[特集/躍動するサムライ18 02]ビッグクラブも無視できない “闘うプレイ”でクラブを導くサムライMF

欧州でプレイする日本人MFといえば、一昔前までは中村俊輔や香川真司といったテクニシャンの活躍が目立った。しかし、近年はテクニックもさることながら球際でしっかり闘える選手の活躍が目立ち、今やビッグクラブも無視できない存在となっている。

リヴァプールの遠藤航は限られたプレイ時間の中でもしっかり結果を残し、周囲からの信頼も厚い。スポルティングCPの守田英正とセルティックの旗手怜央は欧州5大リーグへのステップアップが期待され、リーズの田中碧はチームをプレミアリーグ昇格へ導こうとしている。また、佐野海舟は初の海外挑戦ながらマインツで圧倒的な存在感を放ち、強豪クラブたちを苦しめている。

これらのサムライたちはいずれも、今季のリーグ戦において所属クラブを上位へ導く活躍を見せている。最後までその活躍から目が離せない。

リヴァプールのクローザー 出場時間減少も評価高まる遠藤

12月に行われたサウサンプトンとのカラバオカップ準々決勝。この試合でフル出場を果たした遠藤は、後半からキャプテンマークを巻いてプレイ photo/Getty Images

ボランチは多くの日本代表選手、Jリーガーの経験しているポジションだろう。ちなみにすっかり日本で定着しているポジション名だが、世界的にはほとんど流通していない。発祥のブラジルと日本くらいである。

香川真司は元ボランチだった。日本代表ではトップ下(これも日本独特の呼称)として活躍し、現在はセレッソ大阪でボランチに戻っている。意外なところでは三笘薫がユース年代ではボランチ。「舵取り」の名称のとおりチームの攻守を司るポジションなので、ここにとりあえず上手い選手を置いておきたかったという事情だろう。ユース年代は選手を育てる重要な時期だ。低速でプレイするボランチに高速が売りの三笘はミスキャストであり、大学時代にスピードが武器になると本人が気づいてウイングとして大成したから良かったけれども、日本の育成の問題点が露呈したエピソードといえるかもしれない。

ともあれ有能な選手の多くがボランチを経験している。ただ、本当に適性があるのか、まして欧州トップレベルで通用する資質があるかどうかはまた別である。

欧州で「ボールウィナー」という表現があるが、ボランチはボールを奪い取る能力が重視される。そのスペシャリストが日本代表キャプテン、遠藤航だ。

ブンデスリーガのデュエル王としてリヴァプールへ移籍。1年目は適応に時間を要したがシーズン後半にはレギュラーポジションをつかむ。2年目の今季は1年目以上にプレイ時間は減っているが、遠藤への評価はむしろ高まっている。プレイ機会の減少は監督交代によるものだ。ユルゲン・クロップからアルネ・スロットに代わり戦術的な変化があった。

スロット新監督は前任者のプレイスタイルを受け継ぎながら、よりボール保持を重視している。DFからロングボールを蹴るよりもビルドアップする割合が増えた。つまり、相手のボールを奪う、セカンドボールを拾うという役割より、味方のボールが通過するポジションになった。そのためグラフェンベルフが重用され、遠藤の先発出場はなくなった。

ただこれは戦術と選手の相性の問題で、遠藤への評価が下がったわけではない。ほとんどの試合でベンチ入りしていて、リードしたまま試合を終わらせたいときにクローザーとして起用されている。CBとしてプレイすることもあり守備力は高く評価されている。第25節のウルブズ戦では71分から約20分程度の出場ではあったが、プレイヤー・オブ・ザ・マッチに選出されるほどだ。

攻守両面で違いを見せつける元川崎フロンターレ組

第16節に行われたベンフィカとの首位攻防戦で、守田は72分までプレイ。チームも1-0で勝利し、首位奪還に成功した photo/Getty Images

遠藤&守田は日本代表でも鉄板といえるコンビだ。

ポルトガルでプレイする守田英正も遠藤同様に1対1でボールを奪う能力が高い。ただし、遠藤とはタイプの異なるボランチである。

守田の真骨頂は試合を読む力だ。試合中に何らかの戦術上の不具合が生じたときに対策を講じ、修正する能力が際立っている。アジア予選でもしばしば相手のフォーメーションとの噛み合わせの問題からプレスがかからない、ビルドアップがスムーズにできないという問題が生じていたが、守田がすみやかに解決していた。フィールド上の監督としての役割を果たしている。

こうした問題解決能力は、おそらくスポルティングCPでの経験で培われたものだろう。守田を重用したルベン・アモリム監督(現在はマンチェスター・ユナイテッド監督)はポジショナルプレイの第一人者であり、スポルティングCPでは相手のプレスをいかに外すかを日常的に考えていたはず。そうした経験が守田の経験値と演算能力を進化させたに違いない。守田は攻撃力も高く、攻撃時にはインサイドハーフとして高い位置へ進出していくこともできる。

昨年末から怪我の影響で欠場を余儀なくされることもある。ただ、リーグ連覇へ向けて現在首位に立つスポルティングCPにおいて、前半戦の快進撃(開幕11連勝)の中心には間違いなく守田がいた。

田中は第34節シェフィールド・Uと戦で試合終了間際の89分にチームを逆転勝利へ導く貴重な決勝ゴールを決めた photo/Getty Images

そんな守田に似たタイプとしては田中碧がいる。今季はリーズで司令塔としての地位を確立した。

田中は守田よりも攻撃型で、柴崎岳にも近いジェネラル的なプレイスタイルだ。後方に下りてビルドアップの中心となり、そこから前線をサポートしてラストパス、フィニッシュの仕上げに絡む。フィールド全体を支配するのでチームへの影響力はより大きくなる。

リーズデビューを飾った第4節から連続出場を続けているが、2025年に入ってからはさらにギアを上げた。年明けからここまで4ゴール1アシストと目に見える結果も残すようになり、2月に行われたシェフィールド・Uとの首位攻防戦(第34節)ではチームを逆転勝利へ導く貴重な決勝ゴールも決めた。イングランド2部とはいえ、リーズはかつての名門。9試合を残して首位に立っており、1部昇格の可能性も高まっている。プレミア同様に高いフィジカル能力が求められるリーグでの活躍は成長の証といえるだろう。

今季、セルティックのオープニングゴールは旗手。キルマーノックとの開幕節で17分にゴール左下へコントロールショットを沈めた photo/Getty Images

また、欧州で活躍する元川崎フロンターレ組では、セルティックでプレイする旗手怜央の活躍も忘れてはいけない。

かつてはサイドバックもこなした万能型だが、スコットランドではインサイドハーフを主戦場とする。昨季は怪我に苦しめられ、本人としては不本意な1年だったかもしれない。その鬱憤を晴らすかのように、今季はここまで公式戦全46試合に出場している。

高いボールキープ力や視野の広さを生かして相手の隙を窺い、チャンスメイクを行う。ときには自らゴール前に顔を出し、得点を狙いに行くことも。パンチ力のあるミドルも魅力的で、リーグ戦では6ゴール3アシストの活躍を見せているほか、11月のライプツィヒ戦ではCLでの初ゴールも記録している。

さらにその豊富な運動量とタフさで守備面でも存在感を発揮する。対戦相手や戦況に合わせてスタイルを臨機応変に変化させることもでき、敗れはしたもののCLのノックアウトラウンド進出をかけたプレイオフではバイエルンをも苦しめた。以前から移籍に関する様々な噂が飛び交っており、ステップアップが期待される。

ブンデス最高峰のボランチ佐野は“ポスト遠藤”最右翼

海外挑戦1年目からマインツで抜群の存在感を放つ佐野 photo/Getty Images

日本代表の話になるが、守田、田中、旗手に鎌田を加えると、司令塔タイプのMFには困っていない。むしろ人材不足なのは遠藤の役割だ。

谷口彰悟、板倉滉、伊藤洋輝はボランチとしてのプレイ経験はあるが、本職はDFに落ち着いている。遠藤クラスの守備能力となるとなかなかいないのだが、うってつけの選手が1人いる。佐野海舟だ。

マインツに移籍して以来、先発出場を続けている。強靭な足腰を利したボール奪取能力はまさに遠藤を彷彿とさせ、攻撃時の確実なパスにも安定感がある。運動量も申し分ない。実際に第25節終了時点のデータを見ても、デュエル勝利276回はリーグ6位、総走行距離291kmはリーグ2位。海外挑戦1年目ながら、ボランチとしてドイツでトップクラスの結果を残している。

そして、この活躍はビッグクラブを相手にしても変わらない。第10節ではドルトムント(3-1)、第14節ではバイエルン(2-1)、第24節ではライプツィヒ(2-1)を撃破するチームの原動力となった。その結果、近年は中位で終えることが多かったマインツだが、今季は上位争いをおこなっており、第25節終了時点で3位につけている。佐野はそんなチームに必要不可欠な存在となっているのだ。

第25節ボルシアMG戦では、ライン際で相手に倒されながらも両足で挟むようにボールを防護し、すぐさま立ち上がって前に運ぶプレイが見られた。マインツ日本語公式Xはこのシーンの動画に「このボールカイシュウの粘り」とキャプションをつけて投稿。“回収に長けた海舟”の不可欠ぶりが如実に表れた一コマであった。

攻撃的なテクニシャンだけでなく、欧州でも中盤で闘えるタイプのサムライたちが育ち、欠かせない存在感を見せている。そんな彼らが所属チームを勝利へと導く姿を見れば、またひとつ日本サッカーの成長を実感することができるだろう。

※電子マガジンtheWORLD303号、3月15日配信の記事より転載

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