[特集/攻撃型MF新四天王 03]狭い局面へ飛び込むムシアラが相手守備陣をカオスに叩き込む

スピード、アジリティ、ボールコントロール。どれも高品質で、一度そのプレイ、ドリブルをみれば他選手とは“違う”とすぐにわかる。バイエルンのジャマル・ムシアラは2019-20シーズンに17歳でブンデスリーガにデビューしたが、これは当時のクラブ最年少出場記録だった(現在は更新されている)。

まだ身体の線が細かったテクニシャンはその後に順調な成長を遂げ、21歳となったいまブンデスリーガ132試合出場43得点という通算成績を残している(21節終了時点)。ほぼ3試合に1得点ペースでゴールネットを揺らしており、ドリブルだけではなく、決定力も示している。ナイジェリア出身の父、ドイツ出身の母を持つムシアラは、柔軟性、意外性があって「個」で状況を打開することができる。さらに得点嗅覚に優れポジショニングが良いため、自分でもフィニッシュして試合を決めることができる。

17歳でトップデビュー 初得点も印象的だった

17歳でトップデビュー 初得点も印象的だった

まだ21歳のムシアラだが、まぎれもないバイエルンの攻撃の中心だ photo/Getty Images

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昨シーズンのバイエルンはブンデスリーガでの連覇が途絶え、他のタイトルも逃して無冠に終わっていた。栄枯盛衰、盛者必衰は世の理(ことわり)ではあるが、バイエルンは沈んでいる期間、うまくいっていない期間はいつも短い傾向がある。

今回も就任1年目のヴァンサン・コンパニ監督のもと、シーズン当初から勝星を重ねて首位をキープ。31節を終えてレヴァークーゼンに勝点8差をつけている。どのチームよりも得点が多く、どのチームよりも失点が少ないという非の打ち所がない成績となっているが、なかでも絶大な存在感を誇るのが[4-2-3-1]のトップ下をスタートポジションとする21歳のジャマル・ムシアラだ。

バイエルンでデビューしたのは17歳のとき。もともとはシュツットガルト出身だが、小さいころに家族でイングランドに渡り、サウサンプトン、チェルシーの下部組織でプレイした経験がある。能力の高さは早くから見出されており、イングランドの世代別代表にも選出されていた。
ムシアラがドイツに戻ったのは16歳のときで、本来はトップ昇格を狙う18歳~23歳の選手たちがプレイするバイエルンⅡに登録された。さらに、すぐにトップに呼ばれ、2019-20シーズンの33節フライブルク戦の88分にトーマス・ミュラーに代わってアリアンツ・アレナのピッチに立ち、当時のブンデスリーガでのクラブ最年少出場記録を更新することとなった。

後に頭角を現わす選手は結果を出すのが早く、ムシアラは2020-21シーズンの開幕戦で初得点をマークしている。記憶に残っている人もいると思う。シャルケをホームに迎えた開幕戦で、攻撃陣が爆発してバイエルンが8-0で大勝した衝撃の一戦である。

この試合の73分にセルジュ・ニャブリに代わって出場して左サイドのウイングを務めると、81分にドリブルで中央へカットインし、シュートフェイントをひとつ入れてから右足でフィニッシュしてゴールネットを揺らしている。その後マティス・テルに更新されたが、このゴールは当時のクラブ最年少得点記録だった。身体はまだ完成されていなかったが、スピード、キレのあるドリブルで相手DFに尻もちをつかせており、明るい未来を予感させた瞬間だった。

同シーズンが6得点、2021-22シーズンは5得点だったが、2022-23シーズンに12得点し、自身初の二桁得点を達成。2023-24シーズンも10得点、今シーズンもすでに10得点しており、3年連続で二桁得点となっている。

ちなみに、今シーズンのチームファーストゴールはムシアラが奪っている。ヴォルフスブルクとの開幕戦の19分、右サイドを突破したサシャ・ボエのクロスに右足で合わせ、新監督を迎えて良いスタートを切りたいチームを勢いに乗せている。巧みなドリブルが注目されがちだが、ゴール前に飛び込むタイミング、ポジション取りが絶妙で、ヘデイングも含めてワンタッチでの得点が多いのも特長である。

ドリブルの種類が豊富 別次元で独特な感覚を持つ

ドリブルの種類が豊富 別次元で独特な感覚を持つ

緩急のある柔軟なドリブルは必殺の武器。相手の守備を揺さぶり穴を穿つ photo/Getty Images

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現在はトップ下をスタートポジションとするが、運動量が多く左右どちらにも顔を出すし、もちろんゴール前にも入り込む。足元の技術力がとにかく高く、状況に応じたプレイやドリブルができる。ボールを持ちながら相手の位置や次の動きを予測できる能力を持っていて、さらにはそれに合わせて自分の身体を的確に動かすことができる。足元にボールを収めながら──。

2022-23シーズンの19節ヴォルフスブルク戦でのことである。相手陣内のまだ低い位置、右サイドでボールを持つと、ムシアラは自陣方向へ少しふくらみながらボールを運んだ。相手は後ろ方向へ進んだことでマークに来ず、労せずにしてフリーに。すると、方向をクイッと変えて一気にスピードアップしてゴールに向かってドリブルを開始した。

慌てて後方や斜めから追いかけてくる選手、最終ラインにポジションを取る選手。おおよそ5人の相手をヒラリヒラリとかわし、ムシアラはペナルティエリア内に侵入。最後は冷静に右足でフィニッシュし、5人抜きゴールを決めてみせた。

最初の段階では大きくボールを持ちだし、スペースへとダイナミックにボールを運んでいる。ペナルティエリアが近くなるとボールタッチが細かくなり、密集を突破するスタイルにモード変更。ボディコンタクトがあって少し右によろけたが、その動きに合わせてボールを運び、縦に抜け出してみせた。タイプの違うドリブルを使い分けたプレイで、引き出しの多さが表れていた。

長い距離を運ぶドリブルも魅力だが、真骨頂はなんといってもペナルティエリアのなかに入ってからのプレイだろう。複数の相手が密集するゾーンになるが、ムシアラは相手の動きを見ながら一人また一人とかわすことができる。懐が深く、アジリティに優れているため、足元にボールを収めて相手と駆け引きし、自分から仕掛けて能動的に突破することができるし、動きの逆を突く受動的な突破もできる。

こうした攻防をするときの間合いが独特で、「(相手との)距離が近い」「これは飛び込まれる」「ロストする」と思われたシーンでも、クイッ、ヒラリと身体を動かし、狭い局面を打開する。相手の立場になってみると、待ち受けるのはダメだし、飛び込むのもダメ。別次元の感覚、独特な間合いで仕掛けてくる対応が難しいやっかいな選手となる。

得点力を増したことでバイエルン好調の要因に

得点力を増したことでバイエルン好調の要因に

第12節ドルトムント戦では値千金の同点弾。FKからの流れで絶好のポジションに陣取っていた photo/Getty Images

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得点力を増したことでバイエルン好調の要因に

質実剛健で猪突猛進。こう表現できるタイプのドリブラーもいるが、説明してきたとおりムシアラはそういったタイプではない。視野も広くてまわりがよく見えていて、ショートパスを駆使した連係プレイでゴールに迫ることも多い。

ニャブリ、マイケル・オリーセ、レロイ・サネ、キングスレイ・コマンなど、バイエルンには個性溢れる攻撃陣が揃っている。いずれもスタートポジションにとらわれることなくサイド、中央に顔を出す選手たちで、誰かが動けばそれに連動し、ポジションをずらしていく。

こうした連係は前方でプレイする選手だけではなく、ボランチ、サイドバックも含めて整理されていて、コンパニが率いるいまのバイエルンはその矢印が攻撃に向いている。そして、このチームのなかでムシアラはチャンスメイクするのはもちろん、これまで以上にゴール前に飛び込んでワンタッチでフィニッシュするシーンが多くなっている。

二桁得点を達成した過去2シーズンは、2022-23が184分に1点。2023-24が177分に1点というスタッツだった。今シーズンはこの数字が130分に1点となっている。1トップにハリー・ケインというストライカーを擁しているが、当然厳しくマークされる。緩和するべくポジション取りがいいムシアラが状況を読みながら積極的にゴールを狙うことで、バイエルンは攻撃力&得点力を増している。

12節ドルトムント戦は終盤まで0-1の劣勢で進んでいた。85分にFKのチャンスをつかむと、その流れから右サイドでボールを持ったオリーセからゴール前にクロスが入った。ドンピシャのタイミングで合わせてヘデイングで同点弾を叩き込んだのが、好ポジションを取っていたムシアラだった。

13節ハイデンハイム戦の56分にはオリーセがフリックしたボールを前向きで受け、そのままドリブルで突き進んでミドルレンジから正確なシュートを突き刺して1点。3-2で迎えた90+1分には前がかりになって同点を目指す相手の裏を突き、センターライン付近にあえて前残り。狙い通りに縦パス1本で抜け出してGKと1対1になり、難なく決めてこの日2点目を奪っている。

もともと決定力が高く、ゴールへパスするようなミドルシュートも得意だった。今シーズンは良質なドリブル&パスでチャンスを作りつつ、よりゴールを意識したポジションを取り、自分でフィニッシュするシーンが目立つ。このままいくと2022-23に記録した年間12得点を上回る可能性が高く、どこまで数字を伸ばすか注目される。ムシアラのこうした進化が、バイエルン好調の要因になっている。

ハイレベルな経験を積むことで、この先にどんな選手へと仕上がるのか。時代は巡っており、サッカー界は世代交代を迎えている。才能が枯渇することはなく、しっかりと新芽が出ている。しかも、力強く──。ムシアラはこれからのサッカー界を背負っていくスター候補のひとりである。

文/飯塚 健司

※ザ・ワールド2025年3月号、2月15日配信の記事より転載

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