[特集/攻撃型MF新四天王 04]ドリブルもシュートも手がつけられぬ 覚醒のパルマーがチェルシーを牽引

高身長(189センチ)でリーチが長く、懐が深い。柔軟性、俊敏性もあり、ワンタッチコントロールがまずはうまく、トラップ際を狙って飛び込んで来る相手の逆を突き、いとも簡単にかわしてみせる。一方で、対峙したときは相手の動きをしっかりと観察。静から動へ素早くトランジションし、瞬間的にスピードアップして相手を抜き去ってみせる。

22歳のコール・パルマーはドリブル&パスを駆使してチャンスメイクするのはもちろん、高い決定力を持つ。チェルシーに加入した昨シーズンは22得点11アシストでチームを6位に引き上げ、PFA年間最優秀若手選手賞を受賞。今シーズンも好調を維持し、24節を終えて14得点6アシスト。絶大な存在感でチームをけん引している。

チェルシー加入でブレイク 初年度からゴールを量産

チェルシー加入でブレイク 初年度からゴールを量産

今季すでに14ゴール。チェルシーの攻撃は常にパルマーとともにある photo/Getty Images

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マンチェスター出身のパルマーは、マンチェスター・シティのアカデミーで育ち、プロデビューもシティで飾った。しかし、生存競争の激しいトップ・オブ・トップであるクラブのなかで、出場機会をなかなか増やせないでいた。プレミアリーグでは2021-22が4試合、2022-23が14試合と出番が少なく、得点もなかった。そうしたなか、2023-24に出場機会を求めてチェルシーへと移籍した。

加入1年目だった昨シーズンはマウリシオ・ポチェッティーノのもと、[4-2-3-1]の右ウイングを中心に、トップ下や1トップでもプレイした。新天地でチャンスを得てピッチに立ったパルマーは、序盤から水を得た魚のように躍動し、利き足である左足から数々のチャンスを作るとともに正確なフィニッシュでゴールを量産し、最終的にリーグ2位の22得点をマークして一気にブレイクした。

印象的だったのは古巣との最初の対戦となった12節シティ戦で、3-4で迎えたアディショナルタイムにチェルシーがPKを得た。キッカーを任されたのはパルマーで、おそらくさまざまな気持ちがわき上がるなか冷静に左足で同点弾を決め、チームに勝点1をもたらした。ゴール後のパルマーはなんとも複雑な表情をしていたが、これがチェルシーの一員になった瞬間だったかもしれない。
試合を重ねるごとにチームのなかでその存在感は増していった。31節マンチェスター・ユナイテッド戦では自身初のハットトリックを達成したが、そのうち2点は2-3で迎えたアディショナルタイムに入ってから奪ったもので、勝負強さ、逃げに入った相手をたたみかける攻撃性をみせた一戦だった。

33節のエヴァートン戦では立ち上がりから相手を蹂躙した。左足で先制点、頭で2点目、右足で3点目を決めてわずか29分でハットトリック。後半にもPKを決めて4得点の大暴れでチームに6-0の大勝をもたらしている。

昨シーズンのチェルシーはモイセス・カイセド、クリストファー・エンクンクなど活躍が期待された選手が負傷離脱する時期があり、とくに序盤は苦戦が続いた。パルマーの台頭がなかったなら、6位に食い込んでのカンファレンスリーグ出場権獲得はなかっただろう。なにしろ、22得点11アシストはどちらもチーム最多。シティ→チェルシーと移ったことに関して、「最初はチェルシーに行くつもりはなかった」とのちにパルマーは語っている。しかし、結果としてこの移籍は正解だった。

指揮官がポチェッティーノからエンツォ・マレスカに代わった今シーズンも、変わらずに攻撃を引っ張っている。ピッチに立って実戦を積む。若い選手にとって、これがいかに大事なことであるか。この2シーズンでパルマーがはっきりと証明している。

すべてのプレイが高品質 従来の概念では語れない

すべてのプレイが高品質 従来の概念では語れない

ゲームメイクしていたかと思えばいつの間にかゴール前に顔を出し、得点を奪っていく photo/Getty Images

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今シーズンのチェルシーはマレスカ体制となったが、システムは昨シーズンから変わらず[4-2-3-1]を踏襲。パルマーは開幕戦(対シティ0-2)こそ右ウイングでプレイしたが、その後はトップ下をスタートポジションとして先発出場を続けている。

攻撃陣はだいたいメンバーが固定されていて、パルマーの他は1トップがニコラス・ジャクソン。右ウイングにノニ・マドゥエケ、左ウイングがジェイドン・サンチョかペドロ・ネト。1枚後ろのボランチがカイセド、エンソ・フェルナンデスとなる。

パルマーは自分でボールを運べるし、正確なパスを供給することができる。運動量も多く、中盤の深いポジションに下がってきて相手の背中を向けてボールを受けることがあれば、サイドに流れてボールを持つことも。いずれのケースでも見受けられるのが、ボールのもらい方がうまいということだ。

トラップの瞬間を狙うべく身体を寄せてくる相手の気配を瞬時に察知し、ワンタッチでボールを動かしながらスッとプレスをかわす。「感じる力」に優れていて、ボールをロストするシーンが少ない。前を向けば柔らかいドリブルでスルスルと相手をかわしてゴールに迫り、精度の高いラストパス、あるいはシュートで得点をもたらす。

いわゆる攻撃を司る司令塔であると同時に、ピッチのどのポジションにいてもゴール位置がしっかりと脳内にインプットされていて得点する能力が高いのが最大のストロングポイントになっている。ゲームを作る人、最後に点を取る人、パサー、ドリブラーといった従来の概念で語ることができないタイプで、とにかくチェルシーの攻撃をけん引している。

今シーズン前半戦では6節ブライトン戦でその能力をいかんなく発揮し、前半だけで4得点という自身初の偉業を達成している。1点目がカウンターからジャクソンのラストパスを受けてフリーで合わせたゴール。2点目がPK、3点目がFKを決めたゴールで、4点目はサンチョのスルーパスに抜け出し、GKと1対1になってニアサイドを抜いたゴールだった。

それぞれ、ポジショニングの良さ、プレースキックの正確さ、一瞬の判断で相手最終ラインの裏を突いたチームメイトとの連係の良さ、シュートの正確性が見られたゴールだった。得点につながらなかったドリブルやパスも含めて、前半だけで“パルマー七変化”を楽しめた一戦となった。

前述したとおり、昨シーズンも4得点した試合があった。勢いに乗ったときは、手がつけられない。比例してチーム全体も好転し、ときに大量点を奪ってみせる。24節を終えて4位をキープするチェルシーのなかで、パルマーは代えがきかない選手となっている。

若い才能を得たチェルシーはまだまだ進化する余地がある

若い才能を得たチェルシーはまだまだ進化する余地がある

腕を掴んで寒がるセレブレーションはパルマーのトレードマーク。“コールド・パルマー”の異名をとるように photo/Getty Images

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チェルシーがいまの順位、あるいはさらに上の順位でシーズンを終えるためには、パルマーがコンディションを維持するとともに、チーム全体でもう一段階ギアを上げなければならない。12節レスター戦から16節ブレントフォード戦まで5連勝したが、その後に17節エヴァートン戦から21節ボーンマス戦まで5試合勝利から遠ざかるという時期があった。

しかし、この間もパルマーの得点力は落ちなかった。18節フラム戦では16分に相手陣内の中央付近でレヴィ・コルウィルからの縦パスを受け、すぐに反転してゴールに向かってドリブルをスタート。3人をかわして左足シュートを決め、先制点を奪っている(80分を過ぎてから2失点して逆転負け)。

20節クリスタル・パレス戦では13分に左サイドを突破したサンチョからのラストパスをペナルティエリアの内側で受け、トラップからシュートまで素早い動きで仕上げ、冷静なフィニッシュでまたも先制点を奪った。ところが、チームはこの1点を守り切れずに82分に失点して1-1で試合を終えている。

さらに、続く21節ボーンマス戦でもパルマーは13分に先制点を叩き出している。ジャクソンが相手陣内中央付近からゴールに向かってドリブルすると、パルマーも絶妙な距離感で並走。“ここぞ”というタイミングで斜めにスピードアップして相手最終ラインの裏を狙うと、ジャクソンからドンピシャのパスが出てGKと1対1になり、ワンフェイントでGKの逆を突いて決めて見せた。しかしまたもリードを守れず、後半に2失点して1-2。終了間際になんとか追いついて2-2としたが、この3試合は先制点を奪いながら、勝点3を取れずに終わっている。

パルマー、サンチョ、マドゥエケ、ジャクソン。前線にこの4名が揃っているときは、チャンスを作り出して点を取れている。いまのチェルシーのなかで、パルマーの動き出し、パスワークが最大限に引き出される組合せだと考えていい。とはいえ、ずっと同じメンバーで戦い続けられるわけではない。また、一試合のなかには波があり、耐えなければならない時間もある。就任1年目のマレスカが率いるチェルシーは後半戦に向けてこうした課題が出てきている。

そうしたなか、24節ウェストハム戦は先制点を許して追いかける展開になった。マレスカの動きは早く、61分までに交代枠を4つ使い、サンチョ→ネト、ジャクソン→マルク・ギウ、マドゥエケ→エンクンク、リース・ジェイムス→マロ・グストというテコ入れをした。1列目、2列目はパルマーだけが残り、3人が入れ替わる形だった。

すると、64分にネトがさっそく同点ゴールをマーク。さらに攻撃の威力を増し、74分には右サイドからネトの入れたクロスが逆サイドに流れ、深いポジションまで上がってきた左サイドバックのマルク・ククレジャがマイボールにしてパルマーにマイナスのパスを出す。パルマーは小刻みなボールタッチでカットインしたのち、鋭くボールを運ぶ方向を転換して縦へ突破。左サイドの深いポジションからシュート気味のクロスを折り返すと、相手DFの足に当たってゴールとなり、逆転で勝点3を獲得している。

打てる手を尽くした結果であり、ベンチに座る選手も含めてチーム力でつかんだ勝利だった。そして、やはり苦しいときはパルマーであり、実際になんとかしてくれた試合だった。チームの大黒柱となっているパルマーだが、主力としてプレミアリーグを戦い抜くのはまだ2シーズン目だ。22歳のパルマー自身もそうだし、若い才能を得たばかりのチェルシーには、まだまだ進化する余地がある。

文/飯塚 健司

※ザ・ワールド2025年3月号、2月15日配信の記事より転載

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