プレシーズンマッチの段階ではどうなることやらと思われたが、エンツォ・マレスカ監督は上手く軌道に乗せられたようだ。チェルシーは現代的なチームに進化を遂げている。
プレミアリーグで最初にモダナイズされたのはマンチェスター・シティだった。やがてリヴァプール、アーセナル、トッテナムらが続き、チェルシーもここにカテゴライズされる戦術形態を持つに至ったわけだ。
それぞれのチームに特徴はあるものの、自陣からのビルドアップに確実性を持ち、敵陣でのハイプレスの強度があるというのは共通している。マレスカ監督はかつてシティでペップ・グアルディオラ監督下のコーチだった。アーセナルのミケル・アルテタ監督もシティの元コーチ。シティ、チェルシー、アーセナルの志向する戦術はほぼ同じといっていい。
チェルシーのビルドアップは「偽SB」を2人使う。右はマロ・グスト、左はマルク・ククレジャ。SBの偽化は今や珍しくなくなったが、両サイドというのはまだ少ない方だろう。グストとククレジャがインサイド寄りでプレイするのは、ウイングへのパス経路を開ける目的が1つある。
ウイングは右がペドロ・ネト、左がジェイドン・サンチョ。この2人は戦術的に浮沈を握る存在になっている。
シティが先鞭をつけたポジショナルプレイはプレミアのみならず世界的に普及した。その結果、守備側の対策も進んだ。今季、シティが突如失速し、上位のメガクラブが格下に取りこぼすケースは増えている。第19節時点でノッティンガム・フォレストが3位、ニューカッスルが5位。モダナイズされたチームに対する守備耐性が上がっているのだ。
5バックで重厚な撤退守備を敷かれると、中央部を攻略するのが難しくなった。対抗策としてバイタルエリアでプレイする選手を増員、あるいは流動化させて、守備側CBの前進によるライン間潰しに遭わない工夫がされているのだが、それでも攻略は容易ではなく、むしろそこにリソースを投入しすぎてカウンターを食らうリスクが増大してしまっているのが現状である。その典型が今季のシティだ。ラ・リーガのバルセロナは極端なハイラインによってカウンターのリスクを抑えようとしたが、逆にハイラインの弱点をつかれて序盤の勢いを失っている。
チェルシーは幸か不幸か、そこまでバイタルエリアへ投入する人材がいない。
トップ下のコール・パルマーの他には、ボランチから上がるエンソ・フェルナンデスがいるくらいで、ジョアン・フェリックスやミハイロ・ムドリクは貴重な戦力ではあるが主力にはなっていない。しかし、バイタルを強引にこじ開けにかからなかったことで、むしろリスクの増大を回避できたのではないかと考えられる。
ただ、バイタル攻略にそこまで力を入れていない以上、サイドアタックに強みがなければならないわけで、ウイングの突破力は必然的に攻撃の成否を左右する状況になっている。
第19節のイプスウィッチ戦ではターンオーバーを行い、右ウイングにノニ・マドゥエケ、左にジョアン・フェリックスを先発させた。左のジョアン・フェリックスは外に開くのではなくバイタルエリアでプレイするタイプ。左外はククレジャが高い位置へ進出する形だった。だが、これは完全に裏目。頼みのサイドアタックは不発に終わり、バイタルを分け合ったパルマーとジョアン・フェリックスのコンビも狭すぎるスペースを攻略できず。[5-4-1]で引かれた場合の次の一手が用意されておらず、モダナイズされたチームの直面する問題にそのまま突き当たっただけだった。