バイエルン、レアルの逆転劇はある!? CL準々決勝注目の2試合、勝ち抜け大予想

 新フォーマットで始まったUEFAチャンピオンズリーグも準々決勝を迎え、1stレグが終了した。やはり前評判通りにはいかないのが、この大会だ。バイエルンはインテルに1-2と敗れ、アーセナルは王者レアル・マドリードに3-0と勝利した。
 しかし、それをまたひっくり返すような予想外のことが起こるのが、決勝ラウンドの2ndレグである。まさかこんなことが……という大逆転劇を、我々はCLで何度も目撃してきた。今回も驚きの逆転劇が起こるのだろうか。2ndレグ直前のこのタイミングで、注目の2試合をレビューしてみたい。

“無失点8回”の堅守をバイエルンは破れるか

“無失点8回”の堅守をバイエルンは破れるか

決勝点を決め、喜びのあまりシャツを脱ぎ捨てたフラッテージ。敵地で大きな勝利を手に入れた Photo/Getty Images

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 ホームゲームだっただけに、バイエルンにとっては痛い敗戦だ。1stレグでは前半早々から押し込んではいたものの、38分にラウタロ・マルティネスにテクニカルなアウトサイドのシュートを叩き込まれ、先制を許してしまう。後半にさらに攻勢を強めるなか、85分に途中出場のトーマス・ミュラーがコンラッド・ライマーの浮き球のクロスに反応しようやく同点弾を沈めるが、直後にダビデ・フラッテージの決勝弾を浴びて、敗れてしまった。

 ボールポゼッションとハイプレスから好機も作り出していたが、決定機を決められなかったことが悔やまれる。特にハリー・ケインは26分にマイケル・オリーセからの絶好のお膳立てを外してしまい、これを決めきれなかったことが結果的に大きく響いてしまった。

 バイエルンは怪我人の多さに悩まされており、特に攻撃の局面ではジャマル・ムシアラを欠いたことも響いたかもしれない。代役をラファエル・ゲレイロが務め、チャンスにも絡んでいたが、やはりあの狭い局面をものともしないドリブルに頼れないのは痛い。
 守備陣にも守護神のマヌエル・ノイアーをはじめ、ダヨ・ウパメカノ、アルフォンソ・デイビス、そして伊藤洋輝と離脱者が続出しているため、このチーム状況も2ndレグに大きく影を落としている。

 ところで、インテル×バイエルンといえば09-10シーズンのCL決勝が思い出される。ジョゼ・モウリーニョ率いるインテルと、ルイ・ファン・ハール率いるバイエルンの対決は、前半にクリアボールを巧みにつないだインテルがディエゴ・ミリートのゴールによって先制。後半はアリエン・ロッベンを中心にバイエルンが懸命に攻めるも、カウンターから失点。インテルが2-0と制したゲームだった。1stレグでビハインドを負ったバイエルンは、この決勝戦の後半のようなゲームを強いられる可能性が考えられる。このときバイエルンはフランク・リベリを欠いていたが、それもムシアラがいない現在のバイエルンの状況とダブって見える。

 バイエルンとしては、敵地ジュゼッペ・メアッツァで試合開始から前がかりにいかざるを得ない。しかし、それはインテルの土俵で戦うことを意味する。インテルはもともとハイプレスで追い回すようなチームではなく、どっしり構えてある程度相手を引き込んだところで、苛烈なミドルプレスでボールを回収しカウンターにつなげていく戦い方を得意とする。最終ラインも岩のように堅く、バイエルンは1stレグと同じようになかなかこじ開けられない時間を過ごすことになるだろう。なにせ今季、インテルはCLの舞台で8度のクリーンシートを記録しているチームだ。今大会での失点数はわずかに「3」。いくらバイエルンといえど、インテルを相手にビハインドをひっくり返すのは並大抵ではない。

 それを実現する神通力をもった選手がいるとすれば、ミュラーかもしれない。今季限りで退団を表明しているこの大ベテランは1stレグでもゴールをこじ開けたように、チームに大きなものをもたらしてくれる。ピッチ上の監督ともいうべきミュラーがチームを引っ張ることができれば、インテルの堅守に穴を開ける可能性はある。

 もちろんインテルも両ウイングバックが推進力をみせる、マルクス・テュラムがボールを収める、ラウタロが裏抜けを狙うなどでバイエルンの裏を常に突き続けなければならない。全力で攻撃にくるバイエルンを相手にただ受け続けているだけでは厳しい展開になる。しかし、やはりインテルがホームで2失点することは考えにくく、0-0あるいは1-1でインテル勝ち抜けというのが真っ当な予想だろうか。バイエルンがもしひっくり返すようなことがあれば、やはりCLはわからないという一例をまたも増やすことになり、そんな展開にも期待したいところだが。

まさかの大勝挙げたアーセナル しかし“ベルナベウのレアル”は怖い

まさかの大勝挙げたアーセナル しかし“ベルナベウのレアル”は怖い

誰もがアッと驚いたライスの“神FK”。CL決勝ラウンドでFKから2ゴールを記録した初めてのケースとなった Photo/Getty Images

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 試合前は、今のアーセナルではレアルに勝てないだろうという予想が大半だったと思う。カイ・ハフェルツやガブリエウ・ジェズスらCFの選手を欠き、代役はMFのミケル・メリーノ。守備の要であったガブリエウ・マガリャンイスもおらず、エース格のブカヨ・サカも長期離脱から戻ったばかり。昨季王者相手には分が悪いと思われた。かつて白い巨人を破った経験のあるレジェンドのティエリ・アンリは「勝てないと思うなら家にいろ」「やれると信じろ」と後輩たちに檄を飛ばしていた。

 ところが、試合が始まれば圧倒したのはアーセナルだ。サカが右サイドを面白いように切り裂き、デクラン・ライスは幾度もハーフスペースに顔を出してティボー・クルトワを脅かした。ライスは文句のつけようもない完璧なFKを2発も決めてみせ、さらにメリーノが追加点まで奪ってしまった。アーセナルはシュート12本を放ったが、そのうちの11本が枠をとらえた。クルトワがビッグセーブ連発で凌いでいたが、試合後にジュード・ベリンガムは「3点で済んで幸運だった」「僕らはまったく及ばなかった」と完敗を認めていた。

 レアルはプレスが緩かった、というか前線での守備はほとんどなかった。かといってガチガチのブロックを形成するわけでもなく、アーセナルにとってはむしろ与しやすい相手に見えた。時折ヴィニシウス・ジュニオールやキリアン・ムバッペが裏を突いていくものの、シュート精度を欠きダビド・ラジャを脅かすには至らなかった。のらりくらりとボールを回し、セットプレイのたびに時間を使おうとするなど試合を塩漬けにしてしまおうという意図が透けて見えたが、そんなゲームプランもライスの目の覚めるような一撃が粉々に砕いてしまった。試合終盤にはエドゥアルド・カマヴィンガの退場という余計なオマケも付き、レアルはロンドンで大敗を喫してしまった。

 3点という大きなリードをもって、サンティアゴ・ベルナベウに乗り込むことになったアーセナル。この結果から、もう勝負は決まったと見る向きもあるようだ。しかし、“ベルナベウのレアル”は別物である。

 15-16シーズンの準々決勝ヴォルフスブルク戦では1stレグを0-2と落としたが、ホームで迎えた2ndレグでクリスティアーノ・ロナウドが大爆発。ハットトリックを記録して試合をひっくり返している。

 21-22シーズンのパリ・サンジェルマン戦でも1stレグを0-1と落としながら、2ndレグで3-1とひっくり返した。こちらはカリム・ベンゼマがハットトリックを記録している。また、同シーズンの準決勝マンチェスター・シティ戦は1stレグを3-4と撃ち合いの末に落としたが、ベルナベウで迎えた2ndレグでは3-1と勝利した。

 しかも、恐ろしいのはその勝ち方だ。シティ戦では73分にリヤド・マフレズに先制され、一時アグリゲートスコア3-5とされている。そのまま90分まで試合は進んでおり、誰もがシティの決勝進出を確信した。ところが90分にロドリゴが1点を返すと、その1分後のアディショナルタイム+1分にもロドリゴがゴール。シティを延長戦に引きずり込むと、95分にベンゼマがPKを沈め、これが決勝点となった。“ベルナベウのレアル”は、こんな勝ち方ができるチームなのだ。

 1stレグ終了の時点でレアルが3点のビハインドを負ったのは過去に6度。そのうち3度ひっくり返している。しかしいずれも遠い過去の話で、もっとも最近の3点差のケースは12-13シーズンのドルトムント戦だが、このときはベンゼマ、セルヒオ・ラモスのゴールで2点までは返したものの、あと1点が届かず敗れている。

 『Opta』が算出したレアル準決勝進出の可能性はわずか4%。アーセナル同様にレアルにも多くの怪我人が出ており、フェデリコ・バルベルデを右サイドバックに回さざるを得なくなっている。状況はきわめて厳しい。

 鍵はカルロ・アンチェロッティ監督の前線のチョイスになりそうだ。あまり守備をしないヴィニシウス、ムバッペの同時起用は、連動したコレクティブな攻撃を展開するアーセナル相手では不利に働くことが1stレグでわかってしまった。また、ベリンガムをサイドに追いやることは今季あまり良い結果を生んでいない。思い切ってヴィニシウスを外すなどの決断が必要かもしれない。

 中盤の人選も悩ましい。前述の退場でカマヴィンガが出場停止。オーレリアン・チュアメニが帰ってくるが、ルカ・モドリッチは後半の衰えが顕著になってきており、『AS』によればダニ・セバージョスの出場も怪しい。ブラヒム・ディアスを中盤で使うか、バルベルデを中盤に戻して右SBはルーカス・バスケスでいくのか……。

 後者であればかなり攻撃的な布陣といえるが、対するアーセナルの堅守も相当なもの。何せプレミアリーグでもっとも失点の少ないチームなのだから、さすがに一筋縄では崩せない。しかも今季のアーセナルはエヴァートンのような大きく引いた相手には苦戦しているが、前に出てくる相手に対しては強い傾向がある。2月のマンチェスター・シティ戦では5-1と大勝しているほどであり、レアルが前に出ざるを得ないという状況はアーセナルにとってきわめて有利といえる。アーセナルからすれば、連動したハイプレスと素早いブロック形成といういつものタスクをいつも通りにやるだけだ。

 よくて2-0レアル、悪ければ逆に0-2くらいでアーセナルというのもありうる。いずれにせよ準決勝に進むのは今回ばかりはアーセナルだろう。しかしそれでも何か起こすかもしれないと思わせるのがレアルの強さであり、ベリンガムの言う「魔法の夜」が現実となる可能性をどこよりも秘めているのが恐ろしい。アーセナルは最後まで油断しないことが肝要だ。

文/前田 亮

※電子マガジンtheWORLD304号、4月15日配信の記事より転載

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