ペップが率いた2008-09のバルサは、ラ・リーガを2位レアル・マドリードに勝点9差をつけて制している。このときのバルサは[4-3-3]で中盤にシャビ、イニエスタ、セルヒオ・ブスケッツがいて、3トップがメッシ、ティエリ・アンリ、サミュエル・エトー。
各選手の高い技術力を生かしたポゼッション・サッカーで完全に試合を支配し、後にメディアが“ティキタカ”と呼ぶようになったスタイルの創世紀であり、第9節を終えて首位に立つと、他クラブの追随を許さずその座を明け渡すことなくシーズンを終えている。
象徴的だったのは第34節レアル・マドリードとのクラシコで、この時点で両者の勝点差は4だった。終盤に敵地で迎えたライバルとの大一番で、ペップ・バルサは最大出力のパフォーマンスを発揮。メッシ、アンリが2得点、カルレス・プジョル、ジェラール・ピケも得点し、6-2で圧勝してライバルに引導を渡している。
国王杯ではホーム、アウェイともに一試合も落とすことなく勝ち上がり、決勝ではビルバオと対戦。ヤヤ・トゥレ、ボージャン・クルキッチ、メッシ、シャビがゴールネットを揺らし、4-1で勝利して王者となった。
スペイン国内に敵がいないなか、チャンピオンズリーグ(CL)ではイングランド勢がライバルとなった。準決勝のチェルシー戦はもっとも追い込まれた一戦で、第1戦ホームゲームを0-0で終え、第2戦は9分に先制点を奪われ、その後に退場者を出して数的不利で戦う劣勢となり、90分が過ぎて残りは追加タイムのみという状況になっていた。
しかし、バルサは諦めていなかった。いまでも思い出せるが、終盤になってからの猛攻は鬼気迫るものがあった。1人少ないにも関わらずボールをキープし、最後はメッシからの横パスを受けたイニエスタが右足ミドルシュートを決め、アウェイゴールの差でチェルシーを下してファイナルへと勝ち上がった。
このころのバルサは“無敵”でどうやっても負けない雰囲気があり、チェルシー戦ではそれが具現化されたカタチだった。この試合ではラファエル・マルケス、アンリという攻守の主力を欠いていた。1点を先制されたし、1人少なくもなった。それでも引分けに持ち込んだ。「自分たちは負けない」という自負が随所に滲み出ていて、実際にその通りにしてしまう嫌になるほどの強さが発揮された一戦だった。
CL決勝ではアレックス・ファーガソンが率いる前年度王者のマンチェスター・ユナイテッドと対戦し、さらに完成度の高いポゼッション・サッカーで試合を支配し、2-0で完勝してみせた。それまでマンUは堅守を誇っていたが、1年を戦ってきたペップ・バルサのパスワーク&連動性は止める術がなく、バルサの強さばかりが目立った。
スペイン勢初の3冠を達成したこのときのペップ・バルサは、シャビ、イニエスタ、メッシという中盤の3人だけでなく、ビクトル・バルデス、プジョル、ピケなどの守備陣。さらには、ペドロ・ロドリゲス、ボージャンなど控え選手にもカンテラ出身者が多かった。
補強も的確で、ヤヤ・トゥレ、アンリ、エトーといった“違い”を持つ選手たちがカンテラ育ちの選手たちとはまた違った個性を発揮することで、試合を支配するだけではなく実際にゴールも奪うという攻撃的なサッカーが実現されていた。良質な才能を持つカンテラ出身者と、突出した才能を持つ補強選手。両者がうまく融合した結果の3冠達成だった。