[特集/躍動するサムライ18 03]マルチな才能は欧州でも光る 守りで違いを作るサムライたち

 サッカーではどうしても華やかな前線、中盤の選手に注目が集まりがちだが、GKを含めた最終ラインでも多くの日本人選手が活躍している。バイエルンではケガから復帰した伊藤洋輝が出場時間を増やしており、シーズン終盤に向けて貴重な戦力となっている。ボルシアMGの板倉滉はもはや主力であり、チームに欠かせない重要なピースとなっている。

苦しい戦い続けるサウサンプトンでは菅原由勢が正確なクロス、積極的な攻撃参加で戦う姿勢をみせ、エールディヴィジで上位をキープするAZアルクマールでは毎熊晟矢がポジションを掴み、ELでもハイパフォーマンスを披露。ユニオン・サン・ジロワーズ(ベルギー)の町田浩樹、パルマの鈴木彩艶は右肩上がりで評価を高め、移籍市場で常に名前があがる存在になっている。どの選手も複数のポジションをこなせたり、武器を複数もっている“現代型”。こうしたマルチな才能が、欧州でサバイブできる理由にもなっている。

いよいよ伊藤がフル稼働 板倉は日本人No.1のCB

いよいよ伊藤がフル稼働 板倉は日本人No.1のCB

ようやく負傷から復帰し出場を重ねるようになった伊藤。ポリバレントな能力をさっそくバイエルンでも発揮している photo/Getty Images

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 シュツットガルトからバイエルンへ。ステップアップとなる移籍を果たした今季の伊藤洋輝は、バイエルンの最終ラインを安定させる貴重なピースとして活躍が期待されていた。しかし、不運にもシーズン前のトレーニングマッチで骨折し、一度目の手術を実施。リハビリを経て復帰に向けて準備を進めていた11月には二度目の手術を行い、前半戦に出場することができなかった。

 伊藤がようやく今季の開幕を迎えたのは、2月12日に開催されたCLの16強進出をかけたセルティックとのプレイオフ第1戦で、2-0でリードする78分にラファエル・ゲレイロと交代でピッチに入り、バイエルンでデビューを飾った。そのまま左サイドバックを務めたが、最終ラインから冷静にビルドアップするなど落ち着いたプレイで試運転を終えた。

 バイエルンぐらいのメガクラブになると、過密日程で多くの試合を戦っている。セルティック戦の3日後にブンデスリーガ22節のレヴァークーゼン(アウェイ)戦が行われたが、ヴァンサン・コンパニ監督は昨季王者との重要なこの一戦で伊藤を左サイドバックで先発起用した。
伊藤は左サイドバック、センターバックをこなせるし、ボランチでもいける。ラファエル・ゲレイロ、コンラッド・ライマーもサイドバックだけではなく、中盤でも稼働できる。無論、このチームにはジョシュア・キミッヒというポリバレントの代名詞のような選手がいる。ここに多様性がある伊藤が復帰したことで、コンパニ監督には選択肢が増えている。

続く23節フランクフルト戦にも左サイドバックで先発し、CKからルーズボールに素早く反応して日本人によるバイエルン初得点を記録している。24節シュツットガルト戦では交代出場で左サイドバック、25節ボーフム戦ではセンターバックで先発しており、コンパニ監督はすでに伊藤の特長を良くわかっている。今後も複数のポジションを任されると考えられる。シーズン終盤に向けて、いよいよ伊藤がフル稼働することになりそうだ。

板倉滉はボルシアMGで“不動のセンターバック”となり、ケガで欠場した19節ボーフム戦を除いて開幕から先発フル出場を続けている。予測能力に優れ、まずはポジショニングがいい。前に出て相手選手よりも先にボールへアプローチする守備ができて、体幹も強くて接触プレイでバランスを崩さない。足元の技術力も高く、正確なボールコントロール、精度の高いパスで攻撃の起点にもなれる。

 今季は2節ボーフム戦、13節ドルトムント戦、15節ホッフェンハイム戦などで現地メディア選出のベストイレブンに選出されている。とくに、ドルトムント戦はニコ・エルベディとセンターバックコンビを組み、うまくラインをコントロール。この時点で公式戦10得点だったギニア代表のセール・ギラシを厳しくマークし、自由にプレイさせなかった。

 板倉とボルシアMGの契約は26年6月まで。今年に入ってクラブは契約延長を打診したが、その後に期間が延長されたという情報はない。そうなると、今夏に移籍金を残して新天地へ移るのが濃厚で、オフシーズンの動向が注目される。もちろん、現在9位のボルシアMGがここから勝点を積み上げ、CL出場権を得るようなことがあれば残留という決断もあるだろう。

 今冬にはPSVアイントホーフェンが獲得に動いているという話があった。過去にはドイツ国内の4つのクラブが狙っているというニュースが出たときもある。板倉はもはや可能性や将来性で獲得される選手ではなく、すでに実績十分で即戦力だと考えられている。現在、日本ナンバーワンのサムライ・センターバックだと言える。

菅原の1G1Aは印象的 毎熊はELでも活躍中

菅原の1G1Aは印象的 毎熊はELでも活躍中

クリーンシートに抑えた第21節ヴィレムII戦の毎熊のプレイは「完璧な守備」と讃えられた photo/Getty Images

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 菅原由勢がプレイするサウサンプトンは、プレミアリーグで最下位に沈んでいる。シーズン中に監督交代があるなか試合によって3バック、4バックを使いわけてきたが、菅原は3バックなら中盤の右サイド、4バックなら右サイドバックを基本に、3バックのときにセンターバックを務めた試合もあった。試行錯誤するチームのなかで、変化する役割をしっかりと汲み取ったプレイを続けている。

 振り返れば、菅原は開幕戦から存在感があった。ニューカッスルを相手に中盤右サイドで先発し、ボールタッチは多くなかったが相手陣内に攻め込み、鋭いクロスを入れたシーンがあった。長短のパス精度も高く、菅原がボールを触るとサウサンプトンはゴール前までボールを運べるという印象も受けた。前半45分で交代となったが、試合後に「なぜ代えた?」という意見が出る采配だった。

 3節ブレントフォード戦では移籍後初ゴールを奪っている。試合終盤に相手PA内まで攻撃参加し、アダム・ララーナがフワッと落としたボールを左足アウトサイドボレーでゴールに叩き込み、得点力があるところを示している。

今季、サウサンプトンはここまで2勝となっているが、初勝利をもたらしたのも菅原だ。10節エヴァートン戦の85分、右サイドを攻撃参加した菅原にボールが入る。ちょんちょんと軽いタッチでボールを運びながらゴール前を確認すると、菅原は意表を突くグラウンダーのクロスを折り返した。誰もが「エッ」と思ったなか、左サイドから全力で走り込んできたアダム・アームストロング(その後に移籍)がダイレクトで合わせて決勝点が生まれた。

いまのところ、この瞬間、この勝利がサウサンプトンにとって今季最大のハイライトとなっている。それを生んだのが、79分から交代出場した菅原だった。チームは苦戦を強いられ、菅原もいろいろな役割を与えられているが、そうしたなかでもキラリと光る印象深いプレイを見せている。

同じ右サイドを主戦場とするAZの毎熊晟矢は、がっちりとポジションを確保し、エールディヴィジ、ELで試合出場を重ねている。無尽蔵のスタミナを持ち、最後まで足を動かして戦うことができる。[4-2-3-1]の右サイドバックが定位置となるがプレイエリアが広く、各方面に顔を出す。もともとはFWだったので攻撃的な能力が高く、相手をかわす力、突破力、さらには得点力もある。

真価が発揮されたのはELで、ここまで2得点1アシストでチームをラウンド16へと導いている。リーグフェーズ6節のルドゴレツ戦では「なぜそこに?」というポジションに現れ、右サイドからのクロスに左足で合わせて初ゴールをマーク。16強をかけたガラタサライとのプレイオフ第2戦でも積極的にPA内へ攻撃参加し、相手クリアが足に当たってゴールになるというシーンを生んでいる。

攻撃面の良さとともに、守備での強さが見られたのがラウンド16第1戦のトッテナム戦だ。同サイドのソン・フンミンに対して粘り強く、素早くマークにいくことで仕事をさせず、1-0での勝利に貢献した。現代のサイドバックには攻撃力が求められるが、ベースとなる守備力がなければ監督は使いにくい。攻守に献身的な毎熊はマールテン・マルテンス監督から信頼を得ており、代えのきかない右サイドバックとして確固たる地位を築いている。

毎熊は期限付き移籍→買取りという流れではなく、24年6月にC大阪から完全移籍でAZに加わっている。能力を正しく評価してくれるチームに加入し、しっかりとパフォーマンスで期待に応えている。両者は28年夏までの4年契約を結んでいる。昨季までプレイしていた菅原と同じく、毎熊もAZに大きな移籍金を残すことになりそうだ。

サン・ジロワーズを支える町田 鈴木はパルマの守護神に

サン・ジロワーズを支える町田 鈴木はパルマの守護神に

ビッグセーブも多い鈴木。ローマ戦ではゴールライン上ギリギリでゴールを阻止 photo/Getty Images

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 身長190センチで左利きのセンターバックであるユニオン・サン・ジロワーズの町田浩樹は、複数のビッグクラブがリストアップしている移籍市場での目玉選手のひとりだ。昨年のシーズンオフにはトッテナム、今冬にはフェネルバフチェの名前があがるなど、市場が開くたびに動向が注目される状態だ。

 ユニオン・サン・ジロワーズは堅守を誇るチームで、ジュピラー・プロ・リーグで29試合23失点となっているが、これはリーグ最少だ。センターバックとして25試合に出場する町田の貢献も大きく、チームは上位6チームで争うプレイオフ1出場圏内の4位をキープしている。

 町田は身体のサイズがあって競り合いに強いのはもちろん、危機察知能力が高くスピードもあるためスペースに出されたボールに相手より早く追いつく。プレスをかけられても正確なボールタッチでかわす高い技術力があり、最終ラインからビルドアップできる。加えて精度の高いフィードも魅力で、セーフティなパスではなく勝負する縦パスを前線へ送ることもできる。

 今季のユニオン・サン・ジロワーズはELで16強をかけたプレイオフに進み、アヤックスと対戦した。実力伯仲の両者の対戦は混戦となり、第2戦を終えて1勝1敗、得失点も並んで延長戦に突入した。この一戦に町田は4バックの左サイドバックで先発し、120分間フル出場。チームは延長戦で敗れたが、欧州のビッグゲームを経験することでまた大きな財産を得ている。数々の先人たちに続いて、町田もベルギーリーグからステップアップとなる移籍を果たすことが期待される。

 鈴木彩艶は昨季オフに一足早くシント・トロイデンからパルマに移籍し、開幕のフィオレンティーナ戦から正GKを務め、出場停止だった1試合を除いて先発フル出場を続けている。どんなピンチにも表情を崩さず、慌てる様子がない。チームの安定は守備から、守備の安定はGKからだとすれば、鈴木の存在はパルマに落ち着きをもたらしている。

 年明けの1月6日に開催された19節トリノとのアウェイゲームでは、前半にゴール正面の至近距離からフリーでヘディングシュートを浴びるシーンがあった。これに対して鋭く反応し、左手1本でかきだしてゴールを許さなかった。このプレイも含めて安定したパフォーマンスを披露し、0-0で終わった一戦でマン・オブ・ザ・マッチに輝いている。

浦和在籍時にマンチェスター・ユナイテッドが獲得に動いたように、早い段階で鈴木は各国のスカウティングから注目されていた。そうしたなか、シント・トロイデン→パルマと渡り歩き、試合に出られる環境に身を置いてきた。パルマでの活躍により、評価はさらに高まっている。イングランドのメディアによれば、エデルソンの後釜としてマンチェスター・シティがリストアップしているとされている。さらには、マヌエル・ノイアーを擁するバイエルンも熱視線を送っているようだ。鈴木はシュートセーブだけでなくビルドアップや正確なフィードにも長けており、現代のビッグクラブで守護神を務めるだけの資質をたしかに有している。

 サムライ・ブルーの守護神でもある鈴木は、まだ22歳。長くゴールマウスを守れる良質なゴールキーパーは、どこのクラブもほしい人気銘柄だ。欧州でのキャリアはまだはじまったばかり。今後にどんなクラブでプレイしても不思議はない。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD303号、3月15日配信の記事より転載

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