誰にも止められない クバルシは現代サッカー育ち

ヤマルは誰にも止められない クバルシは現代サッカー育ち

クラシコでの得点を祝う若きふたり、ヤマル(左)とバルデ photo/Getty Images

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 一貫した指導の賜物なのか、バルサのカンテラからは次々とタレントが出てくる。トップチームの編成は世界的なビッグネーム+カンテラ出身の生え抜きが基本となるが、今季はその比率がだいぶカンテラ出身に寄っていて、しかも若い選手が多い。

 現在、ラ・リーガは第13節を終えているが、バルサだけではなくサッカー界のネクスト・スターであるラミン・ヤマルは11試合先発、1試合途中出場で5得点している。昨季にトップデビューを飾り、バルサの最年少記録(ラ・リーガでの最年少スタメン、最年少得点など)をいくつも更新したヤマルは、プレイするたびに驚きを与えてくれている。

 ヤマルがボールを持ったときに下手に足元に飛び込むと、間違いなくかわされる。巧みなボールコントロール、切れ味鋭い動きは常人離れしており、1人、2人の相手なら難なくかわしてボールを運ぶ。現代のサッカーは多くのチームがボールをロストしたときに素早くトランジションし、できれば相手陣内でボールを奪い返すことを狙っているが、ヤマルにボールが渡るとこれが不可能となる。勢いよくプレスにいく→ヤマルにかわされる→後方の守備が疎かになっている→前を向いたヤマルに自由にやられる。バルサと対戦すると、こうした流れで失点するケースが多い。
 ドリブル、パス、フィニッシュ。どれも良質だが、とくにボールを受けるポジショニングが良く、ドリブルのコース取りが良い。常に自分のスタイル、リズムで仕掛けることで優位に立ち、実際にゴールへと繋げている。まだ17歳でありどんな将来が待ち受けているかわからないが、数々のスターを輩出してきたバルサである。ヤマルは長く活躍し、世界のサッカーファンを楽しませてくれるだろう。

 最終ラインではセンターバックのパウ・クバルシが12試合先発、1試合交代出場となっている。ヤマルと同年代のクバルシはもともとジローナの下部組織でプレイしていたが、2018年にスカウトされバルサのカンテラ入り。足元の技術力、精度の高いパスでメキメキと頭角を現わし、昨季途中に17歳でトップデビューを飾り、レギュラーポジションを掴んでいる。

 今季のバルサはハンジ・フリックのもと高いラインを保ち、前線からハイプレスをかけるスタイルを志向している。最終ラインの選手にはリスキーなポジショニングが求められるが、クバルシは臆することなく高いポジションを取り、攻撃につながる前を向いた状態でのインターセプトを狙っている。17歳のクバルシはこうしたスタイルで育ってきており、動きに迷いがなく、ボールコントロールに落ち着きがある。難しいことを普通にこなす技術力とメンタルを持っている。

 また、マイボールになったら常に縦パスを狙っていて、ロベルト・レヴァンドフスキをはじめとする前方でプレイする選手にもこの意識が共有されている。絶妙なタイミングで絶妙なポイントに出される縦パスもクバルシが持つ特長のひとつになる。

 左サイドバックのアレハンドロ・バルデは9試合先発、2試合に途中出場となっている。17歳で年齢制限のないバルサBに所属し、2021-22に18歳でトップデビュー。ジョルディ・アルバから世代交代し、21歳となったいますでにラ・リーガに60試合以上出場している。

 バルデは左利きの左サイドバックであり、自分で前方にボールを運べる推進力がある。攻撃の意識が強くデフォルトのポジションが高く、バルデがドリブルをはじめるとチーム全体が前がかりになる。ボールタッチが巧みでスピードがあるため、縦へ突破するのか、ハーフスペースを目掛けて斜めに入っていくのかわかりづらく、DFは対応が難しい。

 身体の使い方もうまく、重心が低く、相手をかわすときの手の使い方が若者とは思えない。どのタイミングで相手が飛び込んで来るかわかっていて、瞬時に腰を落として体重移動するとともに、うまく手を使って相手のパワーをかわす。ボールを失わないキープ力もあり、バルデがクロスを上げるときには信頼したチームメイトが3人、4人とPA内に入っていることが散見される。

 バルサはチャンピオンズリーグのリーグフェーズ第3節でバイエルンと対戦したが、ハフィーニャが奪った先制点のキッカケとなる縦パスをレヴァンドフスキに入れたのがバルデだった。実際にゴールに繋がるパスやクロスを出せる。バルデは凄まじく攻撃的なフリック・バルサに欠かせない左サイドバックとなっている。
 

カサド&ペドリが安定 ガビ復帰で戦力増強

カサド&ペドリが安定 ガビ復帰で戦力増強

シャビ体制ではバックアッパーに過ぎなかったカサドだが、フリックによってレギュラー格に引き上げられた photo/Getty Images

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 中盤では昨季途中までバルサBでキャプテンを務めていたマルク・カサドが台頭し、8試合先発、2試合途中出場となっている。トップデビューは昨季29節のアトレティコ・マドリード戦で、途中出場でピッチに立っている。最終的にラ・リーガ2試合、CL2試合の出場だったが、いずれも交代出場でプレイ時間は短かった。

 今季のカサドは違う。新指揮官であるフリックの信頼を得て、開幕戦にダブルボランチの一角で先発すると、そのままポジションを得て出場を重ねている。身長172センチで高さがあるわけではなく、運動量が豊富で小回りが利くタイプ。次のプレイを読む能力に優れ、ボールがこぼれそうなところにスッと現われ、相手が対応する間もなくダイレクトでボールをさばく。

 シーズン当初はこのカサドとマルク・ベルナル(カンテラ出身の17歳)が中盤でプレイしていたが、ベルナルは第3節ラージョ戦で左ヒザ前十字靭帯を断裂して長期離脱となった。その後はカサドとペドリのコンビで中盤を構成することが多いが、両者はプレイスタイルが似ていて波長が合っている。

 説明不要のペドリは21歳ですでにラ・リーガ出場100試合を超えているチームの中心選手である。バルサのカンテラ出身ではないが、プロ契約していたラス・パルマスから17歳のときにバルサのトップチーム入りし、以来ずっと試合に出続けている。

 ペドリの技術力、アジリティは世界屈指で、プレスを受けても余裕を持ってかわせる。むしろ、相手が飛び込んで来るのを待っていて、冷静に逆を突く。そのプレイスタイルはバルサにマッチしていて、カンテラ出身者が多い今季は11試合先発、2試合交代出場で3得点1アシストとコンスタントに活躍している。

 首位をキープするバルサだが、第3節ラージョ戦は先制されて追いかける展開になった。そうしたなか、58分に同点弾を決めたのがペドリだった。自陣のセンターサークル内でボールを持つと、ペドリは前を向いてドリブルでボールを運ぶ。相手がジリジリとラインを下げると、絶妙なタイミングで左サイドのハフィーニャにパスを出し、自分はゴール前へ。そこにハフィーニャから折り返しのパスが出され、ワントラップでボールを足元に収めたペドリが左足で決めたゴールだった。

 チャンスは逃さず、確実に仕留める。攻撃を組み立てるだけでなく、そうした決定力もある。さらには、攻撃から守備への切り替えも早く、ボールを奪う力もある。これはペドリだけではなく、カサドにも当てはまる。バルサの中盤でプレイする選手は“潰し”が早く、マイボールにしたあとの球離れも早い。そのため、相手に息を突く暇を与えない連続攻撃が可能となっている。

 これらのメンバーに加えて、中盤には右ヒザ前十字じん帯断裂および半月板損傷から復帰したガビもいる。いまはまだ3試合に交代出場しただけ。しかも、3試合ともペドリに代わってピッチに立っているが、ガビとペドリはパスワークで会話できるのではないかと思えるほど相性が良く、本来なら一緒にプレイさせたいところだ。

 勝利にどん欲なガビは運動量が豊富で、献身的に動いて攻守両面で数多くボールに絡む。ハードワークできて攻撃を組み立てることができるガビのコンディションが戻ってきたなら、バルサはさらにチーム力がアップすることになる。

F・ロペスは決定力がある マルティンは左利きの大型DF

F・ロペスは決定力がある マルティンは左利きの大型DF

今夏のパリ五輪でも日本代表を敗退に追い込むスーパーゴールを決めたフェルミン photo/Getty Images

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 パリ五輪で5得点2アシストを記録したフェルミン・ロペスもカンテラ出身者だ。2022-23はローン先のリナーレス(3部相当)でプレイしたが、ここで12得点4アシストと結果を残し、翌年にローンバックとなり23-24はバルサのトップチームでプレイした。

 筋肉系の負傷があり今季はここまで2試合先発、5試合途中出場となかなかピッチに立てていないが、第11節レアル・マドリードとのクラシコで先発に選ばれ、トップ下で45分間プレイした。プレイエリアが広く、ボールを失わないキープ力があってドリブルでボールを運べるタイプで、“個”の力でなんとかできる。攻撃性能に優れているので、今後どんどんプレイ時間が長くなっていくかもしれない。

 なにより、その決定力の高さはパリ五輪を通じて日本のファンも良く知っている。準々決勝の日本×スペインは0-3という結果に終わったが、F・ロペスはこの試合で2得点している。左足での強烈なミドルで1点、右足アウトサイドによるミドルで1点という、日本としては防ぎようがない呆気に取られる2ゴールだった。

 カンテラ出身ではないが、今季すでに3試合先発、2試合途中出場で3得点しているパブロ・トーレも21歳だ。相手が嫌がるポジション取り、ギャップを突くのがうまく、先発した3試合はいずれもインサイドハーフを務めた。小刻みにボールタッチするため相手は飛び込みにくく、狭いスペースをドリブルで突破できる。

 トーレは右足、左足を遜色なく使える器用さがあり、フィニッシュの精度が高く短いプレイ時間でも答え(=得点)を出せる。10節セビージャ戦では75分から出場し、ジュール・クンデからのクロスに右足で合わせて1点、左サイドから蹴ったFKがファーサイドに流れてそのままゴールになって1点と、15分間のプレイで2得点している。

 このトーレは2022-23にバルサBに加入し、昨季はジローナにローンされていた。同じようにバルサのカンテラ出身ではないが、バルサBからスタートしたジェラール・マルティンも3試合先発、6試合途中出場と頭角を現わしている。

 身長186センチのマルティンは貴重な左利きの大型ディフェンダーで、今季は左サイドバックを務めることが多い。バルデと交代で入ることがあれば、先発することもある。バルデほど攻撃参加はしないが、そのぶん守備での安定感がある。懐の深いボールキープ、冷静な判断、正確なフィードなど、どのプレイも落ち着いている。

 いまのバルサはとにかく攻撃的で、左サイドバックのポジションではバルデの存在が際立っている。しかし、守備を考えるならマルティンの高さ、強さ、落ち着きのほうが安心できる。バルデとマルティン。ポジションを争う両者がどちらもU-22という事実が、バルサが育成王国であることを示している。

 これらの選手の他にも、ブライトンから復帰したアンス・ファティ(22)、エクトル・フォルト(18)、セルジ・ドミンゲス(19)、パウ・ビクトル(22)などがピッチに立ち、それぞれ存在をアピールしている。ファティ、フォルト、ドミンゲスはいずれもバルサのカンテラで育ち。ビクトルはジローナのカンテラ育ちだが、バルサBを経由してステップアップしてきた選手だ。

 こうして見ていくと、今季のバルサは若い選手たちが引っ張っていることがわかる。しかも、技術力が高い生え抜きの選手が多く、阿吽の呼吸でプレイできている。好守両面で各選手が連動するとはどういうことなのか、いまのバルサを見るとよく理解することができる。


文/飯塚健司

※ザ・ワールド2024年12月号、11月15日配信の記事より転載

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