なぜ復帰できない? ルーク・ショーとリース・ジェイムズの度重なる怪我の原因を元スパーズ医療責任者が分析
怪我が絶えないショー Photo/Getty Images
厳しい現実
怪我によってキャリアを棒に振ってしまう選手も少なくないだろう。イングランドを代表するサイドバックであるマンチェスター・ユナイテッドのルーク・ショーやチェルシーのリース・ジェイムズは負の連鎖を断ち切らないと自身のサッカー人生を台無しにしかねない。2人の怪我がなぜこんなにも長引いてしまうのか。元トッテナム・ホットスパーの医療・スポーツ科学部門責任者であるジェフ・スコット氏の説明を『The Athletic』が伝えている。
ショーに関してスコット氏は二つのポイントを挙げている。一つ目は2015年に負った怪我の後遺症だという。ショーは2015年9月15日に行われたUEFAチャンピオンズリーグのグループリーグ第1節PSV戦で、エクトル・モレノのスライディングを受けた際に右足を骨折した。通常の骨折ではなく関節まで損傷したり、金属固定を用する場合は手術が必要になるが、同選手の負った骨折はより深刻なものだったとみられている。この怪我の影響で筋力の不均衡を引き起こしており、再発性の高い怪我の一因となってしまった可能性があるという。
二つ目は新監督が来ることによるトレーニング内容や戦術の変化の影響だとスコット氏は述べている。これは、選手が新しい戦術スタイルのプレイや走力を身につけるように求められ、身体に異なる負担がかかり適応するまで怪我の連鎖反応が起こる可能性があるようだ。怪我をしやすい選手は新監督が就任してすぐの期間は計画的に徐々にフィットさせていく必要があるという。そうしなければ、筋肉や軟骨組織がリスクにさらされる危険性がある。これらのポイントが、怪我の発生につながっている主な原因と考えられているようだ。
一方、ジェイムズはハムストリングに問題を抱えることが多い。同選手の最高速度は36.5km/hでプレミアリーグの選手の中でも上位に入る。ハムストリングはスプリント中にかなりの力に耐える必要があり、多くの場合は生理学的範囲(完全伸長)の限界で耐える必要があるという。
スコット氏は、ジェイムズが以前負ったハムストリングの怪我が、将来的な同部位の怪我につながる最も重要なリスク要因だと話している。度重なる負傷により瘢痕組織が蓄積されているため、それが存在する領域はある程度の負荷がかかると再び機能しなくなってしまう可能性が高いという。数週間で復帰できたとしても筋肉自体が弱くなっているため、再発の可能性が負傷前よりも高くなってしまっている。これらをケアできなければ、現在のような連鎖的な負傷が起こり得るようだ。
また、2人のポジションであるサイドバックはチームトップクラスの走行距離やスピードが求められるため、怪我が発生しやすいポジションとなっている。では、クラブはどのように怪我を管理し、最高レベルのパフォーマンスを維持させるのか。
元スパーズの医療責任者は、忍耐力とコーチ陣と医療スタッフ同士のコミュニケーションが大事だと語っている。トレーニングに戻る直前の期間は選手がチームに早く貢献したいという気持ちになり、コーチ側も早急な復帰を望んでいる可能性が高いため、最も危険な状況になりやすいという。しかし、ここで選手が最高レベルに戻るためには、関係者全員の忍耐力が必要になってくる。復帰の際に行われる一連の筋力テストやモニタリングで、怪我をしていない反対の脚の筋肉の状態と比較して負傷部分の筋力を最適化することに絶え間なく取り組むことが大事だとしている。復帰間近でも焦らずに段階的に取り組むことが大事だ。
復帰して終わりではなく、チームトレーニングに戻った後も再発を防ぐための目的として、数カ月の間は毎回のトレーニングの前後に回復と筋力強化および可動域向上への献身的な取り組みを続けなければならない。週ごとに異なる目的のセッションを行い、試合当日に向けて適切な負荷を負傷部位にかけておく。試合で最高のパフォーマンスをするためにはここまで行う必要がある。
2人がクラブでどの程度の調整を行なっているかは明らかになっていないが、いずれにせよ忍耐力とコーチとドクターの適切なコミュニケーションが完全復活には必要になるだろう。イングランド代表で不動の地位を築くと思われていたサイドバックコンビのセンセーショナルな復活に期待したい。