ーー今季から正式に「RB大宮アルディージャ」となりました。新たなスタートを切るにあたり、原さんや長澤監督、スタッフの皆さんで1週間ほど欧州へ視察に行かれたそうですね。
「そうです。まずザルツブルクに行って、チャンピオンズリーグのザルツブルク×パリ・サンジェルマンを見ました。ザルツブルクにはリーフェリングという若手のチームがあるんですが、その練習場なども見せていただきました。そのあとミュンヘンにある本拠地へ行きました。そこにはユルゲン・クロップ(グローバルサッカー部門責任者)や、マリオ・ゴメス(テクニカルダイレクター)などが常駐しているんです。そこはまさにスペシャリストの集まりという感じで、スポーツサイエンスの専門家、データアナリスト、ゴールキーピングの専門家などさまざまな人たちが集まっていました。その後ライプツィヒにも行きました」
ーー“RB流”のやり方を学んでこられた、ということですね。
「本当に、授業を受けに行ったという感じでした。ヘッド・オブ・スポーツサイエンスというところは、いわゆるデータを集めるためのところなんですけど、GPSなどもこれまで使っていた機器でなく、すべて自分たちと同じものを使えというんです。いや予算を取っていないよと言うと、それは自分たちが出すからと。私たちは私たちで(以前から)やっていたんですけど、基準値が一緒にならないとデータを取っても意味がないからと。そういうふうにすべてが徹底されたやり方を私たちも学んで、まあとにかく濃い1週間でしたね」
ーー印象に残ったこと、面白いと思ったことを教えていただいてもよろしいですか。
「特に育成へのこだわりだとか、投資の仕方だとか、そのための施設とか。想像以上にすべてが凄かったです。『我々は本当に育成にはしっかり投資しますよ』という姿勢が、施設の作りなどすべてに表れているんです。例えばライプツィヒは、練習場がトップのチームもアカデミーもすべて同じ場所にあって、扉一枚隔ててこっちはトップ、こっちはアカデミーというふうになっているんです。アカデミー側からトップの方を見ると、トップの選手たちがこっちを向いて自転車を漕いでいるのが見える。アカデミーの選手からしたら、どうやったらこの扉の向こうに行けるか、と考えるわけです。そういう、うまく刺激を与えるような作りになっているんですね。すべてに筋が通っているなあ、と思いました」
ーー確かに、モチベーションを与えるという意味ですごく刺激になりますね。
「他にもザルツブルクにはAPC(アスリート・パフォーマンス・センター)というのがあります。そこは近代的な建物じゃなくて、広い牧草地みたいなところにある昔の小屋で、古い外観を残して、中だけを近代的に改造してあるんです。サッカーだけでなくレッドブルが支援するすべてのアスリートがそこを利用できる。専属のドクターとか、カウンセラーもいるんですね。選手が怪我をしたりすると、気が滅入ったりするじゃないですか。そういうときにそこに帰ってきて、リラックスしてリハビリに専念できるようになっている。徹底的にやっているなあという感じでしたね」
ーーTDのマリオ・ゴメスさんがおっしゃるには、RBのチームというのはアグレッシブで、インテンシティが高くて、ハードワークするチームだと。そういうフィロソフィーを各チームに共有しているんだとのことでしたが、そういった部分も学んでこられたわけですね。
「そうです。そういうものを共有するために、講義を受けたような感じでした。やはりレッドブルはエナジードリンクだし、チャンスがあればまずまっすぐにゴールを目指す。サッカー自体もアグレッシブで、エネルギーが湧き出してくるような、そういう姿勢はすごく大事にしていますね。なにしろ『もう走れないというのだけはやめてくれ』と言われていますから。もちろんただ走ればいいとか、前に来ればいいというわけではないし、攻撃だけじゃなく守備の部分でもそういうアグレッシブさは求められている。向こうの指導者からもそういう点を刷り込まれたというか、そういった面でも大事な1週間だったと思います」
ーーそうやって原さんたちが学んでこられたことを、また選手たち一人一人に伝えていくというのは、なかなか難しいことなのかなと思うのですが。
「それもそうですが、たとえば新体制発表会のやり方も、今まで大宮がやってきたこととはまったく違う度肝を抜くような演出を見せることができたり、もうすべてが違うんだというところは感じてもらっているんじゃないでしょうか。姿勢とかそういう部分はできるだけ私たちも選手に伝えていくようにしているし、いろいろなものが同じ方向に向けて動き出している、そういうことを感じてもらっていると思います」
リスクヘッジを第一に考えがちな日本企業のやり方と違って「失敗してもいいから、とにかく挑戦する」というのがレッドブルのやり方。意思決定も早くなり、とにかくスピード感が違うと原氏は語る。同時に、これまで大宮が築いたものに対して、意外なほどリスペクトがあったとも語っていた。本国から派遣されてくるスペシャリストたちも、「大宮とはどういう街で、これまでどんなやり方をやっていて、どういう組織なのか、それを学びにきた」という姿勢だったという。意外なほどオープンな目線で、彼らがこれまで積み上げてきた知見から改善点があれば指摘をくれる。そして、可能性があると思ったことには思い切った投資を行う。そういった姿勢も、大宮に新しい風を吹かせてくれているのだろう。