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[特集/プレミア戦線異常アリ 01]クロップ×スロットで早くも独走体制 新生リヴァプールは フットボールの理想形へ|theWORLD(ザ・ワールド)|世界中のサッカーを楽しもう!

[特集/プレミア戦線異常アリ 01]クロップ×スロットで早くも独走体制 新生リヴァプールは フットボールの理想形へ

リヴァプールは昨季をもって、約9年間も続いたユルゲン・クロップ体制に終止符。この名将はたくさんの輝かしい栄光と素晴らしい記憶を残し、多くのファンに惜しまれながらアンフィールドを去ることとなった。そして後任を託されたのが、昨季までフェイエノールトを率いてきた新鋭アルネ・スロットだ。

これまでの監督キャリアで獲得したタイトルは、エールディビジ(2022-23)とKNVBカップ(2023-24)のわずか2個。ネームバリューも含めて、欧州トップクラブの監督としてはやや物足りないかもしれない。しかし、近年は着実に監督としての評価を上げており、多くの戦術家を生み出しているオランダ出身。ギャンブルという声もあるが、不安以上に期待も大きかった。

そんな中、いざシーズンが始まってみると、ここまで公式戦での黒星はわずかに1つ。スロット監督は不安を跳ね除けて周囲の期待に見事応える、いや期待以上の手腕を発揮していると言っても過言ではないかもしれない。リヴァプールのこれまでのスタイルを一部継承しつつも、クロップ時代には見られなかった選手起用やポゼッションサッカーも披露し、他を圧倒しているのだ。そんな新生リヴァプールの強さの秘密に迫る。

クロップとスロットは真逆の戦術だが……

クロップとスロットは真逆の戦術だが……

サラーを中心に今季も圧巻のパフォーマンスを披露する攻撃陣 photo/Getty Images

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プレミアリーグ首位、CLリーグフェーズも首位。リヴァプールが好調だ。

カリスマ監督だったユルゲン・クロップに代わり、今季からアルネ・スロット監督が指揮を執っている。クロップの後釜は誰がやっても大変そうなのに、意外にもスムーズに引き継がれている。

クロップの“遺産”はしっかり受け継がれていて、さらにクロップ時代から着手していたボール保持のプレイがスロットになってより整理された。クロップとスロットでは戦術的な指向性がある意味で逆なので、この監督交代がはたして上手くいくのかと思っていたが、きれいな形で移行していて理想的な状態といえる。
ボール保持を軸に考えるか、それとも非保持か。

クロップは非保持を軸にチームを組み立てていた。ボール非保持といっても、もちろんボールを持たないわけではなく、相手のボールをいかに奪うかを軸にプレイするということ。その象徴がクロップの代名詞だった「ゲーゲン・プレッシング」である。

一方、スロットはボール保持からゲームを進めるフットボールの旗手であるオランダの出身。ボールを保持しているかぎり得点の可能性があり失点もしない。ボールを敵陣で失っても、ただちにプレスすれば回収しやすい。攻守の循環が上手く機能すれば、ずっと勝ちに近いままの状況を維持してプレイできる。ボールを支配することでゲームを支配するという考え方だ。

「保持派」と「非保持派」の対称は、フットボールの始まりからあった。

ルールを制定したイングランドは非保持派。1対1のデュエルこそフットボールという闘争的なスタイル。攻撃はロングボールを蹴り込み、蹴り込んだ先でデュエルするアグレッシブな戦術だった。保持派はスコットランドで、ショートパスをつないでの攻撃が特徴だった。イングランド対スコットランドは流派でもライバル関係だったわけだ。

保持と非保持の融合に成功したのが1974年W杯準優勝のオランダである。

縦横にパスをつなぎながらポジションを変化させていく攻撃は、現在のポジショナルプレイの原型ともいえる。そしてボールを失った瞬間に即座に奪回に移り、縦方向のマークの受け渡しとオフサイドトラップによる「ボール狩り」は、ゲーゲン・プレッシングの原点だった。

オランダの「トータルフットボール」は世界に衝撃を与えた。ただ、そのままそれが普及することはなく、再び保持派と非保持派に枝分かれした。

アリゴ・サッキ監督に率いられたACミランがゾーンディフェンスとオランダのボール狩りを掛け合わせたゾーナル・プレッシングを生み出し、この守備戦術は1990年代以降に広く普及して非保持派の流れを作る。クロップもこの流れを汲んでいる。

一方、プレッシングの普及時期にバルセロナでヨハン・クライフ監督が種を撒いたボール保持のスタイルがペップ・グアルディオラ監督の下で完成。多くのチーム、指導者に影響を与えた。スロットもその影響下にあるわけだ。

基本的に保持と非保持は対照的なフットボール哲学だが、枝分かれする前にオランダがその融合に成功していたわけで、クロップ×スロットはその意味で理想的といえるかもしれない。

全員がしっかり戦えるクロップのレガシー

全員がしっかり戦えるクロップのレガシー

シティを相手に2-0の快勝。主将のファン・ダイクが渾身のガッツポーズを決める photo/Getty Images

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保持と非保持を融合させつつある現在のリヴァプールだが、好調の大きな要因は非保持の方にある。つまり、クロップ前監督の遺産が効いている。

プレミアリーグ第13節のマンチェスター・シティ戦は、非保持の威力が遺憾なく発揮されていた。

先に仕掛けたのは実はシティの方だった。リヴァプールの[4-3-3]システムに対して、10個の1対1を作る同数守備でプレスを行った。しかし、これは完全に逆効果。1対1のデュエルでリヴァプールに圧倒され一方的な流れになった。

保持派の筆頭であるシティは、ビルドアップにおいて偽SBや偽CBを駆使して相手のプレッシングを無効化してきた。こうした攻撃側のポジション変化に対して、守備側も陣形を変え、さらに攻撃側が変化するというパズルのやり合いは現代のゲームの序盤でよく見られる光景だ。そしてこのパズルの名手がシティだったわけだ。しかし、全部マンマークしてしまえばパズルに惑わされることはない。

シティは自ら1対1を挑んだことで墓穴を掘る格好になったわけだが、リヴァプールがパズルを拒否してデュエルに持ち込む準備は最初から出来ていたともいえる。

5分にはギュンドアンからボールを奪い、7分にはアカンジのミスパスを誘う。その後もシティにビルドアップをさせず、奪ってカウンターの連続になっていた。この試合でCFに起用されたルイス・ディアスを含め、全員が極めて強度の高い守備を実行できるのはリヴァプールの大きな強みだ。シティのハーランドはそこまでハードワークはできず、フォーデン、ベルナルド・シウバ、ギュンドアン、リコ・ルイスはいずれも小柄で球際のコンタクトに強みはない。1対1に分解した時点でリヴァプール圧勝の流れはできていた。

リヴァプールは全員戦える。ビッグクラブはどこも個々の戦闘力は高いけれども、ビッグクラブゆえに1人は守備で計算できないアタッカーも含まれていることが多い。リヴァプールにはそれがない。そのため相手ボールホルダーへの寄せの速さと球際の強さは非保持勢の中でも頂点であり、こぼれ球への反応やプレイの連続性も際立っている。この特長はクロップ前監督時代から変わらず、これこそがリヴァプールの強みだ。

攻撃面でも1対1は強く、エースのサラー、ルイス・ディアス、ガクポ、ダルウィン・ヌニェスのFW陣は突破力が抜群でコンタクトにも強く、カウンターでスピードを上げたときに優位性がある。守備では1対1で奪う強さ、攻撃はそこから即座にFWへつないで個で打開できる強さ。さらに失っても直ちに守備に移行する速さ。これらはクロップが遺したレガシーだ。

スロットがもたらすプラスアルファの力

スロットがもたらすプラスアルファの力

昨季は出場時間が限られていたグラーフェンベルフだが、今季はここまでファン・ダイクに次いでプレイ時間が長い photo/Getty Images

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スロット新監督は前任者の遺産を継承しつつ、新たな色をチームに加えている。

ボール保持の改良はすでにクロップの時代から着手されていたが、スロットになってから整理が進んでいる印象だ。

クロップはヘンダーソンの後釜として当時ブライトンにいたカイセドの獲得を狙っていた。結局、カイセドはチェルシーが獲ったので、代わりに遠藤航を獲得している。いずれにしても守備の強いMFを想定していたわけで、クロップの非保持的な考え方の一端が表れている。一方で保持の改良にも取り組んでいて、ビルドアップ時に右SBのアレクサンダー・アーノルドをアンカーポジションに移動させる手法を導入していた。

スロット監督はアンカーにグラーフェンベルフを起用している。ビルドアップ時の最重要ポジションに偽SBという代役を立てるのではなく、正統派の「6番」としてグラーフェンベルフを置いたわけだ。A・アーノルドの偽SBも使っているが、本来の補助的な役割になった。MFの底にどんなタイプの選手を起用するかという点でクロップとスロットの違いがわかる。

スロットの戦術は保持勢としてはダイレクト志向だ。

必要以上に攻め込みに時間を使うことはなく、スピーディーに直接的にゴールへ向かう。例えば、かつてのバルセロナのように執拗に保持を続けるというものではない。当時のバルセロナはメッシ、シャビ、イニエスタなど、いわば保持に特化した選手で占められていて、カウンターの打ち合いにならないように慎重にゲームをコントロールする必要があった。パスの多さ、保持時間の長さについてはグアルディオラ監督も一種の必要悪と認めている。その点でリヴァプールはFW含めて全選手が速く、動けて戦えるので、そこまでゲームをコントロールする必要がない。攻め込みのタイミングは速く、スペースがあるうちにそこを突いていくのはクロップ時代とそう変わらない。

保持の新たな力を加えながら、それまでの非保持の強みを失っていない。ただ、保持自体の能力は実はそれほど高くない。ブレンドの配合は非保持>保持になっている。しかし今後はスロット監督色である保持の割合が増えそうなので、そのときに最適のバランスを保てるかどうかはこの先の課題だろう。もし最適のバランスを保つことができれば、2019-20シーズン以来のプレミアリーグ制覇、そして2018-19シーズン以来のビッグイヤーも見えてくるだろう。


文/西部 謙司

※ザ・ワールド2025年1月号、12月15日配信の記事より転載

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